09:15 〜 09:30
[SVC51-02] 1986年伊豆大島噴火の際の地殻変動データを包括的に説明するマグマモデル
★招待講演
キーワード:1986年伊豆大島噴火、地殻変動、マグマモデル
1986年の伊豆大島山頂噴火から割れ目噴火に至る一連のイベントに関して、当時存在した、島内の体積歪計1点、傾斜計3点、噴火前後の水準測量結果並びに島外の体積歪計3点すべての地殻変動観測データを包括的に説明可能な地下力源モデルについて、Linde et.al.(2016)Journal of Volcanology and Geothermal Research vol.311, p.72-78に沿って報告する。なお、体積歪データは、長周期地震波応答を用いてキャリブレーションされている。
ここでは、噴火イベントを山頂噴火開始から割れ目噴火開始直前までのphase 1(Nov.15-20)と、割れ目噴火に至るマグマ貫入開始以降のphase 2(Nov.21-30)のふたつの期間に分けて論じる。
Phase 1
噴火は1986年11月15日17:25、山頂火口から始まった。噴火に先立ち、明瞭な地震活動、短期的地殻変動は観測されておらず、十分に火道が形成されていたことを示唆する。噴火開始後は、島内の体積歪計1点、傾斜計3点のみならず、伊豆半島の体積歪計2点でも、同期した変化が20日日界頃に概ね停止するまで観測された。これらの変化をすべて説明する最適な力源モデルとして、カルデラ内北西部の地下約4kmを中心とし、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う最大張力軸に直交する鉛直面内に傾斜角70°の軸を持つ、アスペクト比1:0.3、長軸の長さ2.25kmの回転楕円体のマグマ溜まりの減圧が推定された。同楕円体の長軸の延長線と地表との交点は山頂火口と概ね一致している。この形状であれば、噴火前にカルデラ縁から火口付近まで繰り返し行われた水準測量で、火口付近がカルデラ縁に対して相対的に沈降していた観測事実を、同マグマ溜まりの増圧によって説明可能である。
本噴火で特記すべきは、これら地殻変動観測と並行して、火口がマグマにより埋められる過程が時系列として詳細に記録されたことである。火口内の地形は既知であるので、地表に噴出したマグマ量と、地殻変動データ解析から推定されるマグマ溜まりの体積変化との直接比較が可能な希有な事例と言える。前者は後者よりも大きく、その差は同マグマ溜まりへの、さらに深い(30km程度か)マグマ溜まりからの充填が、地表への噴出と同時進行で起きていたと解釈できる。
なお、近年の伊豆大島島内の体積歪、GNSS、光波測距等の地殻変動観測により、長期的な島の膨張と、それに重なる短期的な膨張・収縮が観測されており、それら変化を説明する球対称力源が、気象研究所により本研究の回転楕円体ソースとほぼ同じ場所に推定されている。これらの関係について、今後の気象研究所の解析が期待される。
Phase 2
Phase 1の後約1日半の静穏期を挟んで、11月21日16:15からカルデラ内で割れ目噴火が開始し、その約1時間後には山麓からの割れ目噴火に拡大した。最初の割れ目噴火の約2時間前、島内の体積歪データが顕著な変化を示しはじめ、その直後から島を北西~南東方向に縦断するトレンドの顕著な地震活動が始まった。同体積歪変化は最初は縮みで始まり、約10分で変化の極性が伸びに反転している(これが後述のダイク下端の深さに拘束を与える)。そこからは一気に伸びが加速し、その日の深夜までに伸び量が100μstrainを超えてピークを迎えた後、再度極性を反転させて、表面現象が概ね終息した23日を過ぎても、月末まで緩やかな縮みが継続した。この変化と同期して、島外の3点の体積歪計でも顕著な変化が記録された。これら地殻変動変化と、地表の割れ目火口列の分布(この直下のダイクの上端は地表に達したと考えられる)、地震活動の震源分布、噴火前後で実施された島内水準測量で明らかとなった隆起・沈降空間分布(これはPhase 1の影響も含む:ゼロ変化線の離れ具合が主要ダイク上端の深さを拘束)を概ね説明する力源モデルとして、2枚(細かく言うと4枚)の長さの異なる北西~南東走向の平行ダイクの開口と、カルデラ下約10kmに中心を置く最大張力軸方向に潰れた回転楕円体の減圧が推定された。これらの間には、地表への噴出量を差し引いたうえでの質量保存も考慮されている。
