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[SVC49-12] 噴石衝突に対する木造建築物屋根の安全性噴石衝突に対する木造建築物屋根の安全性
キーワード:噴石、木造建築物屋根、衝突
1. 緒言
火山災害には,噴煙・溶岩流・火砕流・岩屑なだれ・土石流など,多様な要因が挙げられる.中でも,2014年9月27日に発生した御嶽山噴火において,その被害の多くは噴石衝突による損傷が主な原因であった.噴石被害が拡大した要因として,御嶽山にはシェルター等の避難施設が設置されていなかったことが挙げられることから,現在,活火山における退避壕等の充実が急がれている.一方で,山頂付近であっても,山小屋に非難した登山客は噴石被害から逃れることができた.この事実は,山小屋等の既存建築物の利用が,噴石衝突から身を守る上で非常に有効であることを示したと言える.
山小屋をはじめとした木造建築物は,その施設の強度に応じて一定の規模の噴石の衝突に対する安全性を有すると考えられるが,あらゆる噴石被害に対して安全性を確保するものではない.そのため,噴石衝突に対する木造建築物の安全性を正しく評価することが必要である.これまで著者らは,高機能繊維を用いて既存の木造建築物の補強に関する研究を行ってきたが,補強されていない既存の木造建築物が噴石に対してどれほどの耐久性を有しているかはわかっていない.
そこで本研究では,一般的に用いられている杉板を用いた木造建築物屋根に対して噴石衝突模擬実験を行うことにより,噴石衝突に対する安全性を明らかにする.
2. 実験方法
2.1 飛翔体
飛翔体には,噴石の標準的な密度(約2400㎏/m³)に近い値を持つ直径90mmのビトリファイド砥石(2421㎏/m³)を用いた.火山噴火において飛散するものは,小さいもので直径2~64mmの大きさの火山れき,このサイズ以上の噴石が存在する.中でも,噴火時に最も多く飛散する噴石はこぶし大サイズ(φ100mm程度)である.そこで,本研究では,直径128mmの噴石を想定し,飛翔体質量を2.66kgとした.
2.2 木造建築物の屋根模擬試験体
木造建築物屋根を模擬するため,屋根板として板厚18mmの杉板,その表面に防水シートと厚さ0.4mmのガルバリウム鋼板を取り付けたものに,垂木を組み合わせた試験体を作製した.このとき,試験体は5枚の杉板により構成されており,外側の2枚が75mm×600mm,中心3枚は150mm×600mmである.試験体全体の寸法は600mm×600mmである.垂木の寸法は高さ90mm,厚さ45mm,長さ600mmであり,垂木間隔は,垂木の中心を基準として455mmである.構成部材は釘により固定しており,釘間隔はおおむね150mmである.この試験体を実験装置に固定する際には,外径750mm×750mm,内径450mm×450mmの鉄枠により挟み込み,ボルトにより固定した.
2.3 高速投射型衝突破壊実験装置
高速投射型衝突破壊実験装置は発射部およびターゲット台で構成されている.圧縮空気により飛翔体を加速し,ターゲットに衝突させる構造になっている.衝突速度は,発射管の先端2カ所に50 mmの間隔で設置したレーザーおよび受光部を用いて測定を行う.飛翔体がレーザーを通過し,受光部への照射を遮ると受光部から出力される電圧が低下し,飛翔体が通過し終わると,再度受光部にレーザーが照射され,電圧が増加する.この電圧低下点および電圧上昇点の時間差を利用して衝突速度を測定した.
3. 屋根模擬試験体に対する衝突実験
3.1 実験条件
本実験では,飛翔体の質量を2.66㎏に固定したため,速度を変化させることで,運動エネルギーを変化させた.このとき,飛翔体の持つ運動エネルギーを衝突エネルギーとし,このエネルギー量に着目して,実験を行った.飛翔体速度は10m/s~100m/sの範囲で行った.
