JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:前野 深(東京大学地震研究所)、座長:及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

11:30 〜 11:45

[SVC47-10] 西之島周辺での離島火山モニタリングシステムの初めての運用

*浜野 洋三1杉岡 裕子3市原 美恵2西田 究2馬場 聖至2多田 訓子1 (1.海洋研究開発機構地球深部ダイナミクス研究分野、2.東京大学地震研究所、3.神戸大学理学研究科惑星学専攻)

キーワード:西之島、離島火山、火山活動監視

我々はウェーブグライダー(WG)を用いた離島火山モニタリングシステムを開発・製作している。このシステムは、陸地から遠く離れた離島火山の周辺を航走しながら、火山の活動を監視し、その情報を衛星通信により連続的に陸地に伝送する機能を持っている。2016年10月に実施された新青丸によるKS-16-16航海では、西之島周辺海域で、新たに開発・製作された離島火山モニタリングシステムの短期間の運用を行った。このシステムでは、火山活動の常時監視に向けて、1)西之島火山の映像を撮影するための4台のタイムラプスカメラ、2)噴火に伴う空振を観測するため、ウェーブグライダーのフロートの前後に設置した2台の低周波マイクロフォン、3)地震動観測のために、海面下6mの水中グライダーの尾部に設置したハイドロフォン、及び4)山体崩壊等に伴う津波の発生を検知するため、GPSドップラー速度測定を用いて上下動(ヒーブ)と速度3成分を観測する波浪計、を装備している。マイクロフォン、ハイドロフォンによる音波記録及び波浪計による記録は、それぞれ衛星通信によってリアルタイムに陸上まで伝送する。また、WGのナビゲーション・コントロールには、データ通信とは独立した衛星通信システムを用い、WGの位置、速度、流速、流向等のナビゲーションデータと、気温、気圧、風向、風速等の気象データが常時収集され、陸上に伝送される。
 本離島火山モニタリングシステムは、2016年10月20日9時35分に、西之島西方の海岸から約1km離れた場所で、新青丸から海面に投入された。投入後は自律的に運航を開始し、西之島の中心から半径約5kmの円周軌道上を時計周りに航走し、ほぼ1周した後に、島の北西方向の軌道上で、2016年10月21日13時45分に、新青丸上に揚収された。WGの航走の原動力である波浪は、波浪計の記録から、波浪振幅は平均50cm程度で卓越周期は10秒程度であった。運航中のWGの対水速度は、1.2ノット〜 0.9ノットの範囲にあり、ほぼWGの理論通りの性能を発揮している。一方、波浪計のGPS速度計測によって高精度で測定される対地速度は、平均値が0.5ノット程度で、投入から回収までの約30kmの距離を航走するのに、30時間以上を要している。
 GPS波浪計は、10Hzサンプリングでヒーブ、速度3成分を測定・記録する。陸上へのThuraya衛星経由のデータ伝送は、通常時は1Hzデータ(約600byte)を毎分毎にまとめて伝送する。緊急時には10Hzデータ(約4900byte)を毎分送信する。また、両モードの切り替えは陸上よりの指令により行なう。今回の実験では、通常時の伝送は、ほとんどエラーなく行われ、緊急モード、通常モードの切り替えも正常に動作することが確認できた。
 ヒーブ及び速度についても、ほぼ仕様通りの精度(ヒーブ5cm,速度0.05m/s)で測定されている。波浪計で測定記録されたヒーブの波形スペクトルは周期10秒程度を中心とする典型的な沿岸地域での風波のスペクトルを持っている.
 本システムの航走中のマイクロフォン及びハイドロフォンによる空中及び水中音波測定の記録は、200 Hzのサンプリング速度でデータロガーに記録されている。マイクロフォンの音波波形は、波浪計によるヒーブ記録波形と極めて相関が高く、時間軸でみてもヒーブ記録と高い相関を示す.この結果は、マイクロフォンがフロートの上下変動による圧力変化を忠実に記録していることを示している.また2台のマイクロフォンの相関も極めて高い.この観測の時期には西之島は噴火していないため、マイクロフォンには空振に対応する2Hz以上の高周波シグナルは見られなかった。
 海面下6mで測定したハイドロフォンについては、数Hzより高周波側では、多くのラインスペクトルが見られる.西之島が活発に噴火していた時期に行われた2015年2月のKR15-07航海の際には、西之島から7km離れた場所で、水深10mにハイドロフォンを船からつり下げ、音波記録がとられ、10Hz付近より高周波側で多くのラインスペクトルが観測されている.この記録との比較から、現在西之島は表面の噴火はなく、噴火に伴う空振は観測されていないが、深部の地震動の活動はまだ存在していると思われる.