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[SSS17-16] 地表地震断層の現地調査データと遠地地震波を用いた震源過程解析: 2016年熊本地震への適用
キーワード:ABICを用いたジョイントインバージョン、現地調査データ、2016年熊本地震
遠地実体波を用いたインバージョン解析は, 震源過程の安定した解析手法として多くの地震に対して適用されてきた. しかし, 波源が地表に近づくにつれ, 遠地実体波として観測される波に含まれる直達波と地表からの反射波の走時差は小さくなるため, 地表付近で継続時間の長い断層滑りが発生した場合, その滑りに対するシグナルは小さくなる. 結果として, 遠地実体波解析では地表付近の断層滑りを安定・高精度に求めることは難しい. 一方で, 表層での断層滑りは, 地震後に生じた地表地震断層に見られる相対変位を測定することで, 高精度に観測することができる. 現地調査により地表での断層のずれが多くの地震に対して調べられていることを踏まえると, 遠地実体波と現地調査データを統合した解析によって, 近年発達したInSAR・GPSなどによる観測データが乏しい過去の地震の震源過程を推定することが可能となる. 本研究では, 2016年熊本地震 (MJMA 7.3) に対し, 遠地実体波と地表地震断層の現地調査データを組み合わせたジョイントインバージョン解析を行い, その有用性を検討した.
解析にはGlobal Seismographic Network (GSN) の27地点で観測された遠地実体波P波の上下動成分および, 国内14大学・機関の活断層研究者により現地測定された, 本震発生時に露出した地表地震断層の408地点での相対変位量 (Kumahara et al. 2016, JpGU) を使用した. 現地調査データが持つ誤差は, 各測定対象 (水路, 畑の畦でのずれなど) の明瞭さに依存するため, その分散を一意に定めることが難しい. そこで, 現地調査データと遠地実体波の統合に際して, データ間の相対的重み・先験的情報の分散を赤池ベイズ情報量規準 (ABIC) を用いて決定した. 断層面は, 震源メカニズム解・余震分布・地表地震断層を参考として, 日奈久・布田川断層帯に沿った平面断層モデル (走向234°, 傾斜64°) を仮定した. ここで, 両断層帯の接合部を境に震源過程の時空間分布がどのように変化するかを詳細に記述するため, 断層モデルを2 km × 2 km の小断層に離散化し, 各小断層での震源時間関数を表現したBスプライン関数を0.3秒間隔で49個配置した. 現地調査データは断層モデル最上部の小断層に投影し, 解析に使用した.
断層滑りの時空間分布から, 各時間ステップでの主要な破壊は破壊開始後8秒まで, 主に日奈久断層領域で見られ, この断層領域で主に右横ずれ滑りが卓越していることがわかる. また, 破壊開始9秒後以降, 主要な破壊は布田川断層領域へと移り, 主に正断層を伴う右横ずれ滑りを生じながら次第に地表へ伝播したのち, 破壊開始およそ15 秒後に終息する. 最終滑り分布からは, 震源から北東10 km, 深さ10kmの布田川断層領域で最大3 mの滑りが見られ, 日奈久断層領域全体で右横ずれ, 布田川断層領域全体で正断層を伴う右横ずれが確認できる.
遠地実体波のみを用いた結果と現地調査データを統合した結果で比較すると, 地表付近の断層滑りの時空間分布に顕著な違いが見られる. 1 km以浅に注目すると, 遠地実体波のみの解析では破壊開始後7秒あたりで滑りが発生し, 破壊開始後15秒にかけて布田川・日奈久両断層領域で常に滑りが生じているのに比べ, 統合解析では, 滑りの発生時刻が破壊開始後10秒あたりと遅く, 滑り領域は時間とともに布田川断層領域へ遷移する様子がより明瞭に見える. 統合解析から予測される理論波形は観測波形の特徴をよく捉えており, 現地調査データを解析に利用したことにより, 地表付近の最終滑り量・方向は遠地実体波のみの解析結果に比べ, 地表地震断層でのずれの量・方向とより調和している. 統合解析で見られる布田川断層領域表層への破壊伝播経路, 地表付近での布田川断層への破壊の進展および, 最終滑りの空間分布パタ–ン・最大滑りが見られた深さは, 詳細な断層形状モデルをもとに行われた他の強震動地震波解析の結果や, 現地調査データと同様に地表付近での断層滑りの情報を有するデータであるInSARデータを用いた解析結果と整合的である. 本研究の結果は, 遠地実体波に加え現地調査データを解析に利用することで, 1枚の単純な平面断層モデルでも精度の良い断層滑り分布が得られることを示している.
