JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:山本 圭吾(京都大学防災研究所附属火山活動研究センター)、座長:筒井 智樹(秋田大学国際資源学部)

09:15 〜 09:30

[SVC47-20] 地殻変動観測による桜島2015年8月のマグマ貫入イベント及びその前後の活動の粘弾性応答的解釈

*長山 泰淳1井口 正人2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:桜島、マグマ貫入、粘弾性応答

背景
 2015年8月に桜島で噴火未遂ともいえるマグマ貫入イベントが発生した。15日の7時頃から微小なVT地震が発生し、8時頃から伸縮計・傾斜計で地殻変動が記録されるようになった。その後、地震活動が活発化し、10時27分頃からは地殻変動レートも増大した。その後11時32分及び43分に振幅の大きな低周波地震が発生し、この頃から地震活動の低下や地殻変動レートの減少が認められるようになった。17日頃まで余効的な地殻変動が続いたが、これ以降は変動極性が反転した(以後、反転までを貫入過程と呼ぶ)。複合的な地殻変動観測から、総観的にはヘッドの深さが海抜下約1㎞のWNW-ESE走向クラックが数106m3開口したものと理解される(Hotta et al., 2016やMorishita et al., 2016など)。反転後は貫入地点付近(例えば有村観測坑道)で指数関数的に変化する粘弾性緩和的な変動が支配的であり、一方離れた点(例えばハルタ山)では貫入マグマの移動を思わせる変動が重畳している(以後、緩和過程と呼ぶ)。力源の変化と山体の粘弾性応答の重畳による複雑な時空間変化が認められ、より詳しく解析をしていく必要がある。本調査では、貫入過程及び緩和過程の時空間変動パターンを調査した。
データと手法
 桜島島内の京都大学桜島観測所及び気象庁の伸縮計・傾斜計の1分値データを用いた。
貫入過程において、地震活動が間欠的である点、傾斜・伸縮の極性が反転している成分がある点、有村観測坑道で主歪方向が時計回りしている点(内田 2015)などから、貫入が複数のクラックの複合であると仮想し、貫入過程を4つのステージに分け、緩和ステージは1つのステージと見なした。(A:08:00-10:27 B:10:27-11:15 C:11:15-11:45 D:11:45-17日18:00 E:17日18:00-)
 それぞれのステージにおいて、岡田(1992)の断層モデルでソースを推定した。最適モデルによる各観測点位置における理論変動の方向への観測データの射影を正規化し、時間依存応答特性を調査した。
結果
 有村観測坑道の傾斜データに対し、各ステージの始めにステップを与え、偽弾性応答(ケルビン-フォークトモデル)の重ね合わせを仮定した最適値フィッティングにより変動をモデル化した。ステージA~Cでは遅延時間は約50分だが、ステージDでは約360分とより遅延が大きくなった。ステージEの緩和時間は約90日(1.3×105分)でおよそ4割が戻った。
 貫入過程において、有村観測坑道の傾斜と各点の傾斜のインパルス応答から、島内の各点での遅延時間と貫入ソースからの距離との相関関係が認められた。また、クラックの開口方向の観測点は応答が速く伝播し、走向方向は遅く伝播する傾向が認められた。開口方向の観測点では、15日8時の変動開始から相対遅延が増加し、15日11:45を境に遅延が解消していく特徴が認められた。緩和過程においても、貫入ソースからの距離と緩和時間に相関が認められた。これは、貫入の変動に対する戻り量が、ソースに近いほど大きいことを意味する。
当日の議論
 ステージC,D間の遅延時間の変化は、A~Cおける局所的なクラック開口による応力集中に対する周辺場の緩和作用と考えられる。当日は、VT地震活動と遅延の伝播速度の関連についても議論する予定である。
 また、ステージEの有村近傍の変動については、マグマの下降による遅延応答、あるいは貫入マグマの応力(圧力)緩和が考えられる。対して周辺観測点では、2015年10月頃まで指数関数的な変動をしておらず、別の効果の重畳が認められる。この効果を抽出し、9月、10月に時差を持って発生した周辺部のVT地震との関連を議論する。
 相対重力観測によると、貫入時のクラック内部の密度は0.98±0.37g/cm3と見積もられており(Kazama et al., 2016)、マグマと考えた場合にはかなり発泡が進んでいる。ガスの上方・側方拡散を考慮にいれ、上記の特徴が説明できるか検討する。