[0014] 咳嗽時の胸腔内圧および気道抵抗の変化が呼気流量に与える影響
キーワード:咳嗽, 胸腔内圧, シミュレーション
【目的】
前回我々は,肺活量,胸腔内圧,気道抵抗,声帯機能を設定することで咳嗽時流量波形のシミュレーションの可能性について本学会で報告した。しかし気道抵抗や胸腔内圧は予測値を用いているため,これらが精度に影響している。気道抵抗の測定は通常安静呼吸時であり,肺気量や胸腔内圧が大きく変動する咳嗽時の変化は明らかにされていない。そこで今回,食道バルーンを用いて胸腔内圧,気道抵抗を測定し,呼気流量への影響について検討した。更に,咳嗽時流量波形のシミュレーションにも応用したので報告する。
【方法】
気道内の気流は,生理学でも電気回路に例えられ,気道の圧力差=気流×気道抵抗というオームの法則が適用できる。気流発生時の気道内圧は直接測定できないが,肺弾性圧と食道(胸腔)内圧の和で表され,肺弾性圧は,肺コンプライアンスから算出可能である。そこで本研究では,肺コンプライアンスの測定後,咳嗽時の気道抵抗・胸腔内圧を測定した。また,シミュレーションのパラメータとして安静時の気道抵抗,最大呼気筋力(PEmax)を測定した。尚シミュレーションのモデルは,咳嗽時に気道内圧と胸腔内圧が等しくなる点(等圧点)の上流(肺胞側)に注目し,電気回路におけるコンデンサの放電モデルを用いた。
肺コンプライアンスの測定
被験者は健常若年男性1名で,被験者に食道バルーンを鼻から挿入し,マウスピースを加えさせ,最大吸気位からゆっくりと呼気を行わせた。この時約500ml呼出する毎に気道を閉塞させ,口腔(気道)内圧と食道(胸腔)内圧を測定した。呼気量と(口腔内圧-胸腔内圧)の変化の関係から肺コンプライアンスを算出した。
咳嗽時の胸腔内圧および気道抵抗の測定
被験者に残気量位より各吸気位(最大吸気,4L,3L,2L,1L)から咳嗽を行わせた。この間,胸腔内圧および流量,肺気量を測定し,全気道抵抗=(胸腔内圧+肺弾性圧)/流量より咳嗽時全気道抵抗(Rcough)を算出した。また等圧点より上流の抵抗(Rus=肺弾性圧/流量)も算出した。尚,肺弾性圧は肺気量を肺コンプライアンスで除して求めた。
安静時気道抵抗(Rrest)の測定は,安静呼吸を5回中の平均気道抵抗とした。最大呼気筋力は,最大吸気位より最大努力の呼気を行わせ,その際の口腔内圧をPEmaxとした。
解析方法
Rcough,RusはRrestとの比率を,胸腔内圧は最大呼気圧との比率を求めた。各肺気量位における咳嗽時の各種パラメータの変化を視覚的に解析した。これらの結果を基に,PEmax,Rrestを用いた胸腔内圧,気道抵抗の近似式を作成し,流量波形のシミュレーションを行った。
【説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
胸腔内圧の変化:流量出現の約100ms前より上昇し,最大値はPEmaxの80%程度で,PEmax測定時の胸腔内圧と同程度であった。肺気量位別では1L吸気時はやや低下していたが,その他は最大吸気と同程度であった。
気道抵抗の変化:いずれの肺気量位でもRcough,Rus共に,咳嗽開始時は∞であり,終了時RcoughはRrestの4~5倍程度にRusは約90%に収束していた。また,終了時のRusはRcoughの約20%に収束していた。
咳嗽時流量は,最大吸気4L,3L,2L,1Lの順に高かった。
流量波形のシミュレーション:良好な流量シミュレーション波形が得られたが,1L吸気ではやや高めの波形となった。
【考察】
咳嗽時の胸腔内圧は,吸気量を変化させてもほぼPEmaxの80%となる事が確認できた。咳嗽時の気道抵抗は,いずれの肺気量位でも安静時の4~5倍に増加していた。これは,咳嗽時の胸腔内圧の上昇によって等圧点より下流(口側)の気道が狭窄する影響と考えられた。吸気量を変えても胸腔内圧,気道抵抗の変化が小さいことから,気流量の変化は肺弾性圧の影響を受けていると考えられ,現在用いているシミュレーションのアルゴリズムを支持する結果であった。胸腔内圧および気道抵抗の変化をPEmaxを基に数式で近似したことで,流量波形のシミュレーションの精度が向上できた。今後データ数を増やし,また呼気努力を変化させた検討も加えて行く必要がある。
【理学療法研究としての意義】
今回の研究より咳嗽時の流量波形のシミュレーション精度が向上し,咳嗽に関わる各要因の関係性がより明確になった。標準的な流量波形のモデルが出来れば,疾患毎,個人毎の咳嗽力低下の原因を判定することが可能となり,治療方法の選択や治療効果の判定への利用が期待できる。
