公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

講演情報

課題口演

現地発表

課題口演2
臨床エビデンス

2024年7月6日(土) 10:00 〜 11:00 第3会場 (幕張メッセ国際会議場 2F 201)

座長:會田 英紀(北医療大)

[課題5] 高齢外来患者における欠損補綴治療法と食品摂取の多様性および栄養摂取との関連

*坂本 和基1、大野 彩2、黒﨑 陽子2、三野 卓哉4、中川 晋輔3、下村 侑司1、小山 絵理3、樋口 隆晴3、大森 江3、徳本 佳奈5、土山 雄司1、縄稚 久美子3、窪木 拓男1 (1. 岡山大学学術研究院医歯薬学域インプラント再生補綴学分野、2. 岡山大学病院 新医療研究開発センター、3. 岡山大学病院 歯科・口腔インプラント科部門、4. 大阪歯科大学歯学部 欠損歯列補綴咬合学講座、5. 兵庫医科大学医学部 歯科口腔外科学講座)

[Abstract]
【目的】
 食品摂取の多様性は,高齢者の栄養状態や身体・認知機能の維持に重要であるが,欠損補綴治療の差違との関連を検討した研究はない.そこで本研究は,過去に可撤性床義歯(RD)またはインプラント義歯(ID)の治療を受けた高齢者を対象に,治療法別に食品摂取の多様性および栄養摂取状況に違いがあるかを確認すること,また今後の縦断研究を見据え,食品摂取の多様性に関連する因子を同定することを目的とした.
【方法】
 RDまたはIDのメインテナンスのために岡山大学病院歯科・口腔インプラント科部門に来院した65歳以上の患者297名(RD/ID:135/162名)を対象に,横断調査を行った.咀嚼難易度別に摂取可能かを評価する摂取可能食品質問票を用いて,摂取可能食品スコア(IFS)を算出した.食品摂取の多様性は,食品摂取多様性質問票を用いて評価した.総エネルギーおよび栄養素(タンパク質,脂質,炭水化物)の摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票から算出した.体成分測定にはInBody770を用いた.RD群とID群のIFS,食品摂取多様性スコア(DVS),BMI,骨格筋量指数,総エネルギー,栄養素の摂取量を,Wilcoxonの順位和検定またはカイ2乗検定にて比較した.またDVSを従属変数とし,補綴治療法,現在歯数,補綴装置装着期間,咀嚼能率スコア,性別,年齢,同居家族の有無,循環器/消化器/内分泌疾患の有無を説明変数とした重回帰分析を行った.
【結果と考察】
 IFSの中央値はID群がRD群に比べて有意に高かった(RD:84.5,ID:100.0,p<0.01).一方,DVSの中央値は両群に統計学的有意差は認められなかった(RD:3点,ID:4点,p=0.23)(図1).両群のBMI,骨格筋量指数,総エネルギー摂取量,各栄養素の摂取量には,いずれも有意差はなかった.重回帰分析の結果,男性(β=0.32),循環器疾患あり(β=0.20)が,DVS(低い)に有意に関連する因子であったが,治療法の差違はDVSに有意に関連する因子ではなかった(表1).本研究は横断研究であり,補綴治療の差違とDVSの関係に十分な結論を得ることはできないが,どのような補綴治療が行われ,咀嚼難易度の高い食品を摂取できると自覚したとしても,それだけでは食品摂取の多様性や栄養摂取状況が向上するとは必ずしも言えない可能性が示唆された.