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[SVC50-01] 北海道北部,利尻火山に産するカルクアルカリ安山岩の岩石学的成因
キーワード:カルクアルカリ安山岩、マグマ混合、アダカイト、利尻火山
1. はじめに
島弧火山がどのように活動を開始して進化し,その終末を迎えるかを理解することは,長期的な噴火予測に役に立つだけでなく,島弧深部の組成・熱構造の時間変化や島弧地殻の進化の解明につながる.利尻火山は周囲の第四紀火山から約 200 km離れており,先行する火山活動もないと考えられていることから,火山の一生やその岩石学的成因を検討する上で好都合な火山と言える (石塚・中川,1999).
カルクアルカリ安山岩は典型的に島弧に産出し,大陸地殻の平均化学組成と類似する岩石であるが,利尻火山においても活動の最盛期 (石塚, 1999) に多量のカルクアルカリ安山岩を噴出している.この安山岩を生成したマグマプロセスを明らかにし,それらから初生的な情報を抽出することができれば,前後に噴出した岩石 (例えばアルカリ玄武岩) と比較することにより,利尻火山における火成活動あるいは岩石学的進化がどのような要素に支配されていたのかを連続的に理解することにつながる.また,先行/近接する活動がない場所,あるいは超背弧におけるカルクアルカリ安山岩の成因を,典型的島弧と比較し,その普遍性あるいは特異性を検討することも期待できる.今回はその第一段階として岩石記載・全岩化学組成・鉱物化学組成および同位体組成から与えられる制約を基に,カルクアルカリ安山岩の成因についての考察を行う.
2. 岩石学的特徴
カルクアルカリ安山岩は利尻山の成層火山体を形成しており,溶岩流と火砕物の互層からなる.全岩SiO2量は 58.2 wt.% から 65.3 wt.% の範囲を示すもののSiO2=~62-~64 wt.%の間の組成を示すサンプルは少ない.これ以降,この組成ギャップより苦鉄質なものをA(Andesite)-type,珪長質なものをD(Dacite)-typeと呼称する.A-typeは斑晶鉱物として斜長石>斜方輝石>単斜輝石>かんらん石を含む.また,これらの鉱物の一部あるいは全部の組み合わせの集斑晶がみられる.両輝石と斜長石には逆累帯構造を示すものがあり,斜長石の中心はAn=~45から~88と幅広い.かんらん石の中心はMg#=~64から~88で多くは周囲に斜方輝石反応縁を持つ.さらに,斑れい岩ゼノリス,角閃石メガクリスト,マフィックインクルージョンが含まれる.D-typeは斑晶鉱物として斜長石>斜方輝石>単斜輝石を含み,正累帯構造を示す鉱物が支配的である.また,ゼノリスやメガクリストは含まれない.主要元素および微量元素の多くはハーカー図上において概ね直線的なトレンドを示すが,Cr,Ni含有量はSiO2=~59-60 wt.% の範囲において1本の混合トレンドを作らず,Sr含有量はA-typeの苦鉄質側とD-typeで高く,A-typeの珪長質側で低い.LREE/HREE比はA-type<D-typeで,Euの負の異常はA-typeでみられるのに対してD-typeではみられない.87Sr/86Srおよび206Pb/204PbはSiO2の増加とともに高くなる.143Nd/144NdはA-typeで高く,D-typeで低い.Putirka (2008)の両輝石温度圧力計を共存する両輝石の組成に適用して求めたマグマ溜まりの温度圧力条件はA-typeでT=~970-1000 ℃,P=~3.6-4.1 kbarであり,D-typeでT=~970-980 ℃, P=~4.1 kbarと,両者の間に有意な差が認められない.
3. 議論
岩石学的特徴は,カルクアルカリ安山岩が苦鉄質マグマと珪長質マグマの混合によって形成されたことを支持する.議論では,これらの端成分マグマの特徴と成因を考察する.
苦鉄質端成分は,SiO2 vs Ni, Cr のハーカー図が直線的トレンドを示さないこと,かんらん石のモード量がSiO2=~60 wt.%前後で最大となること,かんらん石と斜長石斑晶コアの幅広い化学組成などといった観察事実から,初生的なマグマからの結晶分化などで作られた不均質あるいは複数の玄武岩質マグマであったと考えられる. 珪長質端成分は,D-typeにマグマ混合の影響を示す岩石学的特徴が無いことから,ほとんどD-type自体が珪長質端成分マグマであったと考えられる.つまり,珪長質端成分(=D-type)と苦鉄質端成分の混合によるA-typeの形成が示唆される.
さて,珪長質側端成分(=D-type)の化学組成と同位体組成はMartin (2005)のHSA(High-SiO2 Adakite)組成に類似し,同時に比較的高いMgOおよびCr, Ni含有量を持つ.この組成は未分化なアルカリ玄武岩からの結晶分化では得られないことから,地殻の部分溶融か沈み込んだスラブの部分溶融にその起源があると考えられる.まず地殻の部分溶融であるが,利尻島で採取された花崗閃緑岩(上部地殻と想定)のPb同位体比はD-typeに比べて有意に高い.それに対してA-typeに含まれる斑れい岩ゼノリス(下部地殻と想定)のPb同位体比はD-typeに比べ有意に低い.つまり,我々が手にした上部・下部地殻を構成すると思われる岩石の単純な部分溶融では珪長質側端成分を生成することができない.地殻から珪長質側端成分を生成するには,下部地殻の部分溶融に加えて上部地殻の同化などの複数段階の生成分化プロセス,あるいは適切な化学組成と同位体組成を持つ中部地殻の部分溶融などを想定する必要がある.つまり,珪長質側端成分(=D-type)の生成プロセスとしては,1)地殻での複数段階を経るような生成分化,2)適切な組成をもつ中部地殻の部分溶融,3)沈み込んだスラブの部分溶融とマントルとの反応,が考えられる.
