[0006] 手指屈筋由来の運動ニューロン分布とサル脊髄損傷後の手指機能回復について
Keywords:霊長類, 脊髄損傷, 運動ニューロン
【はじめに】
物をつかむなどの手指巧緻動作は,自立した日常生活活動を行ううえで重要な要素のひとつであり,その動きは主に皮質脊髄路によって制御されている。そのため,皮質脊髄路の損傷を引き起こす脊髄損傷においては,どの髄節で損傷されたかがその後の日常生活活動に大きな影響をおよぼす。損傷レベルと可能な日常生活活動の関係については,追跡研究よりその関係性は示されているが,手指機能改善に焦点をあてた報告はほとんどみられない。また,外傷を起因とすることが多い脊髄損傷では,外傷の程度や範囲が異なることが想定され,損傷レベルと運動機能の関係性を正確に関連付けることは難しい。
そこで,本研究はサル脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復に焦点をあてた。また,手指屈筋由来の運動ニューロン分布と運動機能回復を解析することで,手指機能回復に必要な解剖学的知見を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はマカクザル(年齢:4歳,4歳,4歳,11歳,体重:4.1 kg,4.3 kg,4.9kg,5.1 kg)とした。脊髄損傷は,深麻酔下にて各種モニタリング(心電図,血圧,SpO2,呼吸数,体温)のもと,それぞれ右頸髄5/6,6/7,7/8間の片側2/3切断モデルを作成した。行動学的解析には上肢・手指機能の量的評価であるBrinkman board testとReaching testを,質的評価としてReaching test時の精密把持(Precision grip)の割合(%)を用いた。評価は損傷後3,5,7,10,14日目とその後各2回/週に行った。手指屈筋由来の運動ニューロンの同定は,逆行性トレーサー(Wheat Germ Agglutinin-Horseradish Peroxidase:WGA-HRP)を右長母指屈筋,深指屈筋に注入して脊髄レベルで可視化した。皮質脊髄路の可視化は,順行性トレーサー(Biotinylated dextran amine:BDA)を左一次運動野に注入して行った。
【倫理的配慮】
本研究はNational Institutes of Health(NIH)のガイドラインに沿い,京都大学霊長類研究所の倫理規定に基づいて行われた。
【結果】
Brinkman board testでは,自然経過にともなう機能回復率はC5/6,C6/7,C7/8それぞれ0%,11%,84%であった。Reaching test(縦・横)では,それぞれ0.6%・0.6%,49%・22%,96%・100%であった。質的評価であるPrecision gripの割合(縦・横)は,0%・0%,0%・0%,17%・86%であった。
手指屈筋由来の運動ニューロンは,C6,C7,C8・T1に限局して分布しており,その割合はそれぞれ11.2%,49.0%,39.8%であった。
【考察】
行動学的解析の結果より脊髄損傷後の自然回復では,C7/8損傷より上位で損傷を受けてしまうと,手指機能改善による巧緻動作の再獲得が困難になることが考えられた。手指屈筋由来の運動ニューロン分布から,手指の屈曲動作は主にC6-CT1領域によって行われていることが考えられた。しかし,C5/6損傷でもわずかではあるが機能回復がみられた。我々は,これまでサル脊髄損傷後の自然回復過程において皮質脊髄路が損傷部位を越えて運動ニューロンとシナプスを形成し運動機能回復につながることをつきとめている。これらのことより,皮質脊髄路の神経回路網再形成によって損傷レベル以下の機能回復がもたらされる可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復過程と手指屈筋由来の運動ニューロン分布を同定することができた。これらの結果は,脊髄損傷後であっても損傷レベル以下の機能回復を念頭においた理学療法プログラム構築に結びつくものと考える。
物をつかむなどの手指巧緻動作は,自立した日常生活活動を行ううえで重要な要素のひとつであり,その動きは主に皮質脊髄路によって制御されている。そのため,皮質脊髄路の損傷を引き起こす脊髄損傷においては,どの髄節で損傷されたかがその後の日常生活活動に大きな影響をおよぼす。損傷レベルと可能な日常生活活動の関係については,追跡研究よりその関係性は示されているが,手指機能改善に焦点をあてた報告はほとんどみられない。また,外傷を起因とすることが多い脊髄損傷では,外傷の程度や範囲が異なることが想定され,損傷レベルと運動機能の関係性を正確に関連付けることは難しい。
そこで,本研究はサル脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復に焦点をあてた。また,手指屈筋由来の運動ニューロン分布と運動機能回復を解析することで,手指機能回復に必要な解剖学的知見を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はマカクザル(年齢:4歳,4歳,4歳,11歳,体重:4.1 kg,4.3 kg,4.9kg,5.1 kg)とした。脊髄損傷は,深麻酔下にて各種モニタリング(心電図,血圧,SpO2,呼吸数,体温)のもと,それぞれ右頸髄5/6,6/7,7/8間の片側2/3切断モデルを作成した。行動学的解析には上肢・手指機能の量的評価であるBrinkman board testとReaching testを,質的評価としてReaching test時の精密把持(Precision grip)の割合(%)を用いた。評価は損傷後3,5,7,10,14日目とその後各2回/週に行った。手指屈筋由来の運動ニューロンの同定は,逆行性トレーサー(Wheat Germ Agglutinin-Horseradish Peroxidase:WGA-HRP)を右長母指屈筋,深指屈筋に注入して脊髄レベルで可視化した。皮質脊髄路の可視化は,順行性トレーサー(Biotinylated dextran amine:BDA)を左一次運動野に注入して行った。
【倫理的配慮】
本研究はNational Institutes of Health(NIH)のガイドラインに沿い,京都大学霊長類研究所の倫理規定に基づいて行われた。
【結果】
Brinkman board testでは,自然経過にともなう機能回復率はC5/6,C6/7,C7/8それぞれ0%,11%,84%であった。Reaching test(縦・横)では,それぞれ0.6%・0.6%,49%・22%,96%・100%であった。質的評価であるPrecision gripの割合(縦・横)は,0%・0%,0%・0%,17%・86%であった。
手指屈筋由来の運動ニューロンは,C6,C7,C8・T1に限局して分布しており,その割合はそれぞれ11.2%,49.0%,39.8%であった。
【考察】
行動学的解析の結果より脊髄損傷後の自然回復では,C7/8損傷より上位で損傷を受けてしまうと,手指機能改善による巧緻動作の再獲得が困難になることが考えられた。手指屈筋由来の運動ニューロン分布から,手指の屈曲動作は主にC6-CT1領域によって行われていることが考えられた。しかし,C5/6損傷でもわずかではあるが機能回復がみられた。我々は,これまでサル脊髄損傷後の自然回復過程において皮質脊髄路が損傷部位を越えて運動ニューロンとシナプスを形成し運動機能回復につながることをつきとめている。これらのことより,皮質脊髄路の神経回路網再形成によって損傷レベル以下の機能回復がもたらされる可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復過程と手指屈筋由来の運動ニューロン分布を同定することができた。これらの結果は,脊髄損傷後であっても損傷レベル以下の機能回復を念頭においた理学療法プログラム構築に結びつくものと考える。