JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT61] [JJ] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、市村 強(東京大学)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[STT61-P01] 地震動シミュレーションによる長周期地震動の振幅と卓越周期についての考察:関東堆積盆地を対象とした検討

*吉本 和生1鍛治川 謙吾1和泉 綾華1島津 香織1武村 俊介2 (1.横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科、2.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:長周期地震動、関東堆積盆地、堆積層構造、表面波、最大振幅、卓越周期

はじめに
関東堆積盆地では周期数秒以上の長周期地震動が頻繁に観測され,その卓越周期は観測地点の地震基盤深度と関係があることが指摘されている(例えば,Yoshimoto and Takemura, 2014b).より詳細な解析からは,複雑な地震基盤構造の影響で震央方位による長周期地震動の励起の大きさに差異(震央方位依存性)が現れることや東京湾周辺の地域での長周期地震動の卓越周期の長周期化などが報告されている(例えば,湯沢・南雲,2012; 鍛治川・他,2016 SSJ).しかしながら,このような長周期地震動の励起と発達の素過程についての理解は必ずしも十分には進んでいない.
そこで本研究では,関東堆積盆地における長周期地震動の励起と発達の素過程の把握を目的として,単純化した堆積層-地震基盤系の地震波速度構造モデルを使用して,堆積層の地震波速度構造と地震基盤の形状が長周期地震動の振幅と卓越周期に与える影響について詳しく調べた.また,大規模な実地震動シミュレーションを実施し,既往の関東堆積盆地の地震波速度構造モデルの問題点を明らかにするとともに,今後の研究の課題について検討した.

長周期地震動シミュレーション
浅発の中規模地震による長周期地震動の発生を模擬した3次元差分法地震動シミュレーションを実施した.解析対象とする長周期地震動の周期を4秒以上とし,堆積層-地震基盤系構造と震源を含む150×60×72 km3の領域を計算対象として,この領域を0.15 km間隔で離散化した.堆積層の地震波速度構造モデルには,中深層観測井におけるVSP検測結果(Yoshimoto and Takemura, 2014a)を基にした横浜モデル(Yモデル),千葉モデル(Cモデル),岩槻モデル(Iモデル)を使用した.地震基盤の形状は,簡単のため,水平な形状(深度3.5km)とその一部が盛り上がった形状(3種類)を仮定した.地震基盤以深はJIVSM(Koketsu et al., 2012)を模擬した水平成層構造とした.震源には,横ずれ断層型と逆断層型の点震源モデルを採用し,それぞれLove波とRayleigh波の励起源とした.地震動シミュレーションは,小規模なワークステーション(2 Intel Xeon E5-2640V3, 16 cores)で行った.

長周期地震動シミュレーションの結果
(1) Love波とRayleigh波の特徴
横ずれ断層型の震源モデルを用いた地震動シミュレーションでは単峰性のLove波エンベロープが見られたのに対して,逆断層型の震源モデルを用いた場合には分散性の強いRayleigh波エンベロープが見られた.これはLove波では基本モードが卓越するのに対して,Rayleigh波では基本モードだけではなく高次モードも発達するためであると解釈された.Rayleigh波の水平動成分と上下動成分の最大地動速度振幅(PGV)を比較したところ,水平動成分の方が大きなPGVを示す傾向が見られた.この特徴は,高次モードの振幅が優勢に発現したためと解釈される.
(2)地震基盤形状とPGV
地震基盤の盛り上がりの大きなモデルほど大きなPGVを示す傾向が見られた.この傾向は,堆積層浅部で励起された比較的短周期のLove波によるAiry相の強化によって発生するものと解釈された.この結果は,関東堆積盆地の北部および西部で観測される単峰性のエンベロープをもった大振幅の長周期地震動が,堆積盆地端部でのLove波の強い励起によって引き起こされる事例を説明する.
(3) 長周期地震動の局所的な増幅
一定速度の堆積層からより低速度の堆積層に表面波が伝播することにより,長周期地震動の振幅が増幅することが確認された.例えば,YモデルからCモデルにLove波が伝播する場合には,フーリエスペクトルのうち周期5秒以上でスペクトル振幅が増幅し,特に周期10秒程度で東京湾周辺の地域で観測されたような大きな増幅が見られた.

上記の地震動シミュレーションで確認された長周期地震動の特徴は,JIVSMやSBVSM(増田・他,2016 SSJ)を用いた大規模な実地震動シミュレーションにおいても共通して見られる.しかしながら,これらの地震波速度構造モデルには,観測波形の再現性において東京湾周辺や関東平野西縁などの地域で改善の余地が残されている.今後の研究では,大規模な地震動シミュレーションによる逆解析(例えば,Iwaki and Iwata, 2011)を基本としながらも,本研究のようなフォワードモデリングによる表面波の励起と伝播の素過程の把握,さらに小規模地震動シミュレーションに局所的な実構造モデルを取り入れた逆解析などにより,総合的に関東堆積盆地の地震波速度構造モデルを高度化する必要があるものと考えられる.