3.2 実験結果
運動エネルギーを変化させた実験より,衝突エネルギー1200J付近が貫通と不貫通の境界となることがわかった.また,比較的衝突エネルギーの小さい場合では,貫通・不貫通にかかわらず,衝突箇所から放射状にしわが観察され,ガルバリウム鋼板全体に変形が生じていた.この時,杉板は衝突した中央の板のみが変形しており,その他の板および垂木に変形は見られなかった.変形した杉板は垂木に沿って破断しており,垂木を支点とした曲げ変形の影響が大きいことがわかった.
一方,衝突エネルギーの大きい場合においては,ガルバリウム鋼板に変形した様子は観察されず,飛翔体との接触面付近のみの局所的なせん断破壊が観察された.杉板は衝突部から破壊が広がっていることがわかった.これらの結果から,杉板とガルバリウム鋼板において,衝突エネルギーによって変形の様相が変化することがわかった.
3.3 屋根模擬試験体の貫通限界
実験結果より,屋根模擬試験体の貫通境界は1200~1500J付近と求めることができた.内閣府が定めている「活火山における退避壕等の充実に向けた手引き 参考資料」の中にある様々な噴石のサイズと衝突エネルギーの目安を参考にすると,得られた値は,火山れきの上限である直径64mmの火山れきが100m/sで衝突する際の衝突エネルギーである1700Jに近いことがわかる.本実験での飛翔体との大きさは異なるため,あくまでもエネルギー量から考えた目安となるが,18mmの杉板を使用した木造建築物屋根では,大半の火山れきの貫通を防ぐことが可能であると考えられる.
4. 結言
本研究では,高速投射型衝突破壊実験装置を用いて木造建築物屋根を模擬した試験体に対する衝突実験を行った.このとき,2.66kgの飛翔体,板厚18mm,垂木幅455mmの杉板の屋根を想定して実験を行い,以下のことがわかった.
(1) 18mmの試験体の貫通の境界エネルギーは1200J付近である.
(2) 衝突エネルギーが小さい場合,垂木を支点とした曲げ変形が支配的であるが,衝突エネルギーが大きい場合は衝突部から変形が広がる様相が観察された.
(3) 板厚18mmの試験体は,100m/sで飛んでくる火山れきの大半の貫通を防ぐことができる.
火山災害には,噴煙・溶岩流・火砕流・岩屑なだれ・土石流など,多様な要因が挙げられる.中でも,2014年9月27日に発生した御嶽山噴火において,その被害の多くは噴石衝突による損傷が主な原因であった.噴石被害が拡大した要因として,御嶽山にはシェルター等の避難施設が設置されていなかったことが挙げられることから,現在,活火山における退避壕等の充実が急がれている.一方で,山頂付近であっても,山小屋に非難した登山客は噴石被害から逃れることができた.この事実は,山小屋等の既存建築物の利用が,噴石衝突から身を守る上で非常に有効であることを示したと言える.
山小屋をはじめとした木造建築物は,その施設の強度に応じて一定の規模の噴石の衝突に対する安全性を有すると考えられるが,あらゆる噴石被害に対して安全性を確保するものではない.そのため,噴石衝突に対する木造建築物の安全性を正しく評価することが必要である.これまで著者らは,高機能繊維を用いて既存の木造建築物の補強に関する研究を行ってきたが,補強されていない既存の木造建築物が噴石に対してどれほどの耐久性を有しているかはわかっていない.
そこで本研究では,一般的に用いられている杉板を用いた木造建築物屋根に対して噴石衝突模擬実験を行うことにより,噴石衝突に対する安全性を明らかにする.
2. 実験方法
2.1 飛翔体
飛翔体には,噴石の標準的な密度(約2400㎏/m³)に近い値を持つ直径90mmのビトリファイド砥石(2421㎏/m³)を用いた.火山噴火において飛散するものは,小さいもので直径2~64mmの大きさの火山れき,このサイズ以上の噴石が存在する.中でも,噴火時に最も多く飛散する噴石はこぶし大サイズ(φ100mm程度)である.そこで,本研究では,直径128mmの噴石を想定し,飛翔体質量を2.66kgとした.
