JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT57] [EJ] 合成開口レーダー

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:宮城 洋介(防災科学技術研究所)、小林 祥子(玉川大学)、山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、森下 遊(国土交通省国土地理院)、座長:山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、座長:小林 祥子(玉川大学)

14:45 〜 15:00

[STT57-11] ALOS-2のSARによってとらえられた釧路湿原の2016年の大雨による地表変位

*藤原 智1森下 遊1中埜 貴元1三浦 優司1撹上 泰亮1 (1.国土地理院)

キーワード:釧路湿原、湿原、干渉SAR、ALOS-2

1.はじめに
国土地理院では、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)のSARデータを用いて全国の地表変位の監視を行っている。監視の対象となるのは主に地震・火山活動・地すべり・地盤沈下に伴うものである。しかし、これら以外にも様々な要因によって地表の変位が発生しており、地殻変動等の検出にとってはノイズともなるので、様々な地表変位事象の形態や原因を解明することが重要である。
本報告では、2016年夏の大雨に伴う釧路湿原で発生した最大2mを超える地表変位を取り扱う。一般に、水面はレーダー電波が鏡面反射してしまうために、後方散乱が小さくなるだけではなく、風等で波が発生してしまうとSAR干渉法での干渉性が低下してしまうため、変位の検出はほとんどできない。一方、湿原では、繁茂する植物が波の発生を抑えるほか、水面―植生の2段階でレーダー電波が反射することで比較的良好な干渉性が得られることがよくあり、Wetland InSARとも呼ばれる解析対象となっている。

2.釧路湿原と2016年の大雨
釧路湿原は北海道東部の釧路川に沿って存在する我が国最大の湿原である。湿原全体に蛇行する河川が存在し、ヨシが繁茂するほか、ハンノキが散在している。こうした植生だけでなくタンチョウ等の繁殖地としても知られ、湿原の動植物のエコシステムを形成しており、特に水に関する保全とモニタリングの必要性は高い。なお、釧路湿原は釧路平野の大部分を占めており、地盤沈下の監視対象でもある。
2016年8月に発生した台風第7号、第11号、第9号は、それぞれ8月17日、21日、23日に北海道に上陸した。その後、台風第10号は、8月30日に暴風域を伴ったまま岩手県に上陸し日本海に抜けた。これらの台風等の影響で北海道では記録的な大雨となり、釧路川の岩保木(図参照)での水位観測によれば、8月後半から急激に水位が上昇し、平年に比べて1m以上高い水位が9月にかけて続くことになった。

3.SAR画像による地表変位の検出
ALOS-2のSARデータを用いて、SAR干渉法とピクセルオフセット法を用いて釧路湿原での地表変位を検出した。
(1)干渉SAR
2016年5月28日~8月6日、7月4日~9月12日、8月6日~10月29日及び9月12日~12月5日(南行軌道右観測)及び6月13日~11月14日(北行軌道右観測)の5ペアのSAR干渉画像を比べた。
・5月28日~8月6日:一部の河川に沿って最大10㎝程度の衛星に近づく小さな変位が見られる。なお、こうした変動は平年でも湿原内でよく見られる。
・7月4日~9月12日(図左):一部の河川に沿って最大60㎝程度の衛星に近づく大きな変位が見られるほか、鶴居村中雪裡に900m×650m程の楕円形の領域(以下、鶴居村大変位と呼ぶ)で最大1mを超える衛星に近づく変位が見られる。湿原内では非干渉となる領域が大きい。
・8月6日~10月29日:一部の河川に沿って最大10㎝程度の衛星から遠ざかる小さな変位と、鶴居村大変位で最大1mを超える衛星に近づく変位が見られる。
・9月12日~12月5日:一部の河川に沿って最大60㎝程度の衛星から遠ざかる大きな変位が見られる。鶴居村大変位自体には大きな変化は見られない。
・6月13日~11月14日(図右):鶴居村大変位で約50㎝程度の衛星から遠ざかる変位が見られる。その他の変位は小さい。
(2)ピクセルオフセット
干渉SARで大きな変位が見出された7月4日~9月12日の画像ペアに対してピクセルオフセット法による変位を求め、下記の結果を得た。
・一部の河川沿いには数十㎝の衛星に近づく変位があり、それらの衛星進行方向成分(南南西)はほぼゼロである。
・鶴居村大変位は、衛星に最大1.3m近づき、衛星進行方向成分(南南西)の変位は最大1.5mである。

4.考察
以上から下記のことが推定される。
(1)大雨による水位の上昇に比例するように、釧路湿原内の一部の河川に沿って地表の隆起が見られる。水位が低下すると、ほぼ元の状況に戻る。
(2)鶴居村大変位は8月6日から9月12日の間に発生し、これは水位の急上昇の時期と一致している。この変位はそのまま残っており、その後の水位低下によっても元に戻っていない。鶴居村大変位の周辺では大きな変化は見られておらず、水位自体の上昇は少なかったと推定される。したがって、鉛直成分の変位がほとんどなかったと仮定すると、鶴居村大変位自体は下流である南東方向へ最大2.5m水平に変位した。簡易的なシミュレーションからは、地下数十mの場所で数百m四方ほどの領域が側方流動的に数m水平移動したことが推定され、水流の方向へ浮島のように変位した可能性がある。