11:00 〜 11:18
[SSS17-20] 地震学的観測および地質学的観察に基づいた西南日本における微動発生領域の厚さ
★招待講演
キーワード:微動、低周波地震、槙峰メランジュ、沈み込み帯
近年の研究により,世界各地の沈み込み帯に発生する微動やスロースリップといった一連のゆっくり地震はプレート境界で発生するせん断すべり現象であることがわかって来た(e.g. Ide et al., 2007).地震波の解析から推定される微動の分布は震源決定誤差を含み,依然として深さ方向に数kmの幅を持っているが,地震学的な取り扱いの上ではこれらの発生領域は厚さを持たない面と見なされることが多い.一方で,最近の地質学的観察からは過去の微動活動の痕跡ではないかと考えられる地質記録が見つかっており,微動発生領域が数十mの厚みを持つことが提案されている(e.g. Ujiie et al., 2016, AGU Fall meeting).微動が実際にどの程度の厚さの範囲で発生しているかを把握することは,微動を含むゆっくり地震の発生メカニズムを考える上で極めて重要である.本研究では,地震学・地質学双方のアプローチからこの微動発生領域の厚さの評価を試みた.
地震学的なアプローチとして,西南日本の四国地域に発生する深部微動の震源分布の厚みに着目し,微動震源の代表として微動を構成する低周波地震の震源分布を詳細に調べた.複数観測点の波形の相互相関係数の総和(NCC)に基づいたNCC震源決定法(Ohta and Ide, 2011)を四国地域のHi-net速度波形データに適用し,2004-2011年に気象庁によって検出された低周波地震およそ4000の内,2450の低周波地震の精密震源を得た.求まった震源分布は深さ方向に集中しており,沈み込むフィリピン海プレートの海洋モホ面形状(Shiomi et al., 2008)と調和的な傾きを持つ.我々はさらに,この震源分布に対してクラスター毎に最小二乗による多項式曲面近似を行い,震源と曲面との鉛直方向の偏差から震源分布の厚さを評価した.厚さはクラスターによって異なるが,およそ50 mから1700 mの範囲に求まった.
地質学的なアプローチとして,九州東部に位置する上部白亜系四万十付加体の槙峰メランジュに発達する石英充填せん断脈(quartz-filled shear vein)の分布を調べた.槙峰メランジュは過去の沈み込みプレート境界を構成していたと考えられており,すべりと流体移動を起こした断層がshear veinとして数多く保存されている.また,shear veinが集中する領域には塑性流動を受けて変形した引張性鉱物脈(extension vein)も見られ、流体移動を伴うせん断破壊と塑性変形が共存していたと考えられる.我々はshear veinが微動を発生させた断層であると考え,shear veinが集中する領域を微動の発生領域と見なして厚さを計測し,veinの数と長さの分布を調べた.その結果,劈開などの面構造に直交する方向に測ったshear veinの集中域の厚さは約60 mであった.集中域におけるveinの総数は1147で,shear veinの他に面構造に平行なextension veinも認められた.またshear veinの長さは1〜7 mで大部分が1 m付近に分布していた.
地質学的に求められた厚さ(60 m)は,地震学的に求められた厚さ(50-1700 m)の範囲と調和的であり,このことはshear veinの集中する領域が微動発生領域であることを示唆する.shear veinの長さ分布(〜1 m)は,地震学的に観測される微動やその他のゆっくり地震から想定される断層サイズ(>100 m)より小さいが,領域全体の変形により層内の多数の小断層がすべることでゆっくり地震を構成していると考えると説明可能である.また,面構造に平行なextension veinの存在は間隙水圧が最小主応力より高いことを示しており,今後ゆっくり地震の震源メカニズムを評価する上で開口のメカニズムを考慮する必要があることを示唆している.
地震学的なアプローチとして,西南日本の四国地域に発生する深部微動の震源分布の厚みに着目し,微動震源の代表として微動を構成する低周波地震の震源分布を詳細に調べた.複数観測点の波形の相互相関係数の総和(NCC)に基づいたNCC震源決定法(Ohta and Ide, 2011)を四国地域のHi-net速度波形データに適用し,2004-2011年に気象庁によって検出された低周波地震およそ4000の内,2450の低周波地震の精密震源を得た.求まった震源分布は深さ方向に集中しており,沈み込むフィリピン海プレートの海洋モホ面形状(Shiomi et al., 2008)と調和的な傾きを持つ.我々はさらに,この震源分布に対してクラスター毎に最小二乗による多項式曲面近似を行い,震源と曲面との鉛直方向の偏差から震源分布の厚さを評価した.厚さはクラスターによって異なるが,およそ50 mから1700 mの範囲に求まった.
地質学的なアプローチとして,九州東部に位置する上部白亜系四万十付加体の槙峰メランジュに発達する石英充填せん断脈(quartz-filled shear vein)の分布を調べた.槙峰メランジュは過去の沈み込みプレート境界を構成していたと考えられており,すべりと流体移動を起こした断層がshear veinとして数多く保存されている.また,shear veinが集中する領域には塑性流動を受けて変形した引張性鉱物脈(extension vein)も見られ、流体移動を伴うせん断破壊と塑性変形が共存していたと考えられる.我々はshear veinが微動を発生させた断層であると考え,shear veinが集中する領域を微動の発生領域と見なして厚さを計測し,veinの数と長さの分布を調べた.その結果,劈開などの面構造に直交する方向に測ったshear veinの集中域の厚さは約60 mであった.集中域におけるveinの総数は1147で,shear veinの他に面構造に平行なextension veinも認められた.またshear veinの長さは1〜7 mで大部分が1 m付近に分布していた.
地質学的に求められた厚さ(60 m)は,地震学的に求められた厚さ(50-1700 m)の範囲と調和的であり,このことはshear veinの集中する領域が微動発生領域であることを示唆する.shear veinの長さ分布(〜1 m)は,地震学的に観測される微動やその他のゆっくり地震から想定される断層サイズ(>100 m)より小さいが,領域全体の変形により層内の多数の小断層がすべることでゆっくり地震を構成していると考えると説明可能である.また,面構造に平行なextension veinの存在は間隙水圧が最小主応力より高いことを示しており,今後ゆっくり地震の震源メカニズムを評価する上で開口のメカニズムを考慮する必要があることを示唆している.