島弧火山がどのように活動を開始して進化し,その終末を迎えるかを理解することは,長期的な噴火予測に役に立つだけでなく,島弧深部の組成・熱構造の時間変化や島弧地殻の進化の解明につながる.利尻火山は周囲の第四紀火山から約 200 km離れており,先行する火山活動もないと考えられていることから,火山の一生やその岩石学的成因を検討する上で好都合な火山と言える (石塚・中川,1999).
カルクアルカリ安山岩は典型的に島弧に産出し,大陸地殻の平均化学組成と類似する岩石であるが,利尻火山においても活動の最盛期 (石塚, 1999) に多量のカルクアルカリ安山岩を噴出している.この安山岩を生成したマグマプロセスを明らかにし,それらから初生的な情報を抽出することができれば,前後に噴出した岩石 (例えばアルカリ玄武岩) と比較することにより,利尻火山における火成活動あるいは岩石学的進化がどのような要素に支配されていたのかを連続的に理解することにつながる.また,先行/近接する活動がない場所,あるいは超背弧におけるカルクアルカリ安山岩の成因を,典型的島弧と比較し,その普遍性あるいは特異性を検討することも期待できる.今回はその第一段階として岩石記載・全岩化学組成・鉱物化学組成および同位体組成から与えられる制約を基に,カルクアルカリ安山岩の成因についての考察を行う.
2. 岩石学的特徴
カルクアルカリ安山岩は利尻山の成層火山体を形成しており,溶岩流と火砕物の互層からなる.全岩SiO2量は 58.2 wt.% から 65.3 wt.% の範囲を示すもののSiO2=~62-~64 wt.%の間の組成を示すサンプルは少ない.これ以降,この組成ギャップより苦鉄質なものをA(Andesite)-type,珪長質なものをD(Dacite)-typeと呼称する.A-typeは斑晶鉱物として斜長石>斜方輝石>単斜輝石>かんらん石を含む.また,これらの鉱物の一部あるいは全部の組み合わせの集斑晶がみられる.両輝石と斜長石には逆累帯構造を示すものがあり,斜長石の中心はAn=~45から~88と幅広い.かんらん石の中心はMg#=~64から~88で多くは周囲に斜方輝石反応縁を持つ.さらに,斑れい岩ゼノリス,角閃石メガクリスト,マフィックインクルージョンが含まれる.D-typeは斑晶鉱物として斜長石>斜方輝石>単斜輝石を含み,正累帯構造を示す鉱物が支配的である.また,ゼノリスやメガクリストは含まれない.主要元素および微量元素の多くはハーカー図上において概ね直線的なトレンドを示すが,Cr,Ni含有量はSiO2=~59-60 wt.% の範囲において1本の混合トレンドを作らず,Sr含有量はA-typeの苦鉄質側とD-typeで高く,A-typeの珪長質側で低い.LREE/HREE比はA-type<D-typeで,Euの負の異常はA-typeでみられるのに対してD-typeではみられない.87Sr/86Srおよび206Pb/204PbはSiO2の増加とともに高くなる.143Nd/144NdはA-typeで高く,D-typeで低い.Putirka (2008)の両輝石温度圧力計を共存する両輝石の組成に適用して求めたマグマ溜まりの温度圧力条件はA-typeでT=~970-1000 ℃,P=~3.6-4.1 kbarであり,D-typeでT=~970-980 ℃, P=~4.1 kbarと,両者の間に有意な差が認められない.
3. 議論
岩石学的特徴は,カルクアルカリ安山岩が苦鉄質マグマと珪長質マグマの混合によって形成されたことを支持する.議論では,これらの端成分マグマの特徴と成因を考察する.
苦鉄質端成分は,SiO2 vs Ni, Cr のハーカー図が直線的トレンドを示さないこと,かんらん石のモード量がSiO2=~60 wt.%前後で最大となること,かんらん石と斜長石斑晶コアの幅広い化学組成などといった観察事実から,初生的なマグマからの結晶分化などで作られた不均質あるいは複数の玄武岩質マグマであったと考えられる. 珪長質端成分は,D-typeにマグマ混合の影響を示す岩石学的特徴が無いことから,ほとんどD-type自体が珪長質端成分マグマであったと考えられる.つまり,珪長質端成分(=D-type)と苦鉄質端成分の混合によるA-typeの形成が示唆される.
さて,珪長質側端成分(=D-type)の化学組成と同位体組成はMartin (2005)のHSA(High-SiO2 Adakite)組成に類似し,同時に比較的高いMgOおよびCr, Ni含有量を持つ.この組成は未分化なアルカリ玄武岩からの結晶分化では得られないことから,地殻の部分溶融か沈み込んだスラブの部分溶融にその起源があると考えられる.まず地殻の部分溶融であるが,利尻島で採取された花崗閃緑岩(上部地殻と想定)のPb同位体比はD-typeに比べて有意に高い.それに対してA-typeに含まれる斑れい岩ゼノリス(下部地殻と想定)のPb同位体比はD-typeに比べ有意に低い.つまり,我々が手にした上部・下部地殻を構成すると思われる岩石の単純な部分溶融では珪長質側端成分を生成することができない.地殻から珪長質側端成分を生成するには,下部地殻の部分溶融に加えて上部地殻の同化などの複数段階の生成分化プロセス,あるいは適切な化学組成と同位体組成を持つ中部地殻の部分溶融などを想定する必要がある.つまり,珪長質側端成分(=D-type)の生成プロセスとしては,1)地殻での複数段階を経るような生成分化,2)適切な組成をもつ中部地殻の部分溶融,3)沈み込んだスラブの部分溶融とマントルとの反応,が考えられる.