公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

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ポスター発表

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症例

2024年7月7日(日) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際会議場 2F コンベンションホール B)

[P-145] 両側上顎骨全摘出の顎補綴症例 -23年間の経過報告-

*西 恭宏1、村上 格2、濵村 俊一3 (1. 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 口腔顎顔面補綴学分野、2. 鹿児島大学病院 成人系歯科センター 義歯インプラント科、3. 鹿児島大学病院 臨床技術部 歯科技工部門)

[Abstract]
【緒言】
 腫瘍等による両側上顎切除症例は,近年では血管柄付き骨皮弁にインプラントを併用した補綴治療も報告されているが1,長期経過の報告はない.また,従来の補綴方法における両側上顎全摘出の症例報告は少なく,長期経過観察もみあたらない.
 今回,両側上顎全摘出後における顎補綴症例について,23年間の経過と問題点について報告する.
【症例の概要・治療内容】
 患者は初診時59歳女性.当院耳鼻咽喉科にて扁平上皮癌(T4N0M0, stageⅣ)の診断のもと,術前治療後の2000年11月に紹介された.
1. 術後即時装着の顎義歯
 上顎全摘出後の瘢痕収縮抑制のため,術前の印象採得と3D-CTから術後即時の顎義歯を装着することとした.上顎顎義歯は維持安定が困難と予想されたため,下顎部分床義歯を支点とするコイルスプリングで上顎顎義歯を上方に維持して両側眼窩下底部で支持を図る設計とした.術後1週間後に,顎欠損部組織に暫間的軟質リライン材としてティッシュコンディショナーを適合させたコイルスプリング維持による顎義歯を装着した.上顎顎義歯は十分維持され,術後変化にあわせた調整を繰り返した.
2. 初回の顎補綴
 顎義歯調整中にコイルスプリングが破損したが,これを利用せずとも上顎顎義歯は維持できることが判明した.このため,着脱の簡便性を考慮し,分割式オブチュレーターにシリコーン軟質リラインを施した上顎顎義歯を2002年1月に装着した.
【経過ならびに考察】
 患者の発音と嚥下はほぼ回復されたが,その後の経過で下顎残存歯の動揺,上唇と軟口蓋の収縮が進行したため,エピテーゼ,下顎全部床義歯を製作した.術後から2024年1月までの23年間に5回の上顎顎義歯の再製作を行い,熱可塑性樹脂の利用によるオブチュレーターの軽量化や汚染防止も試みた.
 患者は不満のない経過をたどったが,上唇収縮は進行し,2023年8月に鼻孔と口裂が繋がる経過となった.今後は上顎全摘出症例には骨皮弁を用いた再建が積極的に行われるであろうが,長期経過の観点からは,上唇収縮を抑える骨移植等など何らかの方法の検討が必要であると思われる.
(発表に際して患者の同意を得た.)

【参考文献】
1) 隅田由香.【口腔癌診療の最前線】治療とリハビリテーション 口腔癌手術における術前・術中・術後の顎顔面補綴医の役割.JOHNS 2021 ; 37:513-515.