JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC48] [JJ] 火山の熱水系

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC48-P02] 火口周辺の土壌から放出される気体水銀量の計測

*水谷 紀章1寺田 暁彦1野田 徹郎 (1.東京工業大学理学院火山流体研究センター)

キーワード:気体水銀、熱水系、箱根火山

土壌から揮発する水銀は,地下浅部における高温領域を反映する指標として知られる.一般に,水銀は温泉水や熱水変質鉱物に特徴的に含まれており,揮発性が高いことや,温度変化に対して揮発量が顕著に変化すること,環境中の気体水銀濃度が十分に低いこと等の特徴を有している.したがって,土壌から揮発してくる水銀量の多少は,地中に伏在している熱活動を検出する手掛かりとなる.

近年,野外で使用可能な小型・可般の水銀濃度測定装置が開発され,火山地域での水銀測定が行われている(例えばTassi et al., 2016).本研究では,火口周辺において土壌から揮発している気体水銀濃度(以下,水銀濃度)を計測し,その空間分布を明らかにしつつ,測定の諸問題を検討した.用いた観測システムは NIC 社の小型気体水銀濃度測定装置 EMP-2,金アマルガム捕集ユニットおよび気体を捕集するポリプロピレン製のチャンバー(野田・他,2012)である.本システムでは,金アマルガム法に基づく濃縮技術を用いるため,わが国の標準的な大気中における水銀濃度に相当する 2 ng/m3 前後の低い水銀濃度であっても検出できる.

本装置は水銀濃度を計測するものであり,その値と土壌から放出される水銀放出率との関係は自明ではない.そこで,本測定システムを定式化して数値的に検討し,水銀質量 flux を推定する方法を考察した.計算により,地表面から放出される水銀質量 flux を反映した水銀濃度を測定するための諸条件が明らかとなった.例えば,火口からやや離れた環境を想定した場合,測定される水銀濃度が十分に安定するまでに10分程度の時間が必要である.これは,経験的に知られている知見によく一致する.このように得られた水銀濃度に対して,測定装置によって決まるパラメータを乗じることで,その地点における水銀放質量 flux を算出可能なことが示された.また,土壌ガスをセンサへ導入するための装置の形状を変更することで,より短時間で効率よい測定が可能となることも示唆された.

本装置を用いて,箱根火山大涌谷周辺の約40箇所において水銀濃度測定を行なった.箱根火山を選定したのは,同火山は2015年6月に噴火した活動的火山であることや,これまでの研究により,温泉流動や地下構造が比較的よくわかっている等の理由に基づく.2016年9月の測定では,気体水銀濃度は場所により2桁の範囲で変動が認められた.また,先行研究と同様に,測定環境温度に対する水銀濃度の依存性が認められた.

経験的関係に基づき温度補正を行った結果,大涌谷中心からの距離に従い,水銀放出率が減少していく様子が確認できた.大涌谷から 1.5 ~ 2 km 程度離れると,水銀放出率はほぼ一定の値で推移するようになる.この値は,箱根地域におけるバックグラウンドレベルの水銀放出率に対応すると思われる.水銀放出率の分布を地図上で検討すると,噴気など地表面に熱活動が認められないにも関わらず,水銀濃度がやや高い領域が,例えば大涌谷の北東部に見出された.この領域は,大涌谷から見て山麓方向に相当する.このように高い水銀濃度が生じる原因として,本地域に伏在する熱水の存在や,あるいは大涌谷噴気地から流れてきた火山ガス中に含まれる水銀の沈着の影響などが考えられる.

本研究には,独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金,研究課題番号 15K01247(研究代表者:寺田暁彦)を用いた.