JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT57] [EJ] 合成開口レーダー

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:宮城 洋介(防災科学技術研究所)、小林 祥子(玉川大学)、山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、森下 遊(国土交通省国土地理院)、座長:山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、座長:小林 祥子(玉川大学)

14:15 〜 14:30

[STT57-09] 衛星合成開口レーダ干渉による雲仙普賢岳溶岩ドームの滑落現象の面的解析

*村上 亮1 (1.国立大学法人北海道大学)

キーワード:火山、溶岩ドーム崩落、リモートセンシング、合成開口レーダー、干渉SAR、雲仙岳

1. はじめに

1990-1995年噴火において雲仙普賢岳山頂に形成された溶岩ドーム群は,急峻な斜面に厚く蓄積した火砕堆積物層に覆いかぶさるように,不安定に定置しており,その突然の崩壊の危険性に対しては,周辺自治体や住民が重大な関心を寄せている.山頂部に近い平成新山付近で実施されたGPSの繰り返し観測からは,継続する塑性変形(沈降と周囲への流動)が確認されている(例えば,高木,2002).また,第11ローブ周辺を対象とする,国土交通省による光波・GBSARによる地上観測からは,ドームの沈降や斜面に沿った東向きの移動現象が把握され,その移動速度はほぼ一定で年間約10㎝程度であることが確認されている.しかし,地上観測がカバーできる空間範囲は限られており,滑落に伴う変形が及んでいる領域の境界や,変動領域内部における速度分布の詳細には不確定性が残っており,崩壊が発生した場合のハザード予測の高精度化を困難にしている.
一方,衛星搭載SARによる干渉解析(InSAR)は,地上観測のみでは捕捉できない移動領域の空間範囲や移動量の2次元的分布を詳細に捉えることを可能とする.衛星InSARと地上観測等の多項目のデータを統合し,それぞれの特長をより生かし弱点を補完し合う解析をすることで,滑落現象のより詳細な理解が可能となる.さらに,それに基づいた数値モデルを構築して,予測精度の向上に寄与することが期待される.しかしながら,これまで,衛星InSAR結果については,断片的に報告された例はあるものの,長期間にわたって一貫して解析・検討した報告例はまだない.本研究では,雲仙普賢岳の領域が含まれるALOS/PALSARおよびALOS2/PALSAR2の利用可能なペアについてできるだけ多数の組み合わせを解析し,PalSARが運用開始した2006年以降のドーム滑動現象の空間分布の長期的推移や,2016年熊本地震の影響の有無などを検討する.


2. PalSARおよびPalSAR2の解析結果
ALOS/PALSARおよびALOS2/PALSAR2の利用可能なペアについてできるだけ多数の組み合わせを解析し,以下の知見を得た.

(1) ドームの滑動の空間パターン
観測変動領域は,少なくとも2つの変動ユニットから構成されている.より西側の変動ユニットは,平成新山にほぼ一致しており,沈降成分が卓越している.これは,高木他(2002)の結果と調和的である.一方,東側の活動ユニットの中心は,第11ローブとほぼ重なっており,地形の最大傾斜方向への滑動と考えられる.しかし,第11ローブの周囲にも変動領域が分布しており,速度は周辺に向かって減衰している.これは,滑動メカニズムが,剛体が内部形状を保ったまま平行移動する単純なブロック滑りではないことを示している.おそらく,破砕物からなる支持層にも影響を及ぼしながら,全体として流動もしくは滑動するようなメカニズムを考える必要があることを示唆していると考えられる.以上の知見は,衛星SARにより初めて明らかにされたものである.

(2) 2016年熊本地震による影響:
まず,PALSAR2の同一軌道から構成される熊本地震を挟むペアと挟まないペアを比較し,熊本地震時の強震動にトリガーされたCo-Seismicな滑動が発生していなかったことを確認した.
一方,地震による影響で,変動状態が中長期的に影響をうける可能性がある.地震前後の長期間のペアを比較して,その可能性を検証した.予稿執筆時点で,比較に使用できる地震後のペアは1ペアのみである.したがって,確定はできないものの,ドームの中央に近い部分的な領域で,滑落速度の増大が発生している可能性が示唆された.しかしながら,同じ領域のコヒーレンスにも地震前後で変化が生じている.今回検出された速度変化(具体的にはフリンジの位相変化)の解釈として,2つの可能性が残る.一つ目は,実際に加速が生じており,その結果としてコヒーレンスが低下したという解釈であり,この場合は,コヒーレンス変化も速度変化の証拠の一つと考えられる.逆に,二つ目は,コヒーレンスの低下は,別の原因で発生しており,位相として示唆された速度変化は,コヒーレンス劣化がもたらした偽像であるとする解釈である.現時点では,地震後のデータが一つしかないため,これ以上の検討はできない.さらにデータの蓄積を待って,検証する必要がある.

(2)PalSARデータを含めたより長期間(2006-2016)の変動パターンおよび速度の変化の有無:
PalSARデータの時系列解析は,処理の途上で終了していないが,概略の結果として,2006-2016間で滑動速度に大きな変化は生じていなかった可能性が高い.この結論は,地上観測の結果とも調和的である.しかし,空間パターンの変化の有無については,今後,詳細な検証が必要である.


3.課題と展望
地震により,中長期的に変動状態が影響され,例えば,変動速度に変化が生じた可能性がある.地震前後の長期間のペアを比較して,その可能性を検証した.予稿執筆時点で,比較に使用できる寺院後のペアは1ペアのみである.したがって,信頼性に制約がつくものの,ドームの中央に近い部分的な領域で,滑落速度の増大が発生している可能性が示唆された.しかしながら,同じ領域のコヒーレンスにも地震前後で変化が生じており,速度変化の可能性の指摘にとどまっている.さらにデータの蓄積を待って,検証する必要がある.また,滑動のキネマティクスを詳細に明らかにした後は,それを説明する数値モデルを構築し,予測の高精度化につなげることが重要である.