JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT58] [EJ] 空中からの地球計測とモニタリング

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(理学))、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、小山 崇夫(東京大学地震研究所)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)

[STT58-P01] 空中重力偏差法探査を用いた茨城県北部地域における断層構造調査

★招待講演

*佐藤 秀幸1山下 伊智朗2Craig Annison3二ノ宮 淳4千葉 昭彦4代田 敦4相部 翔4 (1.原子力規制委員会原子力規制庁、2.株式会社フグロジャパン、3.CGG Aviation (Australia) Pty Ltd.、4.住鉱資源開発株式会社)

キーワード:空中重力偏差法探査、重力偏差、断層、構造境界、海陸境界域(沿岸域)

原子力施設周辺に分布する断層の位置や長さを特定することは,基準地震動の策定に大きく影響することから,その評価にあたっては科学的な根拠に基づき評価する必要がある.特に,多くの原子力施設は,海岸付近に立地していることを踏まえると,海域と陸域の境界域(以下,「海陸境界域」という.)に推定される断層の位置や長さを調べることは,原子力施設の安全性向上の観点から極めて重要である.しかしながら,海域と陸域とでは物理探査データ取得に際し調査仕様が異なるため,両地域において同じ品質のデータが得られない,あるいは地形の制約により海陸境界域においてデータ取得ができない領域,すなわち,データの空白域が生じることから,海陸境界域に推定される断層構造の抽出には困難さが伴う.
そこで,これらの課題を解決するため,本研究では,近年開発された航空機(回転翼)を用いて空中から重力偏差法探査を行う手法(以下,「空中重力偏差法探査」という.)により,海域から陸域にかけて断層が延伸していると推定される地域のひとつである茨城県北部地域を調査対象とし,断層構造抽出可能性の検討を行うことを目的とした.調査範囲は,茨城県北茨城市,高萩市,日立市及びその周辺海域を含む約300km2である。調査は,探査ヘリコプターに搭載されたFALCON AGGシステムにより,東西方向の主測線(250m間隔)と南北方向の交差測線(2.5km間隔)上を対地高度150m一定で,探査飛行した.
取得した重力偏差データは,同時に計測された地形データにより地形補正を行うとともに,海底地形データを用いた水深補正を施し,フーリエ変換法によって陸域から海陸境界域を通り,海域まで連続した鉛直重力偏差異常図,水平重力偏差異常図及び合成重力異常図を作成することに成功した.これらの図面から得られた特徴は,以下の通りである.(1)調査地域中央北部から東南東にかけて,高/低鉛直重力偏差異常の境界(以下,「ゼロ値線」という.)が急勾配を伴い分布する.このゼロ値線は,駒木断層及びF12断層(地質調査所,1957;日本原電(株),2015)のやや南西側に位置し,高鉛直重力偏差異常がこのゼロ値線の北東側に分布することから,南西傾斜の正断層であると考えられる.この特徴は,既往文献による地質調査の結果とも調和的である.また,この対をなす高/低鉛直重力偏差異常は,陸域から海岸域に連続的に分布することから,駒木断層~F12断層は一連の断層であることが推定される.(2)調査地域中央部には,顕著な低鉛直重力偏差異常(負値)帯が,高鉛直重力偏差異常(正値)に挟まれるように北西-南東方向に分布している.20万分の1地質図「白河」及び「水戸」(久保ほか,2007;吉岡ほか,2001)によると,この低鉛直重力偏差異常帯は大局的に見ると密度の高い岩石から構成される日立変成岩類と阿武隈変成岩類の境界付近に対応しているように見える.一方,水平重力偏差異常図に着目すると,上述のゼロ値線と高水平重力偏差異常が対応していること,ゼロ値線の北側で急勾配を南側で緩勾配をそれぞれ示すことから,高角度で南西傾斜を有する正断層の存在を示唆する.
本研究では,海陸境界域での断層構造を検出できたことが大きな成果であるとともに,これまで陸域と海域で別々に想定されていた断層が連続性を有する可能性が明瞭に示された.なお,平成28年12月28日に発生した茨城県北部地域を震源とする地震(Mj6.3)の余震分布及びこの地震に伴って観測された地殻変動と重力偏差異常分布との関係についても速報的に紹介する.

謝辞:本研究を進めるにあたり,産業技術総合技術研究所大熊茂雄上級主任研究員、北海道大学大学院茂木透特任教授,富山大学大学院楠本成寿准教授には,現地調査及び現地検討会においてご指導いただくとともに,報告書作成において貴重なご助言をいただいた。現地調査の実施に際して,茨城県,海上保安庁茨城海上保安部,北茨城市,高萩市及び日立市の関係各位よりご協力をいただいた.ここに記して,謝意を申し上げる.
追記:本研究は,平成26年度原子力施設等防災対策等委託費(原子力施設における地質構造等に係る調査・研究(海陸境界域における空中重力偏差法を用いた断層調査))事業の一部として実施されたことを付記する.