JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)

[SVC47-P10] 相互相関解析に基づく2015年箱根水蒸気噴火に伴う空振の検出

*行竹 洋平1市原 美恵2本多 亮1 (1.神奈川県温泉地学研究所、2.東京大学地震研究所)

キーワード:水蒸気噴火、空振

はじめに
箱根火山では2015年4月末よりカルデラ内で地震活動が活発化し、同年6月29日から7月1日にかけて大涌谷で小規模な水蒸気噴火が観測された(萬年ほか・2015、火山学会).大涌谷周辺に設置されたボアホール型傾斜計及び広帯域地震計により、6月29日7時33分ごろから約2分間、最大10μradの短期的な傾斜変動(以下、傾斜イベント)が観測された(図1d).この傾斜イベントは大涌谷直下の標高600m付近に上端をもつ北西-南東走向のクラックの開口により説明でき、この際約10万m3の熱水が貫入したと考えられている(本多ほか・2015、火山学会).
水蒸気噴火の開始時刻については萬年ほか(2015)により6月29日11時頃に火口近傍における熱泥流の発生及び12時頃に降灰が報告されているが、当日の大涌谷周辺の視界が不良であったため、正確な時系列は明らかになっていない.本研究では、空振波形記録から一連の噴火活動の詳細な時系列を明らかにすることを目的とし、噴火口から約500m離れた大涌谷観測点における地震計とそこに臨時に設置された空振計の波形記録との相互相関処理を行った.

手法
本研究ではIchihara et al. (2012, GRL)の手法に従い、地震と空振波形との相互相関処理を行った.空振波が地表面へ入射する際に励起される地震動は、理論的には空振波の位相に対して1/4波長遅れるため、地震・空振波形の相互相関処理により空振波が遅れ時間0秒を節とし正の時間遅れの領域にプラスの相関ピーク、負の時間遅れの領域にマイナスの相関ピークを示すパターン(以下、相関パターン)として検出される.この手法により、風ノイズの影響を低減させ、効果的に空振波を検出することが可能になる.本研究では、大涌谷観測点の空振計および地震計上下成分の波形記録に3-12Hzのバンドパスフィルターを施し、ウィンドウ幅5秒間における両波形の相互相関関数を逐次計算し、その時間推移を調べた.空振計が設置された2015年5月22日から2016年7月3日までの期間を解析対象とした.

結果
傾斜イベントが発生したほぼ同時期の6月29日7時32分から10時30分頃までの約3時間、上記の特徴をもつ相関パターンが主に3-12Hzの周波数帯域で断続的に表れることが確認できた.この結果は、6月29日7時32分の時点で火山ガスや火山性流体等の噴出現象が起こり、それにより励起された空振波によって大涌谷観測点近傍の地面が振動させられていたことを意味する.より詳細には、7時32分30秒頃に最初に地震による地動速度の振幅増加が始まり(図1ac)、その約20秒後の7時32分50秒頃に収縮のセンスを示す傾斜変動が大涌谷から離れた観測点で観測され(図1d上段)、同時に相関パターンが出現し(図1e)、その約30秒後に膨張のセンスを示す傾斜変動(図1d)が観測された.また、道家ほか(2015、火山学会)では地上設置型SARにより傾斜イベントが発生したのとほぼ同時期から、噴火口近傍の半径約100mの範囲で局所的な隆起が始まったことを明らかにした.これらの結果から、最初に地震が活発化し、その後空振とともに噴出現象及び火山深部での収縮が生じ、更にその後より浅部でのクラックの開口及び噴火口ごく浅部の熱水溜りの膨張に至ったことが示唆される.

謝辞
本研究では気象庁により取得された空振記録を使用させて頂きました.記して感謝いたします.

図1 傾斜イベント発生時の地震及び空振波形記録.(a)地震計上下成分(SU)の生データ及びフィルター波形、(b)空振計(MC)の生データ及びフィルター波形、(c)フィルター波形のRMS値、(d)傾斜計記録、(e)地震と空振波形との相関関数.点線は傾斜変動開始時刻.