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[SVC47-06] 火山性地震の応力応答―潮汐による応答(2)
キーワード:火山構造性地震、地震活動度、潮汐応答、活火山、揮発性成分
世界で最初の科学的な噴火予測と言われる1910年有珠山噴火以来,火山構造性地震の活動度は,火山噴火予測のためには重要な観測量のひとつとして,多くの火山活動のモニタリングに使われている.一方で,噴火前に地震数が増えるパターンは多様であり,地震活動の時間推移と火山内部での状態変化の関係については十分に理解されていない.1つ1つの地震の発生は地震が断層破壊現象である故にある種偶然に支配される要素もあるが,一定時間内に発生する地震の数は統計量であり,その値は火山内部状態の情報を堅牢に保持していると考えられる.地震活動度は,応力場の時間変化に依存している(速度状態依存(RSF)則:Dieterich,1994)との仮説に基づき,これまで山体膨張と同期する地震活動度の変化,東北地方太平洋沖地震直後で発生した火山性地震の解析などからその妥当性を検証してきた.更に,昨秋の火山学会では,伊豆大島カルデラ内浅部で発生する極めて小さな地震では,この地震活動が潮汐に相関が見られる可能性を指摘した.今回は解析を進め,統計学的検定の手法を導入して,潮汐との相関がどれくらい確からしいか,潮汐との相関が現れたのはいつ頃であるか,それは何を意味しているかなどについて発表する.
地震活動と潮汐との相関の有無を統計学的に検定する手法として,Schuster(1897)による検定が広く使われている.これは震源域での潮汐応力値の直近の局所最大と局所最小の時刻をそれぞれ位相0(360)度,180度として,地震の発生時刻の潮汐位相を求め,地震の発生が特定の潮汐位相値に集中していないかを2次元酔歩の考え方で検定するものである.中緯度では半日潮と全日潮が重なり,位相が潮汐値の大小と必ずしも一致していない.そのため,潮汐値の大小によって地震活動度の潮汐依存性を評価する方法も行った.この場合は,震源域での潮汐応力を出現時間が一定となるように区切り,それぞれの応力区間での地震回数を比較する.もし地震がランダムに発生したとすると,地震数はポアソン分布となるので,実際の分布がポアソン分布からどれくらい離れているかを検定する方法を導入した.
2004~2016年までの地震活動と潮汐の関係を解析した結果,両検定方法とも,2013年初頭を境にして結果が大きく異なる.2013年以降解析終了時点(2016年12月)まで伊豆大島カルデラ内浅部で発生する地震は,「ランダムに発生している」という帰無仮説を有意水準1%以下で棄却されることが明らかになった.潮汐成分のうちどの成分が影響を及ぼしているかを検討するため,この地域で発生する地震の発震機構解を参考に色々な断層パラメータで解析したが,断層面に働く法線応力の変化による影響が非常に大きいため,考え得るどのような断層面を仮定しても,上記の結果は変わらない.そこで,断層面にかかる間隙圧と等価な潮汐の体積応力成分に注目し,どの位相の時に地震が多発しているかを調べた.その結果,体積応力の張力が最大となる時に地震が多く発生していることが明らかになった.地震発生をクーロン応力の大小によって起こると考えると,断層面にかかる法線応力が最小となる時に地震が多く発生している.
以前は潮汐と相関がなかった地震活動が,約3年前から潮汐と相関する原因について考察した.RSF則によると断層面にかかる実効法線応力が小さくなると,地震活動度は実効法線応力の変化に極めて敏感に反応することが知られている.例えば,海洋底が拡大し,活発な火山活動をしている西太平洋沖海嶺の海底火山周辺で発生する地震活動は,潮汐応力が最大張力になる時に顕著に増加したが知られている(Stroup et al,2007).伊豆大島の地震はこれほど顕著でないが,同様の性質を持っている.実効法線応力は,テクトニック応力から間隙圧を引いたものである.伊豆大島周辺のGNSS観測データから,テクトニック応力が最近3年間に大きく変化していないことから,間隙圧が高くなったと考えられる.マグマ蓄積による応力変化と地震活動度の対応でも,同様に2011~12年頃から応力変化量に比べて地震活動度が高く,これも間隙圧の上昇で説明できる.この震源は,マグマ蓄積を示す圧力源の直上にあり,マグマ溜まりから岩盤の亀裂をマグマの揮発性成分が上昇し,地震断層面に入り込み,間隙圧を上昇していることが考えられる.