筆者は、1986年の伊豆大島噴火当時、気象庁入庁3年目で体積歪計の維持管理・データ解析の任にあり、同年11月21日の割れ目噴火の約2時間前から、執務室に置かれた打点記録計に島内の体積歪計が今まで見たこともないような変化を記録するのを、島からのTV中継とともにリアルタイムで見ていた。このイベントで、火山噴火予測への地殻変動観測の重要性を痛感した次第である。現在伊豆大島には当時よりはるかに多数の地殻変動観測点が設けられており、迫り来る次の噴火に向けて、その時の教訓を必ずや活かしたいと考える。
ここでは、噴火イベントを山頂噴火開始から割れ目噴火開始直前までのphase 1(Nov.15-20)と、割れ目噴火に至るマグマ貫入開始以降のphase 2(Nov.21-30)のふたつの期間に分けて論じる。
Phase 1
噴火は1986年11月15日17:25、山頂火口から始まった。噴火に先立ち、明瞭な地震活動、短期的地殻変動は観測されておらず、十分に火道が形成されていたことを示唆する。噴火開始後は、島内の体積歪計1点、傾斜計3点のみならず、伊豆半島の体積歪計2点でも、同期した変化が20日日界頃に概ね停止するまで観測された。これらの変化をすべて説明する最適な力源モデルとして、カルデラ内北西部の地下約4kmを中心とし、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う最大張力軸に直交する鉛直面内に傾斜角70°の軸を持つ、アスペクト比1:0.3、長軸の長さ2.25kmの回転楕円体のマグマ溜まりの減圧が推定された。同楕円体の長軸の延長線と地表との交点は山頂火口と概ね一致している。この形状であれば、噴火前にカルデラ縁から火口付近まで繰り返し行われた水準測量で、火口付近がカルデラ縁に対して相対的に沈降していた観測事実を、同マグマ溜まりの増圧によって説明可能である。
本噴火で特記すべきは、これら地殻変動観測と並行して、火口がマグマにより埋められる過程が時系列として詳細に記録されたことである。火口内の地形は既知であるので、地表に噴出したマグマ量と、地殻変動データ解析から推定されるマグマ溜まりの体積変化との直接比較が可能な希有な事例と言える。前者は後者よりも大きく、その差は同マグマ溜まりへの、さらに深い(30km程度か)マグマ溜まりからの充填が、地表への噴出と同時進行で起きていたと解釈できる。
なお、近年の伊豆大島島内の体積歪、GNSS、光波測距等の地殻変動観測により、長期的な島の膨張と、それに重なる短期的な膨張・収縮が観測されており、それら変化を説明する球対称力源が、気象研究所により本研究の回転楕円体ソースとほぼ同じ場所に推定されている。これらの関係について、今後の気象研究所の解析が期待される。
Phase 2
Phase 1の後約1日半の静穏期を挟んで、11月21日16:15からカルデラ内で割れ目噴火が開始し、その約1時間後には山麓からの割れ目噴火に拡大した。最初の割れ目噴火の約2時間前、島内の体積歪データが顕著な変化を示しはじめ、その直後から島を北西~南東方向に縦断するトレンドの顕著な地震活動が始まった。同体積歪変化は最初は縮みで始まり、約10分で変化の極性が伸びに反転している(これが後述のダイク下端の深さに拘束を与える)。そこからは一気に伸びが加速し、その日の深夜までに伸び量が100μstrainを超えてピークを迎えた後、再度極性を反転させて、表面現象が概ね終息した23日を過ぎても、月末まで緩やかな縮みが継続した。この変化と同期して、島外の3点の体積歪計でも顕著な変化が記録された。これら地殻変動変化と、地表の割れ目火口列の分布(この直下のダイクの上端は地表に達したと考えられる)、地震活動の震源分布、噴火前後で実施された島内水準測量で明らかとなった隆起・沈降空間分布(これはPhase 1の影響も含む:ゼロ変化線の離れ具合が主要ダイク上端の深さを拘束)を概ね説明する力源モデルとして、2枚(細かく言うと4枚)の長さの異なる北西~南東走向の平行ダイクの開口と、カルデラ下約10kmに中心を置く最大張力軸方向に潰れた回転楕円体の減圧が推定された。これらの間には、地表への噴出量を差し引いたうえでの質量保存も考慮されている。
筆者は、1986年の伊豆大島噴火当時、気象庁入庁3年目で体積歪計の維持管理・データ解析の任にあり、同年11月21日の割れ目噴火の約2時間前から、執務室に置かれた打点記録計に島内の体積歪計が今まで見たこともないような変化を記録するのを、島からのTV中継とともにリアルタイムで見ていた。このイベントで、火山噴火予測への地殻変動観測の重要性を痛感した次第である。現在伊豆大島には当時よりはるかに多数の地殻変動観測点が設けられており、迫り来る次の噴火に向けて、その時の教訓を必ずや活かしたいと考える。