JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ] 口頭発表

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[U-06] [JJ] 地球惑星科学の進むべき道-7:防衛装備庁安全保障技術研究制度

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 103 (国際会議場 1F)

コンビーナ:大久保 修平(東京大学地震研究所)、川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、藤井 良一(名古屋大学)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:藤井 良一(名古屋大学)、座長:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

15:50 〜 16:05

[U06-05] 教育と教育システムの観点から大学と軍事的安全保障研究を考える
-大学関係者は今なぜジレンマに直面しているのか―

★招待講演

*西山 忠男1 (1.熊本大学先端科学研究部理学専攻地球環境科学講座)

キーワード:安全保障研究、教育と教育システム、国力、人材育成

学術会議は防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の発足(2015年)を機に,再び軍事研究(軍事的安全保障研究)と科学者の立場に関する議論を開始し,2月4日に学術フォーラム「安全保障と学術の関係:日本学術会議の立場」において,中間とりまとめを報告し,委員や関係者からの報告と議論が行われた.フォーラム全体の雰囲気は反対が大勢であった.しかし,世間の雰囲気は逆であるように感じられる.北朝鮮や中国の脅威が声高に論じられ,防衛力の強化のための予算は毎年0.8%増額されている.このような現状を踏まえて,大学における教育の観点から,また日本における高等教育システムと人材育成の観点から,この問題を考えてみたい.
・安全保障技術研究は軍事研究ではないのか?
 学術会議は防衛装備庁の安全保障技術研究を軍事的安全保障研究と位置付けている.軍事的安全保障研究とは,ア)軍事利用を直接に研究目的とする研究,イ)研究資金の出所が軍事関連施設である研究,ウ)研究成果が軍事的に利用される可能性がある研究,と定義されている.しかし,このウ)を含めるのは疑問がある.すべての科学技術の成果は,論文や報告書の形で公開されている以上,誰にでも利用できる.したがってすべての科学技術研究は,利用可能性の観点からは軍事的安全保障研究の範疇に含まれることになってしまう.そこで以下の議論では,ウ)の研究は軍事的安全保障研究から除外して議論する.その場合の軍事的安全保障研究とは軍事研究に他ならない,というのが私の考えである.
教育の現場で軍事的安全保障研究が行われることの影響
 では実際に安全保障技術研究が採択された場合,何が起こるのだろうか.最大の問題は開かれた研究室を維持できるのか,という点である.研究は教員一人で行うものではなく,大学院生らとともに行うものである.研究の秘匿性が求められるならば,留学生の参画は制限されるであろう.また研究成果の公開に制限が加えられるならば,大学院生の研究業績に関わり,研究職を志望する学生には不利になる.防衛装備庁は研究成果の公開を保証しているが,本当に自由に公開できるとは思われない.仮想敵国もその成果を利用できるならば,研究する意味はないからである.またPO(プログラムオフィサー)が研究の進捗状況を管理し,大学に出入りすることになる.大学の研究室が防衛装備庁のPOに管理される状況を大学は許せるのだろうか?
・軍事力で国を守ることができるのか?
 軍事力だけで国を守る事には自ずと限界がある事は明らかである.軍事力で竹島を取り返すことができるだろうか?そんなことをすれば同盟国を失い,北朝鮮や中国の思うつぼである.北方領土を軍事力で取り返せるだろうか?ロシアとの全面戦争を覚悟しない限り,無理であることは言うまでもない.結局は,外交努力に寄らざるを得ないのである.そして国力をつけることである.経済力を高め,文化の力,科学技術力を高め,国際貢献を行うことで,国際的なステイタスを高めることこそ,国を守ることにつながる.
・国力とは何か
 では国力とは何だろうか?国力の基礎は上に挙げた経済力,文化とその発信力,科学技術力,経済的ならびに人的国際貢献であろう.それらを担うのはすべて人である.すなわち人材こそが国力であり,人材育成を担う教育こそが国力の源泉であると言っても過言であるまい.日本は何よりも教育による人材育成によって発展を目指すべきである.
・高等教育のシステムの現状とあるべき未来
 しかるにその教育が揺らいでいる.高等教育が大きく揺さぶられている.国立大学への運営費等交付金が法人化以降毎年1%ずつ減額され,今では経営の基盤が成り立たないほどの危機的な状況にある.地方大学では人件費不足のため人事凍結している大学が多くみられる.それは日本の科学技術,日本の文化リテラシーに壊滅的な打撃を与える.地方大学で研究職が減少すれば,有力大学で博士課程へ進学する学生が激減する.それはすでに起こっている.研究者の層は薄くなり,日本の学術レベルは致命的なほど低下するだろう.さらに,大学での基盤的研究費の大幅な減額は,外部資金への依存度を高め,結果的に安全保障技術研究制度は渡りに船と受け止める研究者もいるのは事実である.ここに現在大学関係者が陥っているジレンマがある.高等教育における人材育成は,外部資金によらず,基盤的研究費によって安定的に行えるシステムの確立,若い研究者の安定的就職先の確保,有力大学と地方大学の間での良い意味での人材交流こそが,日本の学術の発展に有効である.このようなシステムの重要性を改めて訴えたい.