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[SSS17-23] 断層岩類を用いた剪断帯の変形条件の推定:足助剪断帯の例
★招待講演
キーワード:足助剪断帯、マイロナイト、古応力解析
はじめに
足助剪断帯は愛知県豊田市足助町を中心としてNE-SW方向に約14kmにわたって発達する.剪断帯の母岩は領家帯の伊奈川花崗閃緑岩である.剪断帯には全体にカタクレーサイトが分布し,中心部の約4.5kmの範囲ではシュードタキライトやマイロナイトも分布する (酒巻ほか, 2006).線構造と非対称微小構造から推定される剪断センスは正断層成分をもつ左ずれを示す.今回,新たにマイロナイトの面構造と線構造の方向分布を利用した古応力解析を行ったので,その結果をふまえて足助剪断帯の変形条件と古応力場について検討した.
1. 足助剪断帯の運動をもたらした古応力方向の推定
マイロナイト線構造は剪断帯の変位方向と平行になると考えられており (Simpson, 1986),Wallace-Bott仮説が成り立つとすれば,剪断センスの判定ができるマイロナイトの面構造および線構造は小断層のすべりデータと同様に応力解析に利用することができる.剪断帯中のマイロナイトの面構造の姿勢はENE-WSW走向で約70° N傾斜を示し,線構造は40-50° NWに沈下を示す.Hough変換による応力逆解法 (Yamaji et al., 2006) を用いて古応力解析を行った結果,最尤解として,σ1軸の走向/沈下角が183°/63°,σ3軸の走向/沈下角が310°/14°,応力比Φ=0.56が得られた.
2. マイロナイトの変形環境の推定
マイロナイトからは動的再結晶石英の結晶格子定向配列 (LPO) パターンおよび粒度分布を利用した変形条件の推定が行われている.Z集中を示すc軸LPOパターンから300-400 °Cの変形温度が,平均粒径から110-130 MPaの差応力が推定されている (Kanai and Takagi, 2016).
3. 方解石変形双晶を用いた古応力方向,変形環境の推定
方解石変形双晶を利用するとマイロナイトと異なる手法によって古応力解析を行うことができる.シュードタキライト中の杏仁状構造を充填する方解石の変形双晶からは,σ1軸の走向/沈下角が228°/55°,σ3軸の走向/沈下角が320°/1°,Φ=0.78の最尤解が推定されている (Kanai and Takagi, 2016).変形双晶の形態から推定される双晶変形の変形温度 (Burkhard, 1993) は150-200 °Cを示し,双晶率から推定される差応力 (Yamaji, 2015) は40-80 MPaを示す.
議論とまとめ
マイロナイトと方解石変形双晶から推定された応力テンソルのミスフィット角は23.1°と比較的小さい値を示した.すなわち,変形温度,差応力や変形の規模に違いがあるにもかかわらずマイロナイトと方解石から推定された主応力軸は同様の方向を示している.このことは,方解石変形双晶のような微細変形構造からでも,数10km規模の剪断帯を形成した古応力の方向を推定できる可能性を示唆している.
伊奈川花崗閃緑岩の冷却曲線 (山崎, 2013) およびシュードタキライト中のジルコンフィッショントラック年代 (Murakami et al., 2006) と変形温度の関係から変形の時期を推定すると,マイロナイト化は約70 Ma,方解石の双晶変形は約50 Maとなる.足助剪断帯には脆性破砕したマイロナイトなど複数の変形を示唆する断層岩類が産出しているが,小剪断帯の姿勢はどの露頭でもおおむね一致しており,複数の変形時期でも古応力場はあまり変化しなかったと考えられる.すなわち足助剪断帯は,70-50 Maの間,σ3軸がNW-SEでほぼ水平,σ1軸がS~SSWに約60°沈下を示す古応力場で形成されたと考えられる.
文献
Burkhard, M., 1993, Jour. Struct. Geol., 15, 351-368.
Kanai, T. and Takagi, H., 2016, Jour. Struct. Geol., 85, 154-167.
Murakami, M., Kosler, J., Takagi, H. and Tagami, T., 2006, Tectonophysics, 424, 99-107.
酒巻秀彰・島田耕史・高木秀雄, 2006, 地質雑, 112, 519-530.
Simpson, S., 1986, Jour. Geol. Ed. 34, 246-261.
Yamaji, A., 2015, Jour. Struct. Geol., 72, 83-95.
