JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] [EE] 火山分岐現象の理解

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 104 (国際会議場 1F)

コンビーナ:西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)

16:15 〜 16:30

[SVC46-04] 塩素濃度マッピングを用いたマグマの発泡・気泡溶解の痕跡の解読

*吉村 俊平1中川 光弘1松本 亜希子1 (1.北海道大学・地球惑星科学)

キーワード:chlorine, vesiculation, bubble resorption

<はじめに>
マグマの発泡と気泡の消滅(開放系脱ガス,再溶解)は,マグマ密度を著しく変化させ,噴火様式を支配する主要過程と考えられている.しかし,この過程が火道内のどのような深度・タイミング・回数・メカニズムで起こるのか,詳細はほとんど理解されていない.これを解明する方法の1つは,石基ガラスの塩素濃度マッピングを行うことである.塩素は拡散が遅いので,脱ガス時に形成された拡散プロファイルが均質化せずに残っており,脱ガス履歴を解読できる可能性がある.実際,一見均質な石基中に,複雑な塩素濃度分布が存在することが確認されている(吉村・中川2016鉱物科学会).本研究ではこの考えをさらに進めるため,そもそも発泡や気泡溶解が起きたとき,どのような塩素濃度の空間分布が作られるべきかを実験で調べた.

<実験方法>
円柱形に成型した流紋岩質黒曜石(和田峠産,初期含水量0.6 wt%)をMgOセラミクスの開放系円筒容器に入れ, 10または30気圧,1000℃で3~24h加熱した.このような実験を行うと,試料には,①均質に発泡した中央部と,②気泡が全く存在しないガラス層の周縁部の2つの部分が作られることが知られている.この形成メカニズムはYoshimura and Nakamura (2008)で示されており,加熱初期には中心・周縁を問わず全体的に発泡するが,試料表面では拡散脱水が進行するため,メルト含水量が飽和溶解度を下回り,気泡が再溶解し,周縁層が発達するのである.したがって,1つの実験試料の中に,1)気泡が成長しつつある部分,2)溶解しつつある部分,3)すでに気泡が溶解しガラス層となった部分の3つを同時に観察することができる.実験後,試料断面を研磨し,FE-EPMAを用いて塩素濃度マッピングを行った.

<結果と考察>
試料内部はほぼ均質に発泡した.一方,周縁部には気泡が含まれないガラス層が発達した.ガラス層近傍の気泡は,それより内側の気泡に較べ小さく,溶解中であることが読み取れる.FE-EPMAによるマッピングでは,さまざまな種類の塩素濃度不均質が観察された.まず,試料中央部では,気泡に近づくほど塩素濃度が低下する様子が観察された.これは,気泡成長に伴い塩素が吸引されていることを示すものと考えられる.一方,溶解しつつある気泡では,気泡に近づくほど塩素濃度が高まる分布が見出された.これは気泡溶解に伴い,ガス中の塩素が周囲メルトに再び吐き出されているものと考えられる.周縁部のガラス層内部には,塩素濃度の高い円形領域がスポット状に点在していた.これは,気泡自体は既に溶解・消滅したものの,塩素を放出した痕跡が残っているものと考えられる.10気圧の実験では,メルトが勢いよく発泡したため,気泡は一方向に楕円形に伸長していた.溶解中の気泡は球形であったが,その周囲の高塩素濃度領域は楕円形であった.このことは,この気泡も初めは伸長していたが,溶解し気泡半径が小さくなると表面張力による形状緩和が強く働き,現在では球形になったものと考えられる.

<展望>
塩素濃度マッピングを用いれば,発泡試料中の1つ1つの気泡が成長中なのか,溶解中なのか,明確に区別することが可能であることが分かった.また,気泡を含まない領域でも,かつて気泡が存在した痕跡が見出され,その位置を特定したり,当時の気泡形状を推定することも可能である.さらに,拡散プロファイルの解析を組み合わせれば,気泡形成イベントの回数,気泡が形成されてからの時間,気泡溶解時間などを解読することができ,火道内での脱ガス過程を詳細に解明できるようになると期待される.