2.2 木造建築物の屋根模擬試験体
木造建築物屋根を模擬するため,屋根板として板厚18mmの杉板,その表面に防水シートと厚さ0.4mmのガルバリウム鋼板を取り付けたものに,垂木を組み合わせた試験体を作製した.このとき,試験体は5枚の杉板により構成されており,外側の2枚が75mm×600mm,中心3枚は150mm×600mmである.試験体全体の寸法は600mm×600mmである.垂木の寸法は高さ90mm,厚さ45mm,長さ600mmであり,垂木間隔は,垂木の中心を基準として455mmである.構成部材は釘により固定しており,釘間隔はおおむね150mmである.この試験体を実験装置に固定する際には,外径750mm×750mm,内径450mm×450mmの鉄枠により挟み込み,ボルトにより固定した.
2.3 高速投射型衝突破壊実験装置
高速投射型衝突破壊実験装置は発射部およびターゲット台で構成されている.圧縮空気により飛翔体を加速し,ターゲットに衝突させる構造になっている.衝突速度は,発射管の先端2カ所に50 mmの間隔で設置したレーザーおよび受光部を用いて測定を行う.飛翔体がレーザーを通過し,受光部への照射を遮ると受光部から出力される電圧が低下し,飛翔体が通過し終わると,再度受光部にレーザーが照射され,電圧が増加する.この電圧低下点および電圧上昇点の時間差を利用して衝突速度を測定した.
3. 屋根模擬試験体に対する衝突実験
3.1 実験条件
本実験では,飛翔体の質量を2.66㎏に固定したため,速度を変化させることで,運動エネルギーを変化させた.このとき,飛翔体の持つ運動エネルギーを衝突エネルギーとし,このエネルギー量に着目して,実験を行った.飛翔体速度は10m/s~100m/sの範囲で行った.
3.2 実験結果
運動エネルギーを変化させた実験より,衝突エネルギー1200J付近が貫通と不貫通の境界となることがわかった.また,比較的衝突エネルギーの小さい場合では,貫通・不貫通にかかわらず,衝突箇所から放射状にしわが観察され,ガルバリウム鋼板全体に変形が生じていた.この時,杉板は衝突した中央の板のみが変形しており,その他の板および垂木に変形は見られなかった.変形した杉板は垂木に沿って破断しており,垂木を支点とした曲げ変形の影響が大きいことがわかった.
一方,衝突エネルギーの大きい場合においては,ガルバリウム鋼板に変形した様子は観察されず,飛翔体との接触面付近のみの局所的なせん断破壊が観察された.杉板は衝突部から破壊が広がっていることがわかった.これらの結果から,杉板とガルバリウム鋼板において,衝突エネルギーによって変形の様相が変化することがわかった.
3.3 屋根模擬試験体の貫通限界
実験結果より,屋根模擬試験体の貫通境界は1200~1500J付近と求めることができた.内閣府が定めている「活火山における退避壕等の充実に向けた手引き 参考資料」の中にある様々な噴石のサイズと衝突エネルギーの目安を参考にすると,得られた値は,火山れきの上限である直径64mmの火山れきが100m/sで衝突する際の衝突エネルギーである1700Jに近いことがわかる.本実験での飛翔体との大きさは異なるため,あくまでもエネルギー量から考えた目安となるが,18mmの杉板を使用した木造建築物屋根では,大半の火山れきの貫通を防ぐことが可能であると考えられる.
4. 結言
本研究では,高速投射型衝突破壊実験装置を用いて木造建築物屋根を模擬した試験体に対する衝突実験を行った.このとき,2.66kgの飛翔体,板厚18mm,垂木幅455mmの杉板の屋根を想定して実験を行い,以下のことがわかった.
(1) 18mmの試験体の貫通の境界エネルギーは1200J付近である.
(2) 衝突エネルギーが小さい場合,垂木を支点とした曲げ変形が支配的であるが,衝突エネルギーが大きい場合は衝突部から変形が広がる様相が観察された.
(3) 板厚18mmの試験体は,100m/sで飛んでくる火山れきの大半の貫通を防ぐことができる.