JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50] [JJ] 火山・火成活動と長期予測

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:松本 亜希子(北海道大学大学院理学研究院)

11:45 〜 12:00

[SVC50-11] 九州南部、7300年前の鬼界カルデラ形成噴火(K-Ah)の岩石学的研究

*松本 亜希子1中川 光弘1小林 恭平1前野 深2 (1.北海道大学大学院理学研究院、2.東京大学地震研究所)

キーワード:鬼界カルデラ、大規模珪長質マグマシステム、複数の珪長質マグマ

九州南部に位置する鬼界カルデラは、日本で最も新しいカルデラ火山であり、約7300年前に鬼界アカホヤ噴火(K-Ah)を起こした。K-Ah噴火の活動は、時間間隙を挟んで、プリニー式噴火~噴煙柱崩壊型火砕流の流出(ステージ1)とカルデラ陥没を伴う大規模火砕流噴火(ステージ2)に分けられる(Maeno & Taniguchi, 2007)。また、K-Ah噴火に先行して、流紋岩質溶岩が流出した(長浜溶岩)。このように、K-Ah噴火の噴火推移は詳細は徐々に分かりつつあるが、岩石学的研究は少なく、カルデラ形成噴火をもたらしたマグマ供給系については明らかになっていない。そこで本研究では、K-Ah噴火のマグマ供給系を明らかにするために、長浜溶岩も含めたK-Ah噴出物の岩石学的・地球化学的検討を行った。
K-Ah噴火の本質物は、主に流紋岩質軽石からなり、ステージ2の上部には不均質な安山岩質スコリアが含まれる。斑晶鉱物組み合わせは、斜長石・斜方輝石・単斜輝石・鉄チタン酸化物であり、長浜溶岩も含め共通している。斑晶コア組成をみると、軽石はステージによらず特徴は同じで、Caに乏しい斜長石(An40-64)とFeに富んだ輝石(Mg#64-69の斜方輝石・Mg#68-73の単斜輝石)からなり、いずれもやや組成幅が広い。コアーリム図をみると、高An斜長石および高Mg#輝石が正累帯構造を、低An斜長石および低Mg#輝石が逆累帯構造を示している。一方スコリアにおいては、斜長石斑晶はAn64-90が大部分を占め、An48-62の斑晶も少量存在するバイモーダルな組成分布を示す。斜方輝石斑晶もMg#68-74が主体でありMg#65-66がごく僅かに認められる。これら低An斜長石および低Mg#斜方輝石は軽石と同じ無色ガラスに包有されている。単斜輝石斑晶はMg#69-78と軽石中のものより明らかにMgに富むものが多くなる。コアーリム図を見ると、軽石中の斑晶のような顕著な累帯構造は認められない。長浜溶岩中の単斜輝石はK-Ah軽石と類似した組成(Mg#66-73)を示すが、斜長石はややCaに乏しく(An39-60)、斜方輝石はややFeに富む組成(Mg#63-68でMg#64にピーク)を示す。全岩化学組成をみると、K-Ah軽石は流紋岩からデイサイトであり(SiO2 = 70.4-73.6 wt.%)、多くのハーカー図上において、1本の直線トレンドを描いている。スコリア(SiO2 = 58.1-69.0 wt.%)もまた直線的なトレンドを描くが、軽石の組成トレンドとは異なっており、TiO2・Al2O3などのハーカー図上では、シリカに乏しいデイサイト質な軽石に収束するようである。長浜溶岩(SiO2 = 71.7-72.4 wt.%)は流紋岩質であるが、FeO*/MgO比やYにおいて、K-Ah軽石とは明らかに異なる。Sr・Nd・Pb同位体組成をみると、K-Ah軽石とスコリアは大よそ類似しているが、軽石の方がスコリアよりやや組成幅が広い。長浜溶岩はK-Ah軽石とほぼ同じ組成を示す。
不均質なスコリアの存在や組成的に非平衡な斑晶の共存から、K-Ah噴火ではマグマ混合が主なマグマプロセスであったと考えられる。全岩化学組成ハーカー図において、軽石・スコリアそれぞれが異なる直線トレンドを描き、デイサイト質軽石付近で収束することから、流紋岩質マグマ・デイサイト質マグマ・安山岩質マグマの3つの端成分マグマが存在していたと考えられる。軽石中の斑晶鉱物に組成幅があり正・逆累帯構造を示すこと、安山岩質マグマが流紋岩質マグマと直接混合していないことから、流紋岩質マグマとデイサイト質マグマは噴火のはるか前に混合し、流紋岩質マグマの下位にデイサイト質マグマが存在するような成層マグマ溜りが形成されていたと考えられる。
レイリー分別モデル計算の結果、安山岩質マグマの結晶分化作用で珪長質マグマを生成することはできなかった。つまり、珪長質マグマは地殻物質の部分溶融で生成された可能性が高い。軽石の幅広い同位体組成は、地殻物質の不均質を反映していると思われる。長浜溶岩は、K-Ah軽石と同位体組成は一致するが、全岩化学組成の一部の元素で大きく異なる特徴を示す。これらの特徴から、長浜溶岩をもたらした流紋岩質マグマは、K-Ahの珪長質マグマと同源であるが異なるマグマ溜りを形成していたと考えられる。このように、K-Ah噴火のマグマ供給系では複数の珪長質マグマが存在していることが明らかになった。この特徴は大規模珪長質マグマシステムにおいて共通しているのかもしれない。