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[SVC50-05] 月の縦孔Marius Hills Hole下部における溶岩チューブ洞窟の存在可能性
キーワード:月の縦孔、溶岩チューブ、溶岩洞窟
[はじめに]
Haruyamaらによって発見されたMarius Hills Hole(MHH)はその後Robinsonらによりその縦穴断面で複数の溶岩流層が撮像された。その一つの溶岩流層の流動臨界条件(流動停止条件)から溶岩の降伏値を求め、MHHの下部に溶岩チューブ洞窟があるとした場合の洞窟高さを推定し、HaruyamaらおよびRobinsonらが得ている洞窟高さの実測値と比較した。また天井厚さから単純梁モデルを用いて支持可能な洞窟幅を推定した。
[検討モデル]
Fig.1のモデルに示すように、密度ρの溶岩流を降伏値fBのビンガム流体として角度αの傾斜した面を重力gで流れる場合を考える。溶岩流の流動臨界条件はHを溶岩流厚さとするとH=nfB/(ρg sinα)で表される。斜面表面上を自由表面をもって流れる場合はn=1,天井が拘束された無限幅平行平板間内を流れる場合はn=2,さらに円管内を流れる場合はn=4である(Hulme)。n が 2と4の間では矩形流路断面のチューブ状流れとなる。ここでは、月の溶岩チューブ洞窟が円管内あるいは平行平板間内流れとして形成されたとして、発見された縦穴の深さと整合的かどうか検討を試みた。
[溶岩降伏値と溶岩チューブ洞窟高さの推定]
MHHの縦穴形状はFig.2に示すように、縦穴の深さは48m(Haruyamaら)、内部空洞の高さは17m(Robinsonら)、したがって縦穴天井断面層の層状溶岩をなす全体の厚さは31mである。縦孔断面の層状溶岩は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層 (Robinsonら)からなる。ここでは平均厚H=6mを使う。 Rille- A 地域の傾斜角が0.31度(Greeley),重力加速度g=162 cm/s2 密度ρ=2.5g/cm3 で n=1の場合の溶岩流停止条件から、降伏値1314 dyne/cm2 が得られる。n=2の場合H=は12m,n=4の場合は24mとなり、実際の空洞高さは17mなので、チューブ形状は横長の矩形断面形状でnは2と4の間にあると考えられる。
[溶岩チューブ洞窟幅の推定]
天井厚さ31mから梁モデルを使って天井が落下しないで耐えうる幅を推定することができる。洞窟幅をℓ、溶岩引張強度S=6.9x107dyne/cm2(Oberbeckら)、天井厚さd、として集中荷重モデル(Oberbeckら)ではℓ=((4/3)Sd/ρg)1/2=313m、分布荷重モデル(本多)ではℓ=(2Sd/ρg)1/2=327m,となる。天井がアーチ形状の場合は荷重を圧縮でも受けるので幅はもっと広くなるであろう。空洞高さ17m, 幅327mの矩形断面チューブ内の溶岩流の流動臨界条件はn=2とn=4の間になる。
[おわりに]
今回の検討で得られた溶岩チューブ洞窟高さの推定値は実測値とおおむね一致する。MHH下に空洞高さ17m,幅327mの矩形断面の溶岩チューブ洞窟が存在する可能性が高いと考えられる。Soodらによる重力計測によりMHH近傍に空洞があることもその存在を示唆している。今後の詳細な研究と探査に大きな期待がかけられる。
参考文献
1)Haruyama,J. et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
2)Haruyama,J. et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
3)Haruyama,J.et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
4)Robinson,M.S. et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
5)Hulme,G(1974).: Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
6)Greeley,G(1971):The Moon 3(1971)pp289-314
7)Oberbeck,V.R. et al(1969):Modern Geology 1969, Vol. 1, pp. 75-80
8)本多力(2002):2002年日本洞窟学会秋吉台大会講演要旨集p34
9)Sood,R.et al(2015): 2nd International Planetary Caves Conference (2015)
