[0012] エアマットレスの体圧分散能が
咳嗽力および呼吸筋力に及ぼす影響
Keywords:咳嗽, 呼吸筋, 体圧分散
【目的】
神経筋疾患,脊髄損傷,術後血行動態不安定を有する患者では,病状の進行とともに自己での体位変換が困難となり,褥瘡の発生リスクが高くなる。そのような患者には,一般的にエアマットレスの使用が推奨されている。一方,自分で体位変換が困難な患者は,無気肺・肺炎など呼吸器合併症の発生リスクも高くなる。呼吸器合併症の予防には早期離床・深呼吸・有効な咳嗽が必要であるが,臨床上,柔らかいマットレスでは体動が不安定となり,咳嗽練習,呼吸筋トレーニングに難渋する印象がある。そこで今回我々は,マットレスの硬さ(体圧分散能)が咳嗽力に及ぼす影響について検討した。
【方法】
健常成人28名(男性14名,女性14名,年齢27.8±5.2歳)を対象とした。対象はランダムに硬さを設定した3種類のマットレス(標準マットレス:N,エアマットレス設定Hard:エアH,設定Soft:エアS)で背臥位をとり,咳嗽力(咳嗽時最大咳流量:CPF),肺機能(努力性肺活量:FVC,一秒量:FEV1.0),呼吸筋力(最大呼気圧:MEP,最大吸気圧:MIP)を測定した。また,体圧分散能とは接触面積を拡げ体圧値を減少させることをさし,今回3種類のマットレスで接触面積と平均体圧値を測定し,平均体圧値を体圧分散能の指標とした。使用機器は,エアマットレスOSCAR(モルテン)を用い,咳嗽力・呼吸機能測定は,スパイロメーター(MICROSPIRO HI-801:NIHON KOHDEN),呼吸筋力測定は,呼吸筋力計(VITAL POWER KH101)を使用した。体圧分布測定には,体圧分布計(NITTA BIG-MAT VIRTUAL)を用いた。統計解析は,3種類のマットレス間での比較にボンフェローニ法を用いた。また3種類のマットレス間で有意差を認めた咳嗽力,肺機能,呼吸筋力の項目については,マットレスの硬さとの関係性を調査するため,平均体圧値との相関分析を行った。その関係性を調査するためには群間における変化率を求める必要があり,最も硬いと予測されるNを基準として最も柔らかいと予測されるエアSとの変化率(%)を求め,変化率同士でピアソンの相関分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には口頭および書面にて本研究の目的や方法,リスク等を十分に説明し承諾を得た。また,本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
体圧分散能は低い順(平均体圧値は高い順)に,N,エアH,エアSで全てに有意差を認めた。CPFとMEPは,エアSがN(p<0.05),エアH(p<0.01)に比べ有意に低かったが,N,エアH間には差を認めなかった。MIP・FVC・FEV1.0は,いずれも3群間で有意差を認めなかった。今回,CPFとMEPに有意差を認めたことから,マットレスの硬さとの関係性では,平均体圧値とCPF(r=0.46,p<0.05),MEP(r=0.41,p<0.05)の変化率同士にそれぞれ相関を認めた。またCPFとMEPの関係性を調査するため相関分析を行った結果,CPFとMEPにおいてもNを基準としたとエアSとの変化率(r=0.58,p<0.01)に相関を認めた。
【考察】
エアSのみ有意にCPFとMEPの低下がみられ,その他の指標はマットレス間で有意差を認めなかった。またNを基準としたエアSとの変化率の結果から,CPFとMEPは体圧分散能の影響を受けることが示唆された。一般的に,咳嗽のメカニズムでは,第2相(吸気相)で肺活量,第4相(呼気相)では呼気筋力が必要とされる。今回,FVCに変化を認めず,MEPに変化を認めたことから,CPFの低下はMEPの低下に起因していることが考えられた。MEPの主動作筋である体幹深層筋(腹横筋・内腹斜筋)は,咳嗽時には呼気筋と同時に姿勢の安定としても働く。不安定なマットレス上ではこれら体幹深層筋の姿勢の安定作用が大きくなるため,CPF,MEPの呼気筋としての効率を低下させたのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
エアマットレス上で,咳嗽および呼気筋力トレーニングを行う際は,接触面からの体圧の影響を受けるため,マットレスの硬さを硬く設定する必要がある。しかし,エアH以上の硬さであれば,必ずしも硬すぎる環境を選択する必要はない。ベッド上背臥位を強いられる患者は,病状の進行や廃用による二次的障害から,健常成人に比べ環境因子の影響を強く受けるものと考える。そのため,我々が臨床場面で行う咳嗽練習や呼気筋力トレーニングでは,マットレスの硬さを考慮すべきであり,咳嗽力や呼気筋力を高めるための一助になりうるものと考える。
