[SVC51-P03] 伊豆大島火山1986年山頂噴火時のマグマ体積収支
キーワード:伊豆大島火山、地殻変動、マグマ物性
はじめに
噴火時における噴出物DRE体積と,地殻変動データから推定されるマグマ溜まりの収縮体積とが一致しないことは多く観測される事実である.伊豆大島火山の1986年山頂噴火でも,溶岩噴出率と地下収縮率とに良い相関が認められたが,噴出物DRE体積と地下収縮体積とに差異が生じている.この差異の原因のひとつとしてマグマの圧縮性が挙げられ,ここから伊豆大島火山のマグマ溜まり内の物性や気相含有率の情報を抽出できる可能性がある.
1986年山頂噴火の溶岩噴出量と収縮量
1986年山頂噴火では溶岩噴出量の時間変化が記録されており,例えば遠藤・他(1988)によればその総噴出量(DRE体積)は1.4×107 m3と報告されている.一方,これに同期して地下の収縮を示唆する変動が体積歪計や傾斜計によって捉えられている.山岡 (1994)は球状圧力源を仮定し,深さ約5 km,収縮体積5×106 m3と推定した.これらに従った場合,噴出物のDRE体積と収縮体積の比はおよそ2.7となる.
マグマ有効物性
マグマは固相(結晶),液相(メルト),気相の混合物であり,密度,体積弾性率(圧縮率の逆数)といった有効物性を算出するには,各相の物性と分率との情報が必要である.固相については,藤井・他 (1988)や中野・他 (1988)により,1986年山頂噴火噴出物中の斑晶のほとんどが斜長石であり,その含有率は5~10 %と報告されている.無斑晶質であること,斑晶の圧縮率はメルトや気相より小さいと考えられることから,マグマの有効圧縮率は,メルト及び気相が支配していると考えられる.液相(メルト)については,1986年山頂噴火噴出物について,その斜長石に取り込まれたメルト包有物の組成が測定されている(Hamada et al, 2007).その組成に対応する体積弾性率はメルトの状態方程式(例えば,Spera, 2015)から16 GPa程度と算出される.なお,メルト中に溶解したH2O含有量は0.2-1.4 wt. %と報告されている.一方,気相については,理想気体を仮定する限り,体積弾性率は組成によらず圧力と等しい.深さ5 kmの静岩圧を考えれば,体積弾性率はおよそ0.13 GPaと予測される.最終的に,未知として残るのは液相・気相の分率であり,これにより有効物性は大きく変化する.
体積比
噴出物体積と地殻変動解析から推定される収縮体積との比は,収縮源の形状や母岩の剛性率とマグマの体積弾性率との比に依存する.予察的な見積もりとして仮に山岡 (1994)による深さ5 kmの球状圧力源を考え,この深さでの母岩の剛性率として約30 GPaを採用した場合,マグマ中に気相を含んでいない場合でもこの比は3を超え,観測量に則り算出された比2.7は説明できない.これらの議論には地殻変動源パラメータや有効的な剛性率の見積もりが重要と考えられるため,今後はこれらの検討を進める予定である.
噴火時における噴出物DRE体積と,地殻変動データから推定されるマグマ溜まりの収縮体積とが一致しないことは多く観測される事実である.伊豆大島火山の1986年山頂噴火でも,溶岩噴出率と地下収縮率とに良い相関が認められたが,噴出物DRE体積と地下収縮体積とに差異が生じている.この差異の原因のひとつとしてマグマの圧縮性が挙げられ,ここから伊豆大島火山のマグマ溜まり内の物性や気相含有率の情報を抽出できる可能性がある.
1986年山頂噴火の溶岩噴出量と収縮量
1986年山頂噴火では溶岩噴出量の時間変化が記録されており,例えば遠藤・他(1988)によればその総噴出量(DRE体積)は1.4×107 m3と報告されている.一方,これに同期して地下の収縮を示唆する変動が体積歪計や傾斜計によって捉えられている.山岡 (1994)は球状圧力源を仮定し,深さ約5 km,収縮体積5×106 m3と推定した.これらに従った場合,噴出物のDRE体積と収縮体積の比はおよそ2.7となる.
マグマ有効物性
マグマは固相(結晶),液相(メルト),気相の混合物であり,密度,体積弾性率(圧縮率の逆数)といった有効物性を算出するには,各相の物性と分率との情報が必要である.固相については,藤井・他 (1988)や中野・他 (1988)により,1986年山頂噴火噴出物中の斑晶のほとんどが斜長石であり,その含有率は5~10 %と報告されている.無斑晶質であること,斑晶の圧縮率はメルトや気相より小さいと考えられることから,マグマの有効圧縮率は,メルト及び気相が支配していると考えられる.液相(メルト)については,1986年山頂噴火噴出物について,その斜長石に取り込まれたメルト包有物の組成が測定されている(Hamada et al, 2007).その組成に対応する体積弾性率はメルトの状態方程式(例えば,Spera, 2015)から16 GPa程度と算出される.なお,メルト中に溶解したH2O含有量は0.2-1.4 wt. %と報告されている.一方,気相については,理想気体を仮定する限り,体積弾性率は組成によらず圧力と等しい.深さ5 kmの静岩圧を考えれば,体積弾性率はおよそ0.13 GPaと予測される.最終的に,未知として残るのは液相・気相の分率であり,これにより有効物性は大きく変化する.
体積比
噴出物体積と地殻変動解析から推定される収縮体積との比は,収縮源の形状や母岩の剛性率とマグマの体積弾性率との比に依存する.予察的な見積もりとして仮に山岡 (1994)による深さ5 kmの球状圧力源を考え,この深さでの母岩の剛性率として約30 GPaを採用した場合,マグマ中に気相を含んでいない場合でもこの比は3を超え,観測量に則り算出された比2.7は説明できない.これらの議論には地殻変動源パラメータや有効的な剛性率の見積もりが重要と考えられるため,今後はこれらの検討を進める予定である.