JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50] [JJ] 火山・火成活動と長期予測

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC50-P12] 北海道,滝川単成火山群及び暑寒別火山の岩石学的研究:島弧会合部におけるマグマの時空変遷

*榎枝 竜之介1中川 光弘1 (1.北海道大学)

キーワード:単成火山群、暑寒別火山、島弧会合部、玄武岩、マントルプリューム

滝川火山地域は北海道中部,千島弧と東北日本弧の会合部近傍に位置し,滝川単成火山群(TMV)と,暑寒別火山群,イルムケップ火山といった複成火山から構成される.
これらの火山は中‐後期中新世から更新世初頭にかけて活動し,170万年前からは火山活動は停止している(中川ら,1993).TMVは滝川火山地域の中央部,滝川盆地周辺に分布し,ほとんど玄武岩の溶岩丘,岩脈,岩床である.暑寒別火山群は滝川火山地域西部に位置する複成火山体の集合であり,主に玄武岩~安山岩の溶岩流からなる.イルムケップ火山は滝川地域東部に位置する複成火山体で,主に安山岩の溶岩流からなる.
本地域の火山岩に関する研究は,Oba(1972)および中川ら(1993)によってTMV・暑寒別火山群の玄武岩の全岩主要化学組成分析が,八木ら(1987)および中川ら(1993)によって暑寒別火山群・TMVのK-Ar年代分析がそれぞれ行われている.また,岡村ら(2000)は暑寒別火山群のうち一部の全岩主要,微量元素組成分析,Sr・Nd同位体比分析を行っている.しかし,TMV・暑寒別火山群の全岩微量元素組成,希土類元素組成,同位体比はほとんど明らかになっていない.
本地域には単成火山群がみられるが,これは滝川構造盆地の拡大に伴う引張応力場の下で形成されたと考えられている(中川ら,1993).本地域の火山岩の地球化学的特徴の空間分布は,千島弧-東北日本弧会合部の後期中新世~鮮新世末期のマグマ活動の時空変遷を反映していると考えられ,島弧会合部のテクトニクスを考える際に重要な制約条件を与えうる.しかしながら,前述の通り本地域における火山岩の地球化学的特徴は一部しか明らかになっておらず,包括的な研究はあまり行われていない.ゆえに,これを明らかにする目的で本地域の岩石学的および地球化学的研究を行っている.これまでTMVのうち17の岩体,暑寒別火山群のうち南暑寒,恵岱,雄冬の3火山でサンプリングを行ってきた。今回はこれらの試料の,偏光顕微鏡による岩石記載とXRFによる全岩主成分・微量元素組成について報告する.
TMVのほとんどは斜長石斑晶を含まない単斜輝石かんらん石玄武岩であり,斑晶量は5~15vol.%と幅広く,単斜輝石斑晶は含まれないこともある.まれに斜長石斑晶,斜方輝石,融食形石英を含む安山岩も存在する.南暑寒は山体の上部と下部で全く異なる溶岩がみられる.上部の斜方輝石単斜輝石安山岩は様々なタイプの斜長石斑晶,マフィックインクルージョンをよく包有し,マグマ混合あるいは同化作用の特徴を有する.下部の石英含有かんらん石玄武岩は融食し汚濁帯の発達した斜長石斑晶,単斜輝石のコロナをもつ融食形石英を含む.恵岱は単斜輝石かんらん石玄武岩で,融食し汚濁帯の発達した斜長石斑晶,集斑状組織をよく包有する.雄冬では石英含有単斜輝石かんらん石玄武岩がみられ,融食形石英を含む点以外は恵岱と同様の特徴を有する.
本地域の未分化玄武岩は、暑寒別火山群では液相濃集元素量が比較的狭い組成幅を示し、比較的高いRb/Zr,Ba/Zr比,低いNb/Zr比をもつ。それに対してTMVは液相濃集元素量の組成幅が広く、全体として比較的低いRb/Zr,Ba/Zr比,高いNb/Zr比を示す.これら本地域の玄武岩は様々な液相濃集元素比を示すことから,その多様性は1つの初生マグマの結晶分化作用では生じることはできず、複数の多様な初生マグマに由来するものと考えられる.暑寒別とTMVの玄武岩の組成差に着目すると,前者は低Nb/Zrおよび高Ba/Zr比から島弧玄武岩的な,TMVは高Nb/Zrおよび低Ba/Zr比から背弧海盆玄武岩に近い性質をもつと考えられる.それらの空間分布は暑寒別火山を中心とした楕円形累帯構造を示し,それは中川ら(1993)の示したシリカ飽和度空間分布と似ている.これは初生マグマ生成時のマントルにおける部分溶融度の差やマントル組成の多様性を反映しているかもしれないが,いずれも暑寒別火山を中心とするプリュームが存在したという中川ら(1993)のモデルと矛盾しない.このことを検討し、その成因を深く議論するために、希土類元素や同位体比などの地球化学的データ収集と解析を行ってゆく予定である。