神経筋疾患,脊髄損傷,術後血行動態不安定を有する患者では,病状の進行とともに自己での体位変換が困難となり,褥瘡の発生リスクが高くなる。そのような患者には,一般的にエアマットレスの使用が推奨されている。一方,自分で体位変換が困難な患者は,無気肺・肺炎など呼吸器合併症の発生リスクも高くなる。呼吸器合併症の予防には早期離床・深呼吸・有効な咳嗽が必要であるが,臨床上,柔らかいマットレスでは体動が不安定となり,咳嗽練習,呼吸筋トレーニングに難渋する印象がある。そこで今回我々は,マットレスの硬さ(体圧分散能)が咳嗽力に及ぼす影響について検討した。
【方法】
健常成人28名(男性14名,女性14名,年齢27.8±5.2歳)を対象とした。対象はランダムに硬さを設定した3種類のマットレス(標準マットレス:N,エアマットレス設定Hard:エアH,設定Soft:エアS)で背臥位をとり,咳嗽力(咳嗽時最大咳流量:CPF),肺機能(努力性肺活量:FVC,一秒量:FEV1.0),呼吸筋力(最大呼気圧:MEP,最大吸気圧:MIP)を測定した。また,体圧分散能とは接触面積を拡げ体圧値を減少させることをさし,今回3種類のマットレスで接触面積と平均体圧値を測定し,平均体圧値を体圧分散能の指標とした。使用機器は,エアマットレスOSCAR(モルテン)を用い,咳嗽力・呼吸機能測定は,スパイロメーター(MICROSPIRO HI-801:NIHON KOHDEN),呼吸筋力測定は,呼吸筋力計(VITAL POWER KH101)を使用した。体圧分布測定には,体圧分布計(NITTA BIG-MAT VIRTUAL)を用いた。統計解析は,3種類のマットレス間での比較にボンフェローニ法を用いた。また3種類のマットレス間で有意差を認めた咳嗽力,肺機能,呼吸筋力の項目については,マットレスの硬さとの関係性を調査するため,平均体圧値との相関分析を行った。その関係性を調査するためには群間における変化率を求める必要があり,最も硬いと予測されるNを基準として最も柔らかいと予測されるエアSとの変化率(%)を求め,変化率同士でピアソンの相関分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には口頭および書面にて本研究の目的や方法,リスク等を十分に説明し承諾を得た。また,本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
体圧分散能は低い順(平均体圧値は高い順)に,N,エアH,エアSで全てに有意差を認めた。CPFとMEPは,エアSがN(p<0.05),エアH(p<0.01)に比べ有意に低かったが,N,エアH間には差を認めなかった。MIP・FVC・FEV1.0は,いずれも3群間で有意差を認めなかった。今回,CPFとMEPに有意差を認めたことから,マットレスの硬さとの関係性では,平均体圧値とCPF(r=0.46,p<0.05),MEP(r=0.41,p<0.05)の変化率同士にそれぞれ相関を認めた。またCPFとMEPの関係性を調査するため相関分析を行った結果,CPFとMEPにおいてもNを基準としたとエアSとの変化率(r=0.58,p<0.01)に相関を認めた。
【考察】
エアSのみ有意にCPFとMEPの低下がみられ,その他の指標はマットレス間で有意差を認めなかった。またNを基準としたエアSとの変化率の結果から,CPFとMEPは体圧分散能の影響を受けることが示唆された。一般的に,咳嗽のメカニズムでは,第2相(吸気相)で肺活量,第4相(呼気相)では呼気筋力が必要とされる。今回,FVCに変化を認めず,MEPに変化を認めたことから,CPFの低下はMEPの低下に起因していることが考えられた。MEPの主動作筋である体幹深層筋(腹横筋・内腹斜筋)は,咳嗽時には呼気筋と同時に姿勢の安定としても働く。不安定なマットレス上ではこれら体幹深層筋の姿勢の安定作用が大きくなるため,CPF,MEPの呼気筋としての効率を低下させたのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
エアマットレス上で,咳嗽および呼気筋力トレーニングを行う際は,接触面からの体圧の影響を受けるため,マットレスの硬さを硬く設定する必要がある。しかし,エアH以上の硬さであれば,必ずしも硬すぎる環境を選択する必要はない。ベッド上背臥位を強いられる患者は,病状の進行や廃用による二次的障害から,健常成人に比べ環境因子の影響を強く受けるものと考える。そのため,我々が臨床場面で行う咳嗽練習や呼気筋力トレーニングでは,マットレスの硬さを考慮すべきであり,咳嗽力や呼気筋力を高めるための一助になりうるものと考える。