JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT60] [JJ] ルミネッセンス・ESR測定の年代学・地球惑星科学への貢献

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:伊藤 一充(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、豊田 新(岡山理科大学理学部応用物理学科)、近藤 玲介(皇學館大学教育開発センター)、杉崎 彩子(産業技術総合研究所)

[STT60-P10] 低速リング剪断試験による断層変位量と ESR 信号強度の関係の評価

*田中 桐葉1武藤 潤1矢部 康男2岡 壽嵩3中村 教博3長濱 裕幸1 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学大学院理学研究科・理学部附属地震・噴火予知研究観測センター、3.東北大学高度教養教育・学生支援機構)

キーワード:断層、電子スピン共鳴(ESR)、変位量、熱、温度上昇、ESR信号強度

地震の被害を最小限に抑えるために重要であるのが断層の活動性評価であり,その 1 つに 電子スピン共鳴(ESR) を用いた断層年代推定法がある.この方法は石英中の欠陥に捕獲された電子やホールの個数を ESR 信号として検出し,その ESR 信号の強度から求めた総被曝線量を年間線量率で除することで断層最終活動年代を求める方法である。これらの ESR 信号の信号強度は,300 度や 500 度付近での加熱によるゼロセットが起こりうることから,断層運動の評価に有効であると考えられる.しかし,ESR 信号強度が実際の断層運動によって完全にゼロセットされるという仮定の妥当性はいまだに検証されたことがない.地殻浅所にある断層は,測定試料の採取は容易であるが,断層運動により発生する摩擦熱や地熱による影響が小さいため,高温になるとは考えにくい.そのため,地殻浅所での断層運動を想定した ESR 信号強度のゼロセットに関する研究が重要である.
石英中に見られる ESR 信号強度に対して破壊が及ぼす作用に関する先行研究の文献調査(田中, 1987; 幡谷・田中, 1993; 福地, 2004)から,変位量と ESR 信号に関して次のようなことが指摘される.すなわち,(1)ESR 測定での測定条件が不適切であること,(2)各 ESR 信号に対しての測定結果が明示されておらず,(3)グラフ化もされていないこと,(4)摩擦発熱と ESR 信号の関係を考慮していないことである.そこで,本研究では,低封圧のためほとんど摩擦発熱しない地表付近での断層運動を想定し、硅砂試料(JIS 試験用粉体)の剪断試験を行い,変位量と ESR 信号強度の関係を明らかにした.試料は内径20 mm,外径 30 mm,厚さが約 1.5 mm の円筒状で,実験は東北大学に既設の低速リング剪断試験機を用いて,すべり速度,軸応力をそれぞれ 0.72 mm/s ,0.981 MPa で一定にし,変位量は最大で 1.7 m である.
まず,断層運動に伴う発熱に関して,Sibson (1975)による式から剪断面での温度上昇 ∆T を推定すると,本研究における条件では,数度の温度上昇に抑えられることがわかり,剪断試験によって発生する熱の影響は無視できると判断される。また ESR 測定に関しては,≡Si・で表される(・が孤立電子,-が共有電子対を示し,≡は 3 つの Si 原子がその先で結合していることを示す)E1’ 中心が R 信号(同様に石英中に見られるが構造は不明)と重ならないで検出される条件(マイクロ波電力: 0.01mW)やそのほかの信号も検出できる条件で行った。変位量と ESR 信号強度の関係から,E1’ 中心,OHC(O³⁻), Peroxy 中心(≡Si-O-O・) 等に関しては変位量の増加に伴う ESR 信号強度の減少が確認できた.この結果,地表付近の低封圧下においても、変位量がゼロセットに寄与することは十分に考えられ,浅所での断層運動がゼロセットを引き起こす可能性は十分に考えられる.

参考文献
Sibson, R. H., 1975, Generation of pseudotachylyte by ancient seismic faulting, Geophysical Journal International, 43(3),775–794. 田中和弘,1987,電子スピン共鳴(ESR)年代測定法による断層の活動時期の検討-断層活動時における格子欠陥のゼロセットに関する実験-.電力中央研究所報告 U87039,財団法人 電力中央研究所 我孫子研究所,22p.
幡谷竜太・田中和弘,1993,ESR 法による断層最終活動年代測定法の適用検討(1)―石英中の ESR 信号のゼロセットに関する実験的検討―.電力中央研究所報告 U93019,財団法人 電力中央研究所 我孫子研究所,26p.
福地龍郎,2004,ESR 法による断層活動年代測定--その原理と実践--.深田研ライブラリー 63,財団法人深田地質研究所,45p.