JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] [JJ] 火山防災の基礎と応用

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

[SVC49-P05] 流紋岩質メルトの発泡実験と溶岩ドーム爆発条件の制約

谷口 瑞帆1、*吉村 俊平1 (1.北海道大学・地球惑星科学)

キーワード:発泡、溶岩、爆発

研究背景
溶岩ドームは定置後、突如大爆発を起こし、大規模な火砕流を発生させることがある。例えば1902年のプレー火山、1973年のサンタマリア火山、1991年の雲仙普賢岳の火砕流も溶岩ドームの爆発が原因と考えられている(Ui et al., 1999)。溶岩ドームの爆発は、既に定置した溶岩内部でのガス圧の蓄積がトリガーとなる。すなわち、メルトの高い粘性が気泡の成長を妨げると、気泡内のガス圧は増加し、ガスの過剰圧がメルトの強度を超えることで溶岩が爆発すると考えられる(Sato et al.,1992)。したがって溶岩ドームの爆発の予測を行うには、溶岩の発泡速度を解明しなければならない。これまで流紋岩の発泡速度を求めた実験は行われたが、試料の含水量が非常に低いか(Bagdassarov et al.,1996・Ryan et al.,2015)、または非常に高く(Stevenson et al.,1997)、溶岩ドーム内部には適用しがたいものであった。そこで本研究では溶岩ドーム内部の条件に近い含水量(0.59 wt%)や温度(750~900℃)で加熱発泡実験を行った。そしてその結果を用いて、溶岩ドームの爆発の危険性が低下するまでの時間を予測した。

実験方法
 初期含水量0.59 wt%の黒曜石をマッフル炉に入れ、750、800、850、900℃の4つの温度で15分~95時間加熱発泡させた。試料回収後、画像解析によって発泡度を測定し、その時間変化を調べた。

実験結果
 すべての実験温度で、時間とともに発泡度は増加した。発泡速度は初め遅く、あるところで一気に平衡発泡度(すべての水が気体になった場合の発泡度)付近まで増加した。発泡速度は温度に強く依存し、900℃では約45分、850℃では約4時間、800℃では約16時間で平衡発泡度付近に達した。また750℃では、95時間の加熱でも平衡発泡度付近には到達しなかった。

考察
発泡度と加熱時間の関係にAvrami方程式を適用し、温度ごとに発泡の速度定数を求めた。
そして速度定数と温度の関係から活性化エネルギーを求めたところ、304 (+/-9) kJ/molであった。この値を、マグマの粘性流動の活性化エネルギー(338 kJ/mol, Giordano et al.,2008)と水の拡散の活性化エネルギー(88 kJ/mol, Zhang et al.,2007)と比較したところ、粘性流動の値と近い。したがって本条件での発泡の律速過程は、マグマの粘性流動だと考えられる。

溶岩ドームへの応用
次にこの結果を溶岩ドームの爆発の予測に応用した。溶岩ドームの爆発の危険性が低下するためには、ガスの過剰圧がこれ以上蓄積しなければよい。ドーム表面は定置後急冷し、発泡の進行が停止するため、ガス圧の蓄積は回避される。一方ドーム内部は冷却するよりも速く発泡が十分に進行するため、ガス圧の蓄積は回避される。中間部分は、緩やかな温度低下と、それに伴う発泡速度の低下が同時に起こるため、発泡の進行は妨げられ、爆発の危険性は最も長時間維持される。そのため、ドーム全体の爆発の危険性が低下するのは、この中間部分のメルトが凍結される、または発泡が十分に進行した時と考えられる。そこで、このことを熱伝導による温度低下と、実験で求めた発泡速度の関係を用いてモデル化し、ドーム全体の爆発の危険性が低下するまでの時間を計算した。その結果、初期温度900℃の場合、この時間はおよそ5時間であるが、750℃の場合およそ11日であった。このようにドームの初期温度が低いほど、爆発の危険性は長時間維持されることがわかった。また、上記の考えに基づくと、ドームの地表付近は低発泡度、内部は高発泡度であると考えられる。この考えはパン皮状火山弾の冷却・発泡過程の理解にも有用と考えられる。