JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS17] [JJ] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、谷川 亘(国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)

[SSS17-P02] 断層すべり分布のスケーリング則に基づいた自動遠地実体波震源過程解析から得られるすべり量分布

*藤田 健一1勝間田 明男1岩切 一宏2田中 美穂2 (1.気象庁気象研究所、2.気象庁)

キーワード:自動震源過程解析、スケーリング則、余震分布

1. はじめに
これまで、気象庁がホームページ上で解析結果を公表している遠地実体波震源過程解析の迅速化及び自動化を目指し、解析に用いる最適パラメータを決めるために必要となるプロセスについて考察を行ってきた。まず、解析に用いる小断層の大きさ及び断層面全体の大きさを断層すべり分布のスケーリング則に基づいて地震の規模に応じて設定し、多くの地震で断層面内に全破壊領域が収まることを確認した。つぎに、サンプリング間隔や基底関数の立ち上がり時間を小断層の大きさに基づいて設定し、必要以上に時空間的に細かいパラメータが与えられることによる解の不安定 (局所的に大きなすべりが得られてしまう等) をある程度回避して解析できることを確認した。さらに、そのほかのパラメータも経験的に知られている値等を用いることで、震源データ及び断層パラメータから解析に用いる全てのパラメータを設定可能であることを確認した。
今回は、これまでよりも詳細に地震の規模に応じてパラメータを設定し解析を行った (Mが0.1変わるごとに全てのパラメータを設定)。さらに、解析に使用する観測点を観測波形のS/N比や観測点の分布などから自動的に選別し、P波初動の読み取りを自動震源決定で用いられる自動検測プログラムを使用することで、遠地実体波震源過程解析の全工程を自動的に行った。今回の発表では、こうして得られた過去に世界で発生したM7.5以上の地震のすべり量分布を取りまとめ、その検証のため余震分布等との比較を行った結果を報告する。


2. 解析方法
計算プログラムはKikuchi and Kanamori [2003] の解析プログラムの一部改変を行った岩切 他 [2014] のプログラムを使用した。観測波形はIRISの広帯域地震波形を使用し、地震の規模に応じてサンプリング間隔等を設定した。震源データは国内の地震については気象庁一元化震源の値を使用し、海外の地震についてはUSGSの震源の値を使用した。断層パラメータは国内の地震については気象庁CMTの値を使用し、海外の地震についてはUGSGのW-phase Moment Tensorの値を使用した。断層面は破壊開始点を中央に設定し (地上面あるいは海底面より上に出る小断層はカット)、地震の規模に応じて小断層の大きさを設定した (小断層の数は固定)。小断層における震源時間関数は二等辺三角形の基底関数の立ち上がり時間を地震の規模に応じて設定した (基底関数の数は固定)。解析時間は破壊開始点から破壊フロントが最も端の小断層に到達するのに要する時間と小断層における破壊許容時間 (断層すべり分布のスケーリング則から得られる平均的なすべり量と経験的に知られているすべり速度から決定) の和として設定した。各小断層のグリーン関数の計算に用いる地下速度構造にはCRUST2.0とIASP91を組み合わせたモデルを与えた。時空間的なめらかさを与える拘束条件については空間的滑らかさを決める超パラメータβと時間的滑らかさを決める超パラメータαの25通りの組み合わせ (β=0.1, 0.3, 0.9, 2.7, 8.1、α=0.1, 0.3, 0.9, 2.7, 8.1) から、ABIC [Akaike [1980]] の値が最小となるβとαを設定した。最大破壊伝播速度はUSGSが解析した過去のM7.5以上の地震における平均的な破壊伝播速度 (概ね破壊開始点付近のS波速度の0.3~0.7倍) を参考に破壊開始点付近におけるS波速度の0.7倍を設定した。
なお、各パラメータを断層すべり分布のスケーリング則に基づいて設定するために用いる地震の規模については、気象庁CMTのMwやUSGSのW-phase Moment TensorのMwwよりも0.1~0.2程度大きい値とした方が良好な解析結果 (ABICが小さい) となることが多かった。このことから、MwまたはMwwの値をそれぞれ+0.0、+0.1、+0.2、+0.3とした場合の解析を行い、その中で最も1観測点あたりのABICの値が小さくなった結果を最終的な解とした。


3. すべり量分布の検証方法
(1) 断層面付近の余震分布を調べ、すべり量分布との比較を行った。
(2) 小断層上における余震の規模から推定される地震モーメントの総和を調べ、すべり量 (モーメント解放量) 分布との比較を行った。
(3) 津波波源が推定されている地震については、津波波源とすべり量分布との比較を行った。


4. 結果
全工程を自動的に行った解析で、多くの地震でその余震域内あるいは隣接した領域に破壊域が現れることが確認できた。また、規模の大きな余震は全破壊領域と接するような位置に発生する傾向があることや、余震の規模から推定される地震モーメントの総和と本震時のモーメント解放量が相補的な関係となっている事例がいくつか見られた。


謝辞:IRISの広帯域地震波形、USGSの解析データ、IASP91及びCRUST2.0の地下速度構造モデルを用いました。記して感謝致します。