JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:市原 寛(神戸大学)、座長:鈴木 由希(早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 地球科学専修)

14:15 〜 14:30

[SVC47-33] 神鍋火山のアルカリ玄武岩マグマ含水量の推定

*高橋 崚1柵山 徹也1木村 純一2 (1.大阪市立大学理学部地球学科 地球物質学Ⅱ研究室、2.海洋開発機構・地球内部物質循環研究分野)

キーワード:マグマ含水量、中国地方、アルカリ玄武岩

1.はじめに
 中国地方では,古第三紀から第四紀にかけて広範囲に火山活動があり,アルカリ玄武岩の活動が顕著な特徴がある(Kimura et al.,2003).同地域の火山岩に対する全岩主要・微量化学組成及び同位体組成分析は多数行われてきた一方で,詳細な岩石学的検討に基づいたマグマ分化過程の検討はあまり行われていない.そこで本研究では,第四紀に噴出した神鍋火山に対して詳細な薄片観察及び全岩・鉱物化学組成分析を行い,結晶分別過程を明らかにした.その結果見積もられたマグマ含水量はこれまでの見積もり(Zellmer et al.,2014)より少なくなることが分かった.
2.神鍋火山:日高溶岩,荒川溶岩,十戸溶岩,シワガ野溶岩
 神鍋火山は兵庫県豊岡市日高町に噴出源を有する第四紀アルカリ玄武岩火山である.火山活動は,姶良Tn火山灰層と鬼界火山灰層に挟まれていることから,2万5千年前~7300年前に噴出したとされる(古山ほか,1993;火山灰の年代の論文付ける).神鍋溶岩は複数の噴出源が確認されており,噴出順に日高溶岩,荒川溶岩,十戸溶岩,シワガ野溶岩の4枚の溶岩流に分類される(古山,1973).全岩化学組成は,日高溶岩がSiO2 = 48.8-49.1wt%,MgO = 6.8-7.1wt%,荒川溶岩がSiO2 = 48.9-50.0wt%,MgO = 6.5-6.9wt%,十戸溶岩がSiO2 = 49.3-50.1wt%,MgO = 6.5-6.6wt%,シワガ野溶岩がSiO2 = 48.8-50.0wt%,MgO = 6.5-7.2wt%で日高溶岩,荒川溶岩,十戸溶岩の順にMgOが乏しくなる全岩化学トレンドを示す.4つの溶岩全体の全岩化学組成幅は比較的小さいが,最上位のシワガ野溶岩は組成幅が広く,下位3枚の溶岩の有する組成幅をカバーする.4つの溶岩が示す全岩化学組成のトレンドは,かんらん石,単斜輝石,斜長石,チタン磁鉄鉱の結晶分別で再現可能である.
 4枚の溶岩は共通して斑晶量が少なく(<~10vol%),大部分の斑晶がかんらん石からなり,かんらん石と斜長石の集斑状組織も確認された.キンクバンドを有するかんらん石は確認できなかった.電子線マイクロアナライザー(EPMA)による分析及び反射電子像観察から,全ての斑晶が正累帯構造を示した.斑晶のかんらん石と斜長石のコアはそれぞれFo# [=100Mg/(Mg+Fe)mol] = 70~86とAn# [=100Ca/(Ca+Na)mol] = 60~78を示し,斑晶斜長石のコアはAn#頻度分布図でAn#=78と66に2つのピークを有する.An#=66の斑晶斜長石は清純で自形を呈する一方,An#=78のものは半自形から他形を呈し,内部に汚濁部を有する.一方,集斑状組織のかんらん石と斜長石はそれぞれFo# = 76~78とAn# = 64~68を示した.これらからAn# = 78の斜長石は同一のマグマから晶出した斑晶ではないことが示唆される.
3.考察:日高溶岩のマグマ含水量の推定
最もMgO含有量に富み,斜長石の斑晶量が少ない(<~1vol%)日高溶岩を対象として,全岩化学組成と斜長石-メルト含水量計(Lange et al.,2009)及びかんらん石飽和メルトの地質温度計(Sugawara,2000;Medard and Grove,2008)を組み合わせてマグマ含水量を推定した.マグマ含水量は圧力を0.5GPaと1.0GPaを仮定した場合,それぞれ1.3wt%,1.6wt%となりZellmer et al.(2014)による見積もり(10kbarにおいてH2O = 3.0wt%)に較べて少なくなった.これはZellmer et al.(2014)では,斑晶でないAn# = 82を示す斜長石を用いて含水量を求めていることに原因があると思われる.