JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50] [JJ] 火山・火成活動と長期予測

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC50-P03] 日本の異なる沈み込み帯における噴火の頻度と長期的マグマ噴出率の推定

*清杉 孝司1 (1.神戸大学自然科学系先端融合研究環)

キーワード:噴火データベース、噴火頻度、長期的マグマ噴出率

ある地域の平均的な噴火頻度はその地域の火山活動度を評価する上で重要なパラメータである.また,噴火頻度が得られれば,噴火の規模(噴出物質量)を合わせることで長期的なマグマ噴出率を推定することも可能となり,火山を通した物質循環を理解することにもつながる.一方,噴火頻度の推定は噴火記録の数え落しを考慮する必要がある難しい問題である.噴火記録の数え落しの主要な原因は,歴史記録がないことや,火砕堆積物の浸食・変質,新しい堆積物による被覆,浸食や被覆による給源火山自体の消失,海上への火砕堆積物の堆積,海底噴火などであると考えられる.本研究では,噴火記録が充実している日本列島での火山活動(世界全体の噴火記録の39%)を対象に,地域ごとに噴火記録の数え落しを考慮した噴火頻度の推定と長期的なマグマ噴出率の算出を行った.

分析に用いたデータは北海道地域,東北地域,伊豆地域,中部地域,九州地域で過去約2百万年間に発生した噴火の年代値と噴火マグニチュード(M ≥ 2)の値である.これらは町田・新井(2000),第四紀火山カタログ委員会編(2000),産業技術総合研究所地質調査総合センター編(2014),早川(2010)からコンパイルを行った.噴火頻度の計算において,噴火の記録率が時代とともに減少する傾向をモデル化することで噴火の数え落しを考慮した.

各地域について噴火頻度を計算した結果,これらの地域間で噴火マグニチュード2以上の噴火の頻度が10倍以上異なることが明らかとなった.比較的大きな噴火(4 ≤ M ≤ 6)では,噴火マグニチュードが1つ大きくなるごとに頻度がおよそ10分の1になる.一方,比較的小さな噴火(2 ≤ M ≤ 4)では噴火マグニチュードが1つ大きくなるごとに頻度は1.6 - 2.5分の1となる.全ての地域で見られるこの傾向は小さな噴火の頻度が大きな噴火の頻度から推定される頻度よりも小さいことを示唆する.これはマグマ溜りが小規模になるほど地下で貫入岩体として固結しやすく,マグマが地表まで到達しにくいことが原因である可能性がある.

得られた噴火の頻度と規模の関係を基に各地域の長期的なマグマ噴出率を求めた.この長期的なマグマ噴出率を各地域の沈み込み帯の長さで規格化すると,九州地域,中部地域,東北地域でほぼ同様の値(2×1010 kg/ka/km)となることがわかった.一方,北海道地域と伊豆地域では規格化した長期的マグマ噴出率が他の地域のおよそ3分の1となる.北海道地域では太平洋プレートが北米プレートの下に斜めに沈み込んでおり,同じプレートの組み合わせである東北地域に比べて沈み込み帯に直行する方向のプレート沈み込み速度が小さくなっている.このことが小さな長期的マグマ噴出率の原因である可能性がある.一方,九州地域,中部地域,東北地域で長期的なマグマ噴出率がほぼ同様の値を示すことは,こうしたテクトニクスによる制約があまり重要ではないことを示唆する.また,伊豆地域は比較的大きい噴火(M>4)の地質記録が残りにくい島嶼からなるため,これらの噴火頻度を正しく見積もることが困難である.このことが小さな長期的マグマ噴出率の原因である可能性がある.

本研究の結果は,沈み込み帯での火山活動の重要なパラメータを明らかとするものである.一方で,噴火記録の本質的な不均質性のため島嶼部において噴火の頻度を見積もることが困難であることが明らかとなった.この不均質性を補完する海底掘削コアの分析や統計手法の開発はこれからの課題である.