10)Sood,R et al(2016): 47th Lunar and Planetary Science Conference (2016)
Haruyamaらによって発見されたMarius Hills Hole(MHH)はその後Robinsonらによりその縦穴断面で複数の溶岩流層が撮像された。その一つの溶岩流層の流動臨界条件(流動停止条件)から溶岩の降伏値を求め、MHHの下部に溶岩チューブ洞窟があるとした場合の洞窟高さを推定し、HaruyamaらおよびRobinsonらが得ている洞窟高さの実測値と比較した。また天井厚さから単純梁モデルを用いて支持可能な洞窟幅を推定した。
[検討モデル]
Fig.1のモデルに示すように、密度ρの溶岩流を降伏値fBのビンガム流体として角度αの傾斜した面を重力gで流れる場合を考える。溶岩流の流動臨界条件はHを溶岩流厚さとするとH=nfB/(ρg sinα)で表される。斜面表面上を自由表面をもって流れる場合はn=1,天井が拘束された無限幅平行平板間内を流れる場合はn=2,さらに円管内を流れる場合はn=4である(Hulme)。n が 2と4の間では矩形流路断面のチューブ状流れとなる。ここでは、月の溶岩チューブ洞窟が円管内あるいは平行平板間内流れとして形成されたとして、発見された縦穴の深さと整合的かどうか検討を試みた。
[溶岩降伏値と溶岩チューブ洞窟高さの推定]
MHHの縦穴形状はFig.2に示すように、縦穴の深さは48m(Haruyamaら)、内部空洞の高さは17m(Robinsonら)、したがって縦穴天井断面層の層状溶岩をなす全体の厚さは31mである。縦孔断面の層状溶岩は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層 (Robinsonら)からなる。ここでは平均厚H=6mを使う。 Rille- A 地域の傾斜角が0.31度(Greeley),重力加速度g=162 cm/s2 密度ρ=2.5g/cm3 で n=1の場合の溶岩流停止条件から、降伏値1314 dyne/cm2 が得られる。n=2の場合H=は12m,n=4の場合は24mとなり、実際の空洞高さは17mなので、チューブ形状は横長の矩形断面形状でnは2と4の間にあると考えられる。
[溶岩チューブ洞窟幅の推定]
天井厚さ31mから梁モデルを使って天井が落下しないで耐えうる幅を推定することができる。洞窟幅をℓ、溶岩引張強度S=6.9x107dyne/cm2(Oberbeckら)、天井厚さd、として集中荷重モデル(Oberbeckら)ではℓ=((4/3)Sd/ρg)1/2=313m、分布荷重モデル(本多)ではℓ=(2Sd/ρg)1/2=327m,となる。天井がアーチ形状の場合は荷重を圧縮でも受けるので幅はもっと広くなるであろう。空洞高さ17m, 幅327mの矩形断面チューブ内の溶岩流の流動臨界条件はn=2とn=4の間になる。
[おわりに]
今回の検討で得られた溶岩チューブ洞窟高さの推定値は実測値とおおむね一致する。MHH下に空洞高さ17m,幅327mの矩形断面の溶岩チューブ洞窟が存在する可能性が高いと考えられる。Soodらによる重力計測によりMHH近傍に空洞があることもその存在を示唆している。今後の詳細な研究と探査に大きな期待がかけられる。
参考文献
1)Haruyama,J. et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
2)Haruyama,J. et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
3)Haruyama,J.et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
4)Robinson,M.S. et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
5)Hulme,G(1974).: Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
6)Greeley,G(1971):The Moon 3(1971)pp289-314
7)Oberbeck,V.R. et al(1969):Modern Geology 1969, Vol. 1, pp. 75-80
8)本多力(2002):2002年日本洞窟学会秋吉台大会講演要旨集p34
9)Sood,R.et al(2015): 2nd International Planetary Caves Conference (2015)
10)Sood,R et al(2016): 47th Lunar and Planetary Science Conference (2016)