JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

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[U-04] [EJ] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールB (国際会議場 2F)

コンビーナ:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、川畑 大作(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門)、吉田 英嗣(明治大学文学部)、座長:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)

11:15 〜 11:40

[U04-02] 第四紀学から2016年熊本地震へのアプローチ

★招待講演

*吾妻 崇1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:第四紀学、2016年熊本地震、活断層、火山、平野地質、自然災害

内陸地震によってもたらされる自然災害には,震源となる活断層や平野の地下地質など第四紀学との関わりが深い事象が多く関連する.2016年熊本地震の場合には,さらに阿蘇山という火山が近接しており,その噴出物も災害発生に大きく関わっていた.

まず,活断層については,主たる震源であった布田川断層は「別府-島原地溝」と呼ばれる構造帯の南東縁上に位置している.地溝の縁辺は正断層で境されるが,断層変位地形やトレンチ調査の結果から,この活断層の最近の活動は大きな右横ずれ成分を持つことが知られていた.そして実際に発生した地表地震断層も右横ずれ成分を主とするものが主体であった.活断層の活動性の指標として平均変位速度が挙げられるが,布田川断層に関してはその年代指標として阿蘇やその周辺の火山噴出物が用いられて,良い成果が得られていた.

大地震が発生した際に発生する強震動の評価には,とくに平野部においては評価地点における表層地盤の地質情報が重要である.表層地盤は地震動評価だけでなく,地下水位の情報を併せることにより,地震時における液状化現象の評価に利用することもできる.さらに,沖積層や更新世の堆積層,すなわち「第四紀層」の層厚や物性も,地震動評価において重要な要素となる.熊本周辺の平野では,地下に阿蘇の火砕流堆積物が存在していることが知られており,その年代を用いて平野の沈降速度が議論されてきた.また,軟らかい堆積層の間に固い溶岩や溶結凝灰岩が挟まれて分布しているという地下構造は,地震動特性に影響を与えることが想定される.

熊本周辺の火山噴出物は,第四紀中期から後期にかけて発生した大規模火砕流の堆積物だけでなく,カルデラ噴火後に生じた中央火口丘の噴火活動によるものもある.これらは,阿蘇周辺においてローム層や火山灰層,軽石層を形成しているが,特定の火山灰層がすべり面となって熊本地震に伴う地すべりが発生したとの報告もある.また,中央火口丘の急な斜面やカルデラ壁の急崖が地震時に崩壊し,災害の原因となった事例もある.

第四紀学は多岐にわたる分野が融合して成り立っているが,それらの多くはこれまでに発生した地球環境の営みを探求する学問であるため,自然災害の事前評価を行う際に役立つものである.