解析にはGlobal Seismographic Network (GSN) の27地点で観測された遠地実体波P波の上下動成分および, 国内14大学・機関の活断層研究者により現地測定された, 本震発生時に露出した地表地震断層の408地点での相対変位量 (Kumahara et al. 2016, JpGU) を使用した. 現地調査データが持つ誤差は, 各測定対象 (水路, 畑の畦でのずれなど) の明瞭さに依存するため, その分散を一意に定めることが難しい. そこで, 現地調査データと遠地実体波の統合に際して, データ間の相対的重み・先験的情報の分散を赤池ベイズ情報量規準 (ABIC) を用いて決定した. 断層面は, 震源メカニズム解・余震分布・地表地震断層を参考として, 日奈久・布田川断層帯に沿った平面断層モデル (走向234°, 傾斜64°) を仮定した. ここで, 両断層帯の接合部を境に震源過程の時空間分布がどのように変化するかを詳細に記述するため, 断層モデルを2 km × 2 km の小断層に離散化し, 各小断層での震源時間関数を表現したBスプライン関数を0.3秒間隔で49個配置した. 現地調査データは断層モデル最上部の小断層に投影し, 解析に使用した.
断層滑りの時空間分布から, 各時間ステップでの主要な破壊は破壊開始後8秒まで, 主に日奈久断層領域で見られ, この断層領域で主に右横ずれ滑りが卓越していることがわかる. また, 破壊開始9秒後以降, 主要な破壊は布田川断層領域へと移り, 主に正断層を伴う右横ずれ滑りを生じながら次第に地表へ伝播したのち, 破壊開始およそ15 秒後に終息する. 最終滑り分布からは, 震源から北東10 km, 深さ10kmの布田川断層領域で最大3 mの滑りが見られ, 日奈久断層領域全体で右横ずれ, 布田川断層領域全体で正断層を伴う右横ずれが確認できる.
遠地実体波のみを用いた結果と現地調査データを統合した結果で比較すると, 地表付近の断層滑りの時空間分布に顕著な違いが見られる. 1 km以浅に注目すると, 遠地実体波のみの解析では破壊開始後7秒あたりで滑りが発生し, 破壊開始後15秒にかけて布田川・日奈久両断層領域で常に滑りが生じているのに比べ, 統合解析では, 滑りの発生時刻が破壊開始後10秒あたりと遅く, 滑り領域は時間とともに布田川断層領域へ遷移する様子がより明瞭に見える. 統合解析から予測される理論波形は観測波形の特徴をよく捉えており, 現地調査データを解析に利用したことにより, 地表付近の最終滑り量・方向は遠地実体波のみの解析結果に比べ, 地表地震断層でのずれの量・方向とより調和している. 統合解析で見られる布田川断層領域表層への破壊伝播経路, 地表付近での布田川断層への破壊の進展および, 最終滑りの空間分布パタ–ン・最大滑りが見られた深さは, 詳細な断層形状モデルをもとに行われた他の強震動地震波解析の結果や, 現地調査データと同様に地表付近での断層滑りの情報を有するデータであるInSARデータを用いた解析結果と整合的である. 本研究の結果は, 遠地実体波に加え現地調査データを解析に利用することで, 1枚の単純な平面断層モデルでも精度の良い断層滑り分布が得られることを示している.