公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

講演情報

ポスター発表

現地発表

症例

2024年7月7日(日) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際会議場 2F コンベンションホール B)

[P-148] 上顎部分切除による広範囲顎欠損に対し顎補綴装置にて整容性と機能回復を図った症例

*星 美貴1、島崎 伸子1、福徳 暁宏1、佐藤 宏明1、塚谷 顕介1、千葉 祥子1、中西 厚雄1、大平 千之1,2、今 一裕1、田邉 憲昌1 (1. 岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座、2. 北海道・東北支部)

[Abstract]
【緒言】
 悪性腫瘍により上顎欠損が生じた患者に対する顎義歯の装着は,構音・咀嚼・嚥下機能のみならず整容性の回復にも寄与しQOL向上と心理的苦痛の軽減に大きく貢献する.今回広範囲の上顎欠損の患者に対し,術直後からの上唇の徒手的マッサージを施行して術後の瘢痕拘縮の影響を最小限とし,顎義歯の辺縁形態を工夫することで整容性および機能回復を行なった症例を経験したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
 患者は29歳接客業女性.上顎右側第三大臼歯の疼痛を主訴に20XX年2月かかりつけ歯科医院を受診した.口蓋穿孔を認めたため翌月岩手医科大学附属内丸メディカルセンター口腔外科へ紹介受診となった.生検結果は硬化性歯原性癌(cT2N0M0)であった.術前診察と術後即時顎補綴装置(ISO)製作のため高度先進補綴科顎顔面補綴外来を紹介受診した.5月に上顎部分切除術が施行,切除範囲は上顎左側中切歯部から右側第一大臼歯部,口蓋は正中で切除され,梨状孔下縁と上顎洞側壁下方も含まれていた(H6S1D0T0).術後の習慣性咬合位は変化が生じなかった.術後1週間で構音と嚥下機能回復を目的とするISOを装着した.その後,上唇のマッサージと歯周基本治療を併行し術後1ヶ月でクラスプを付与した加熱重合レジン製栓塞子を装着した.徒手的マッサージにより術後2ヶ月時に瘢痕拘縮が緩快したため通法に従って天蓋開放型顎義歯を装着した.発表に際して患者の同意を得た.
【経過ならびに考察】
 術後5ヶ月で機能評価を実施したところ良好な結果が得られ患者の満足度も高く,現在まで経過良好である.本例では,腫瘍切除により上顎前歯部を含む広範囲の顎欠損と瘢痕収縮による構音・咀嚼・嚥下・審美障害,心理的苦痛が予想された.これらに対応するため,炎症消退後早期の上唇の徒手的マッサージにより瘢痕収縮を抑制し上唇の可動範囲を拡大したことと顎義歯の辺縁形態への工夫が有効であったと推察された.具体的には,試適時に患側の唇側義歯床にソフトワックスを用いて患側の赤唇の厚みとリップサポートを獲得し,口唇閉鎖,構音,水漏れがないことを確認した.本症例では顎義歯の装着が接客業に携わる20歳代である患者のQOL向上・ラポール形成・心理的サポートに繋がったと考えられた.今後は継続的なメンテナンスと機能評価を行い,瘢痕収縮の後戻り,粘膜面形態の経時的変化に対応する予定である.