Yamaji, A., Otsubo, M. and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980-990.
山崎 徹, 2013, 地質雑, 119, 421-431.
足助剪断帯は愛知県豊田市足助町を中心としてNE-SW方向に約14kmにわたって発達する.剪断帯の母岩は領家帯の伊奈川花崗閃緑岩である.剪断帯には全体にカタクレーサイトが分布し,中心部の約4.5kmの範囲ではシュードタキライトやマイロナイトも分布する (酒巻ほか, 2006).線構造と非対称微小構造から推定される剪断センスは正断層成分をもつ左ずれを示す.今回,新たにマイロナイトの面構造と線構造の方向分布を利用した古応力解析を行ったので,その結果をふまえて足助剪断帯の変形条件と古応力場について検討した.
1. 足助剪断帯の運動をもたらした古応力方向の推定
マイロナイト線構造は剪断帯の変位方向と平行になると考えられており (Simpson, 1986),Wallace-Bott仮説が成り立つとすれば,剪断センスの判定ができるマイロナイトの面構造および線構造は小断層のすべりデータと同様に応力解析に利用することができる.剪断帯中のマイロナイトの面構造の姿勢はENE-WSW走向で約70° N傾斜を示し,線構造は40-50° NWに沈下を示す.Hough変換による応力逆解法 (Yamaji et al., 2006) を用いて古応力解析を行った結果,最尤解として,σ1軸の走向/沈下角が183°/63°,σ3軸の走向/沈下角が310°/14°,応力比Φ=0.56が得られた.
2. マイロナイトの変形環境の推定
マイロナイトからは動的再結晶石英の結晶格子定向配列 (LPO) パターンおよび粒度分布を利用した変形条件の推定が行われている.Z集中を示すc軸LPOパターンから300-400 °Cの変形温度が,平均粒径から110-130 MPaの差応力が推定されている (Kanai and Takagi, 2016).
3. 方解石変形双晶を用いた古応力方向,変形環境の推定
方解石変形双晶を利用するとマイロナイトと異なる手法によって古応力解析を行うことができる.シュードタキライト中の杏仁状構造を充填する方解石の変形双晶からは,σ1軸の走向/沈下角が228°/55°,σ3軸の走向/沈下角が320°/1°,Φ=0.78の最尤解が推定されている (Kanai and Takagi, 2016).変形双晶の形態から推定される双晶変形の変形温度 (Burkhard, 1993) は150-200 °Cを示し,双晶率から推定される差応力 (Yamaji, 2015) は40-80 MPaを示す.
議論とまとめ
マイロナイトと方解石変形双晶から推定された応力テンソルのミスフィット角は23.1°と比較的小さい値を示した.すなわち,変形温度,差応力や変形の規模に違いがあるにもかかわらずマイロナイトと方解石から推定された主応力軸は同様の方向を示している.このことは,方解石変形双晶のような微細変形構造からでも,数10km規模の剪断帯を形成した古応力の方向を推定できる可能性を示唆している.
伊奈川花崗閃緑岩の冷却曲線 (山崎, 2013) およびシュードタキライト中のジルコンフィッショントラック年代 (Murakami et al., 2006) と変形温度の関係から変形の時期を推定すると,マイロナイト化は約70 Ma,方解石の双晶変形は約50 Maとなる.足助剪断帯には脆性破砕したマイロナイトなど複数の変形を示唆する断層岩類が産出しているが,小剪断帯の姿勢はどの露頭でもおおむね一致しており,複数の変形時期でも古応力場はあまり変化しなかったと考えられる.すなわち足助剪断帯は,70-50 Maの間,σ3軸がNW-SEでほぼ水平,σ1軸がS~SSWに約60°沈下を示す古応力場で形成されたと考えられる.
文献
Burkhard, M., 1993, Jour. Struct. Geol., 15, 351-368.
Kanai, T. and Takagi, H., 2016, Jour. Struct. Geol., 85, 154-167.
Murakami, M., Kosler, J., Takagi, H. and Tagami, T., 2006, Tectonophysics, 424, 99-107.
酒巻秀彰・島田耕史・高木秀雄, 2006, 地質雑, 112, 519-530.
Simpson, S., 1986, Jour. Geol. Ed. 34, 246-261.
Yamaji, A., 2015, Jour. Struct. Geol., 72, 83-95.
Yamaji, A., Otsubo, M. and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980-990.
山崎 徹, 2013, 地質雑, 119, 421-431.