前回我々は,肺活量,胸腔内圧,気道抵抗,声帯機能を設定することで咳嗽時流量波形のシミュレーションの可能性について本学会で報告した。しかし気道抵抗や胸腔内圧は予測値を用いているため,これらが精度に影響している。気道抵抗の測定は通常安静呼吸時であり,肺気量や胸腔内圧が大きく変動する咳嗽時の変化は明らかにされていない。そこで今回,食道バルーンを用いて胸腔内圧,気道抵抗を測定し,呼気流量への影響について検討した。更に,咳嗽時流量波形のシミュレーションにも応用したので報告する。
【方法】
気道内の気流は,生理学でも電気回路に例えられ,気道の圧力差=気流×気道抵抗というオームの法則が適用できる。気流発生時の気道内圧は直接測定できないが,肺弾性圧と食道(胸腔)内圧の和で表され,肺弾性圧は,肺コンプライアンスから算出可能である。そこで本研究では,肺コンプライアンスの測定後,咳嗽時の気道抵抗・胸腔内圧を測定した。また,シミュレーションのパラメータとして安静時の気道抵抗,最大呼気筋力(PEmax)を測定した。尚シミュレーションのモデルは,咳嗽時に気道内圧と胸腔内圧が等しくなる点(等圧点)の上流(肺胞側)に注目し,電気回路におけるコンデンサの放電モデルを用いた。
肺コンプライアンスの測定
被験者は健常若年男性1名で,被験者に食道バルーンを鼻から挿入し,マウスピースを加えさせ,最大吸気位からゆっくりと呼気を行わせた。この時約500ml呼出する毎に気道を閉塞させ,口腔(気道)内圧と食道(胸腔)内圧を測定した。呼気量と(口腔内圧-胸腔内圧)の変化の関係から肺コンプライアンスを算出した。
咳嗽時の胸腔内圧および気道抵抗の測定
被験者に残気量位より各吸気位(最大吸気,4L,3L,2L,1L)から咳嗽を行わせた。この間,胸腔内圧および流量,肺気量を測定し,全気道抵抗=(胸腔内圧+肺弾性圧)/流量より咳嗽時全気道抵抗(Rcough)を算出した。また等圧点より上流の抵抗(Rus=肺弾性圧/流量)も算出した。尚,肺弾性圧は肺気量を肺コンプライアンスで除して求めた。
安静時気道抵抗(Rrest)の測定は,安静呼吸を5回中の平均気道抵抗とした。最大呼気筋力は,最大吸気位より最大努力の呼気を行わせ,その際の口腔内圧をPEmaxとした。
解析方法
Rcough,RusはRrestとの比率を,胸腔内圧は最大呼気圧との比率を求めた。各肺気量位における咳嗽時の各種パラメータの変化を視覚的に解析した。これらの結果を基に,PEmax,Rrestを用いた胸腔内圧,気道抵抗の近似式を作成し,流量波形のシミュレーションを行った。
【説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
胸腔内圧の変化:流量出現の約100ms前より上昇し,最大値はPEmaxの80%程度で,PEmax測定時の胸腔内圧と同程度であった。肺気量位別では1L吸気時はやや低下していたが,その他は最大吸気と同程度であった。
気道抵抗の変化:いずれの肺気量位でもRcough,Rus共に,咳嗽開始時は∞であり,終了時RcoughはRrestの4~5倍程度にRusは約90%に収束していた。また,終了時のRusはRcoughの約20%に収束していた。
咳嗽時流量は,最大吸気4L,3L,2L,1Lの順に高かった。
流量波形のシミュレーション:良好な流量シミュレーション波形が得られたが,1L吸気ではやや高めの波形となった。
【考察】
咳嗽時の胸腔内圧は,吸気量を変化させてもほぼPEmaxの80%となる事が確認できた。咳嗽時の気道抵抗は,いずれの肺気量位でも安静時の4~5倍に増加していた。これは,咳嗽時の胸腔内圧の上昇によって等圧点より下流(口側)の気道が狭窄する影響と考えられた。吸気量を変えても胸腔内圧,気道抵抗の変化が小さいことから,気流量の変化は肺弾性圧の影響を受けていると考えられ,現在用いているシミュレーションのアルゴリズムを支持する結果であった。胸腔内圧および気道抵抗の変化をPEmaxを基に数式で近似したことで,流量波形のシミュレーションの精度が向上できた。今後データ数を増やし,また呼気努力を変化させた検討も加えて行く必要がある。
【理学療法研究としての意義】
今回の研究より咳嗽時の流量波形のシミュレーション精度が向上し,咳嗽に関わる各要因の関係性がより明確になった。標準的な流量波形のモデルが出来れば,疾患毎,個人毎の咳嗽力低下の原因を判定することが可能となり,治療方法の選択や治療効果の判定への利用が期待できる。