以上のことから,2013年頃から伊豆大島カルデラ浅部で発生する地震活動は潮汐との相関が高くなった.この時期よりマグマ溜まりから揮発性成分の上昇が増加した可能性を示唆している.
地震活動と潮汐との相関の有無を統計学的に検定する手法として,Schuster(1897)による検定が広く使われている.これは震源域での潮汐応力値の直近の局所最大と局所最小の時刻をそれぞれ位相0(360)度,180度として,地震の発生時刻の潮汐位相を求め,地震の発生が特定の潮汐位相値に集中していないかを2次元酔歩の考え方で検定するものである.中緯度では半日潮と全日潮が重なり,位相が潮汐値の大小と必ずしも一致していない.そのため,潮汐値の大小によって地震活動度の潮汐依存性を評価する方法も行った.この場合は,震源域での潮汐応力を出現時間が一定となるように区切り,それぞれの応力区間での地震回数を比較する.もし地震がランダムに発生したとすると,地震数はポアソン分布となるので,実際の分布がポアソン分布からどれくらい離れているかを検定する方法を導入した.
2004~2016年までの地震活動と潮汐の関係を解析した結果,両検定方法とも,2013年初頭を境にして結果が大きく異なる.2013年以降解析終了時点(2016年12月)まで伊豆大島カルデラ内浅部で発生する地震は,「ランダムに発生している」という帰無仮説を有意水準1%以下で棄却されることが明らかになった.潮汐成分のうちどの成分が影響を及ぼしているかを検討するため,この地域で発生する地震の発震機構解を参考に色々な断層パラメータで解析したが,断層面に働く法線応力の変化による影響が非常に大きいため,考え得るどのような断層面を仮定しても,上記の結果は変わらない.そこで,断層面にかかる間隙圧と等価な潮汐の体積応力成分に注目し,どの位相の時に地震が多発しているかを調べた.その結果,体積応力の張力が最大となる時に地震が多く発生していることが明らかになった.地震発生をクーロン応力の大小によって起こると考えると,断層面にかかる法線応力が最小となる時に地震が多く発生している.
以前は潮汐と相関がなかった地震活動が,約3年前から潮汐と相関する原因について考察した.RSF則によると断層面にかかる実効法線応力が小さくなると,地震活動度は実効法線応力の変化に極めて敏感に反応することが知られている.例えば,海洋底が拡大し,活発な火山活動をしている西太平洋沖海嶺の海底火山周辺で発生する地震活動は,潮汐応力が最大張力になる時に顕著に増加したが知られている(Stroup et al,2007).伊豆大島の地震はこれほど顕著でないが,同様の性質を持っている.実効法線応力は,テクトニック応力から間隙圧を引いたものである.伊豆大島周辺のGNSS観測データから,テクトニック応力が最近3年間に大きく変化していないことから,間隙圧が高くなったと考えられる.マグマ蓄積による応力変化と地震活動度の対応でも,同様に2011~12年頃から応力変化量に比べて地震活動度が高く,これも間隙圧の上昇で説明できる.この震源は,マグマ蓄積を示す圧力源の直上にあり,マグマ溜まりから岩盤の亀裂をマグマの揮発性成分が上昇し,地震断層面に入り込み,間隙圧を上昇していることが考えられる.
以上のことから,2013年頃から伊豆大島カルデラ浅部で発生する地震活動は潮汐との相関が高くなった.この時期よりマグマ溜まりから揮発性成分の上昇が増加した可能性を示唆している.