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[SVC47-08] 上陸調査で明らかとなった新たな西之島の地質および噴火プロセス
キーワード:西之島、溶岩、溶岩ローブ、降下堆積物
小笠原諸島西之島で2013年11月にはじまった噴火は,浅海での活動により新しい火山島をつくり出し,およそ2年の活動を経てようやく終息した。2016年10月,西之島周辺海域における新青丸の研究航海(KS-16-16)において,著者らからなる研究チームは今回の噴火開始以来初となる上陸調査を実施した。本発表では,上陸調査で明らかとなった新西之島の地質および噴出物の特徴について述べ,噴火プロセスについて考察する。上陸チームは西之島西岸にゴムボートで接近,泳いで上陸し,新島および旧島の地質調査を行った。西岸は,旧島台地まで砂礫で構成された低地が続き,さらに旧島をとり囲むように10 m超の厚く険しい溶岩流が海岸まで迫っている。新溶岩は黒–暗灰色ガラス質で部分的に赤色酸化しており,その表層は鋭利でブロック状に破砕したクリンカーで構成されている。旧島台地を覆う新溶岩は,先端部分で厚さ3−5 m程度である。衛星・空中写真の判読結果をもとに,旧島および海岸沿いに調査を行い,溶岩流や噴石など異なる時期の噴出物を採取した。旧島台地の地表面は,層厚10 cm程度のスコリア混じりの灰色火山灰層で覆われている。この火山灰層は,2年に及ぶストロンボリ式噴火の積算による堆積物と考えられる。また,旧島台地上および付近の海岸には長径数10 cmに達する火山弾が散在している。これらの火山弾は,活動末期の2015年11月頃に発生していたブルカノ式噴火によるものと考えられる。西岸の北部には,亀裂が特徴的に発達した溶岩が存在する。溶岩に生じた亀裂の表面5 cm程度がガラス質となっており,さらに亀裂表面と垂直方向に細かい亀裂が発達するという特徴をもつ。こうした構造は,水中火山岩にみられる特徴とよく似ており,溶岩ローブ先端が高温状態で水と接触することにより生じた水冷破砕の痕跡と解釈できる。内陸部の溶岩流表面の踏査は行えていないが,船上や航空機からは溶岩ローブの表面に深い亀裂 (cleft) が生じている様子を観察することができる。とくにスコリア丘西〜南西麓にかけてはその発達が顕著で,緻密な溶岩内部を露出している様子が捉えられた。このような亀裂は,その形態や分布の特徴から溶岩膨張割目と考えられ,噴火継続中に上空から観察されたほか,人工衛星による定点観測によりその発達の様子が捉えられた(Maeno et al., 2016)。今回の西之島噴火における噴出物(KS-16-16上陸調査で採取された噴出物,海上保安庁により採取された南岸の溶岩,無人ヘリによる調査で採取されたスコリア丘西麓の礫)について,岩石薄片観察やXRFによる全岩化学組成分析を行った.その結果,(1) 全ての試料についてSiO2含有量 59.5–59.9 wt.% の安山岩組成(斑晶鉱物: pl, cpx, opx, Fe-Ti oxide, <10 vol.%)であり,1973–74年噴出物(同 58.6–59.1 wt.%)と旧島溶岩(1702年以前,同 60.1–60.8 wt.%)との中間的な組成的特徴を有すること,(2) 2013–2015年噴火の溶岩は化学組成が狭い範囲に集中する一方で,時間経過とともにSiO2(MgO)含有量がやや低下(増加)していた可能性があることがわかった.ただし,一部の降下火砕物のSiO2含有量はやや高くなるという特徴も見えている。噴出物の化学組成の時間変化とその原因についてはさらなる検討が必要であるが,今回の上陸調査で得られた新たな地質学的データは西之島噴火のプロセスに対して重要な制約になると考えられる.