第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM 第3会場 (3F 301)

座長:浅賀忠義(北海道大学大学院保健科学院機能回復学分野)

基礎 口述

[0001] Light Touch効果は指先への注意のみでも得られ複合要因で成立している

石垣智也1,2, 植田耕造1, 藤原菜津1, 脇聡子1, 菅沼惇一1, 森岡周1 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.東生駒病院リハビリテーション科)

Keywords:Light Touch, 姿勢制御, 注意

【はじめに,目的】
力学的に立位姿勢の安定化に寄与しないとされる程度の力(1N未満)で,固定点に指先を接触させると姿勢動揺が減少する。これをLight Touch(LT)効果という。これまでLT効果は,固定点への接触によって効果が得られるとされていた(Holden, 1994. Jeka, 1997)。しかし,固定点がなくとも,指先からの感覚入力があれば姿勢動揺が減少する報告(Backiund Wasling, 2005. Nagano, 2006)もあり,LT効果の成立要因について一定した見解を得ていない。本研究の目的は,異なる立位条件によるLT効果の違いを比較し,LT効果を成立させる要因を検討することである。
【方法】
対象は右手が利き手の健常成人17名(男性10名,女性7名,平均年齢22.7±2.2歳)とした。測定肢位は,閉眼閉脚立位で左上肢は自然な体側下垂位とし,右上肢は肘関節屈曲90度で示指伸展位とした。立位条件は,身体の揺れに注意し出来るだけ揺れないように立つControl(C)条件,右示指の揺れに注意し出来るだけ揺れないように,固定されたスタンドにLTするNormal Light Touch(NLT)条件,右示指の揺れに注意し出来るだけ揺れないように,右手関節に装着したリストバンド(重さ28.5g)からワイヤーを通して,右示指で自己の姿勢動揺を反映した非固定接触点にLTするSensory Light Touch(SLT)条件,何にも接触せず右示指の揺れに注意し,出来るだけ揺れないように立つAttention Light Touch(ALT)条件の4条件を設定した。C条件を除く,各条件に含まれるLT効果に寄与する要因は,NLT条件では固定点接触,感覚入力,指先への注意,SLT条件では感覚入力,指先への注意,ALT条件では指先への注意のみである。SLT条件はリストバンドから右手関節に固有感覚,触圧覚が入力されるため,他の条件でも,同じ重さに調整したリストバンドを右手関節に装着した。各条件の測定時間は20秒とした。姿勢動揺の測定には重心動揺計G-6100(ANIMA社製)を用い,サンプリング周波数は100Hz,使用パラメータは総軌跡長,実効値面積とした。NLT条件のみ,ひずみセンサーELFシステム(ニッタ社製)を用い,サンプリング周波数20Hzで接触力の測定をした。測定手順は,事前に1N未満の接触力の練習を行った後,最初にC条件(C1)の測定を行った。その後,被験者によりNLT条件・SLT条件・ALT条件をランダムで1回ずつ測定し,最後にもう一度C条件(C2)を測定した。統計解析は,測定前後において,閉眼閉脚立位姿勢保持の学習効果の有無を確認するために,C1条件とC2条件の重心動揺計各パラメータを対応のあるt-検定を用いて比較した。その後,C1条件・NLT条件・SLT条件・ALT条件の重心動揺計各パラメータの比較を対応のある一元配置分散分析(多重比較検定法Holm)を用いて4条件比較した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者に対し,研究内容を説明し同意を得た。なお本研究は本学研究倫理委員会(受付番号H25-26)にて承認されている。
【結果】
全ての被験者において,NLT条件で接触力が1Nを超えることはなかった(平均0.51±0.17N)。また,測定前後のC条件の比較では有意差を認めなかった。4条件比較では,総軌跡長はC1条件に比べ全ての条件において,有意な減少(平均減少率:NLT条件29.6%・SLT条件18.2%・ALT条件10.9%)を認めた(P<0.01)。また,NLT条件・SLT条件・ALT条件間の比較でも,全てにおいて,有意差を認めた(P<0.01,SLT条件vs. ALT条件のみP<0.05)。実効値面積では,NLT条件のみ他の条件と比較して有意な減少(平均減少率:C1条件に比して68.4%,SLT条件・ALT条件に比して63.4%)を認めた(P<0.01)が,他の条件間においては有意差を認めなかった。
【考察】
測定前後のC条件の比較において有意差を認めなかったため,閉眼閉脚立位姿勢保持の学習効果はなかったと考える。つまり,4条件比較における重心動揺計各パラメータの条件差は,学習効果によるものではなく,立位条件の違いによるものであることを示している。総軌跡長では注意のみのALT条件であっても総軌跡長の減少を認め,かつ,NLT条件,SLT条件,ALT条件の順でその減少率に差を認めたため,指先への注意がLT効果を成立させる最小要因であり,感覚入力,固定点接触と寄与する要因が増えるほど,その効果を増加させていると考える。一方,実効値面積では,固定点接触のNLT条件のみ有意な実効値面積の減少を認め,他の非固定点条件では差を認めなかったため,実効値面積の減少には,固定点接触という要因が必要であることを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,LT効果は注意のみでも得られ,複合要因で成立しており,重心動揺計パラメータの特性の違いにより,寄与する要因が異なるという基礎的知見を示した。