JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT58] [EJ] 空中からの地球計測とモニタリング

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(理学))、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、小山 崇夫(東京大学地震研究所)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、座長:楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(理学))、座長:大熊 茂雄(産業技術総合研究所)、座長:小山 崇夫(東京大学 地震研究所 火山センター)、座長:光畑 裕司(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

09:00 〜 09:15

[STT58-01] 無人放射線測定により得られた γ 線スペクトル上の特徴に基づく土壌中放射性セシウムの深度分布の推定

★招待講演

*越智 康太郎1佐々木 美雪1石田 睦司2佐藤 友彦3濱本 昌一郎4西村 拓4眞田 幸尚1 (1.日本原子力研究開発機構 福島研究開発部門 福島環境安全センター、2.株式会社 NESI、3.家畜改良センター、4.東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻)

キーワード:Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident, radiocesium, airborne radiation monitoring, depth profile, decontamination

2011年の福島第一原子力発電所 (Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, FDNPP) 事故により、大量の放射性セシウムが大気中に放出された。文部科学省は、事故による環境への影響を評価するために、FDNPP周辺で空間線量率の測定を行ってきた。しかし、除染が行われ、事故から6年が経過したにも関わらず、依然としてFDNPP近傍のエリアでは、空間線量率が高いままである。この結果は、効率的な除染方法の提案が喫緊の課題であることを示している。土壌中放射性セシウムの深度分布に関する情報は、効率的な除染のために重要である。多くの場合、土壌中放射性セシウムの深度分布を把握するのは、土壌試料の採取及び測定という観点から煩雑である。我々のグループでは、広範囲の汚染されたエリアの空間線量率分布を迅速にモニタリングする手法として、無人ヘリコプターやマルチコプターなどの無人機を用いた放射線計測技術を開発してきた。本発表では、土壌中放射性セシウムの深度分布を、無人放射線測定により得られたγ線スペクトル上の特徴から推定する方法について報告する。この方法は、優先的に除染が必要なエリアの効率的な選別をする際に有効である。
本手法を検討するために、独立行政法人家畜改良センターが所有する広大な圃場 (160,000m2) を対象にモニタリングを行った。圃場は、FDNPPから南西約100kmの福島県西郷村に位置している。2016年6月6-10日に、自律飛行型無人ヘリコプター RMAX G1 (YAMAHA) にLaBr3:Ceシンチレータ (3.8cmΦ×3.8cmH×3本) を搭載し、圃場内の空間線量率の測定を行った。LaBr3:Ceシンチレータは、エネルギー分解能に優れているため、γ線スペクトル上で 134Csの放出するγ線のエネルギーピーク (605keV) と、137Csの放出するγ線のエネルギーピーク (662keV) を弁別するのに適している。しかし、検出器に含まれる227Acの子孫核種や、Laの放射性同位元素の138Laによる自己汚染によって、バックグラウンドが高いという特徴がある。ヘリコプターの位置は、Differential GPSに基づき、プログラムフライトによって制御した。モニタリングは、測定高度(対地高度):10-30m、速度:8m/s、側線間隔:20-30mの条件で行った。γ線エネルギースペクトルは、位置情報と共に1秒間に1回連続測定した。さらに、土壌中放射性セシウムの深度分布の影響を評価するために、γ線スペクトル上の散乱線領域 (50-450keV) と直接線領域 (450-760keV) のROI比から、ピークコンプトン比 (RPC) を定義した。土壌中で放射性セシウムが深い深度に存在するほど、土壌粒子等に散乱されるγ線は多く、γ線スペクトル上で全吸収ピークよりもエネルギーの低い散乱線として検出される。よって、RPCの値は土壌中放射性セシウムの深度分布を反映して変化すると考えられる。
土壌試料はライナー採土器で深さ30cm、ルートオーガーで深さ 30-60cmを採取し、測定容器に充填した。土壌試料中の放射性セシウムは、東京大学の所有するNaI(Tl) シンチレータにより定量分析を行った。さらに、土壌中放射性セシウムの深度分布に係るパラメータ (深度D20-90) を算出した。例を挙げると、D90は対象地点の土壌中放射性セシウムの全沈降量 Bq m-2 のうち、90%が存在する深度のことを指す。よって、パラメータの値が大きくなるほど、土壌中で放射性セシウムが深い位置に存在していることを意味している。無人ヘリによるモニタリング結果から、RPCとD90との間に良好な相関性があることが分かった。これは、LaBr3:Ceシンチレータのγ線スペクトル上の特徴は、土壌中放射性セシウムの深度分布に影響を受けるということを示している。よって、土壌中で放射性セシウムが深い深度に存在するほど、土壌粒子等に散乱されるγ線は多く、γ線スペクトル上で散乱線として検出されるという仮説を支持するものとなった。さらに、定量分析の結果から、今回対象とした圃場では、土壌中放射性セシウムの深度分布が通常と大きく異なることが分かった。これは、反転耕と呼ばれる除染によるものである。通常、土壌中放射性セシウムの深度分布は、表層から深層にいくほど指数関数的に減少することが報告されている。しかし、今回対象とした圃場のように反転耕の行われた環境では、放射性セシウム濃度の最大となる深さが表層から深層へと移っていることが予想された。これらの結果を要約すると、本手法はγ線スペクトル上の特徴に着目することで、効率的に除染の必要なエリアの迅速な選別の一助になることが期待される。本研究は、生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の支援を受けて行った。