[0016] 介護老人保健施設入所者のサルコペニアと血中ビタミンD濃度について
Keywords:車椅子, ビタミンD, サルコペニア
【目的】
介護老人保健施設(以下:老健施設)の入所者は車椅子を使用する虚弱な者が多く入所している。この虚弱の因子としてサルコペニアが知られており移動能力の低下や転倒リスクの増大,死亡リスクの上昇との関連が報告されている。80歳以上のサルコペニア有病率は10~50%と言われているが,老健施設に多く入所する移動能力が低下した集団のサルコペニア有病率は明らかではない。
サルコペニアは筋量が減少する症候群であり,運動や栄養の介入により改善することが報告され,特に栄養面ではビタミンD摂取が有効とされる。運動介入との併用による筋量の改善や,筋量の低下を予防することが報告されている。
そのため,移動能力の低下した車椅子使用者(以下:車椅子群)の,サルコペニアと血中のビタミンD濃度について検討することを目的とした。
【対象および方法】
対象は大都市近郊の老健施設に入所する女性71名,平均年齢85.0±19.8歳とし,測定期間は2013年9月中旬とした。車椅子群と比較検討する対象は同一施設に入所する歩行可能者(以下:歩行群)とした。屋内は歩行しているが屋外は車椅子を使用している者も歩行群として取り扱った。
測定項目は,サルコペニア判定の指標Skeletal Muscle Mass Index(以下:SMI)値と血液中ビタミンD濃度25(OH)Dに加え,握力,要介護度,過去1年間の転倒歴,長谷川式簡易知能評価スケール(以下:HDS-R),FIM,年齢,身長,体重,BMIとした。
SMI値は生体インピーダンス法にて測定した骨格筋量から,計算式:骨格筋量(kg)/身長(m)2を行い算出した。サルコペニアの定義はアルゴリズムに従い行い,SMI値は6.75kg/m2をカットオフ値として用いた。25(OH)D測定のための採血は看護師が行った。握力測定は左右それぞれ2回測定した平均値を採用した。HDS-R,FIMは過去3カ月以内で最新のデータを採用し,要介護度,過去1年間の転倒歴,年齢,身長,体重,BMIはカルテから情報収集した。
統計学的検討は歩行群と車椅子群の2群比較をχ2検定,対応のないt-検定,Mann-Whitney U検定を用いて行なった後,有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は大阪府立大学大学院研究倫理委員会の承認(承認番号2013-103)を受け実施した。この研究への参加者には書面を用いて十分説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】
対象の移動様式は車椅子群42名(59.2%),歩行群29名(40.8%)であった。2群の単変量解析ではサルコペニアの有病率は車椅子群17名(41.5%),歩行群6名(21.4%)と車椅子群は有意にサルコペニアを有病していた。25(OH)Dは車椅子群11.4±3.7ng/ml,歩行群14.5±4.2ng/mlと車椅子群は有意に低下していた。過去1年間の転倒歴は車椅子群20名(47.6%),歩行群5名(17.2%)であり車椅子群は有意に転倒歴を多く有していた。握力は車椅子群7.5±4.0kg,歩行群11.2±3.5kgと車椅子群は有意に低下していた。また,FIMは車椅子群72.7±24.9点,歩行群99.9±13.5点と車椅子群は有意に低下していた。なお,その他の2群比較では有意差を認める項目はなかった。
次に,移動様式を目的変数,単変量解析で有意な関連が認められた「サルコペニア」「25(OH)D」「過去1年間の転倒歴」「FIM」を説明変数とし,強制投入したロジスティック回帰分析を行った。その結果,歩行群に対して車椅子群は有意に25(OH)Dが低下(オッズ比0.70,95%信頼区間0.551-0.897),転倒歴があり(オッズ比4.74,95%信頼区間1.006-22.035),FIMが低値(オッズ比0.92,95%信頼区間0.872-0.967)であった。
【考察】
車椅子群では25(OH)Dの低下,転倒歴,FIMの低値が独立した因子であることが示唆され,サルコペニアは車椅子群に有意な関連因子ではなかった。血中ビタミンD濃度(25(OH)D)が低下した原因は腸管の反応性低下,皮膚産生能の低下などが推測され,ビタミンDは食事からの摂取だけでは推奨値20ng/mlを維持できないため車椅子群は栄養補助の必要性が高い集団と考えられる。
車椅子群で「過去1年間の転倒歴」,「FIM得点低値」が有意な独立関連因子であったことは,これまでの先行研究と一致しており,日常生活で車椅子を使用している者は転倒予防やADL維持へ介入の必要性が高いと考えられる。
【理学療法研究の意義】
車椅子使用者はサルコペニアの有病率が高く,ビタミンDは不足していた。また,転倒歴のある者,ADL低下している者の割合も多い集団であり,生活環境へ介入する必要性を支持する検討となった。さらに,ビタミンD不足が歩行可能な者と比較して低下していた点から,栄養補助の必要性は高くリハビリテーション栄養という視点を十分に考慮するための知見となる。
介護老人保健施設(以下:老健施設)の入所者は車椅子を使用する虚弱な者が多く入所している。この虚弱の因子としてサルコペニアが知られており移動能力の低下や転倒リスクの増大,死亡リスクの上昇との関連が報告されている。80歳以上のサルコペニア有病率は10~50%と言われているが,老健施設に多く入所する移動能力が低下した集団のサルコペニア有病率は明らかではない。
サルコペニアは筋量が減少する症候群であり,運動や栄養の介入により改善することが報告され,特に栄養面ではビタミンD摂取が有効とされる。運動介入との併用による筋量の改善や,筋量の低下を予防することが報告されている。
そのため,移動能力の低下した車椅子使用者(以下:車椅子群)の,サルコペニアと血中のビタミンD濃度について検討することを目的とした。
【対象および方法】
対象は大都市近郊の老健施設に入所する女性71名,平均年齢85.0±19.8歳とし,測定期間は2013年9月中旬とした。車椅子群と比較検討する対象は同一施設に入所する歩行可能者(以下:歩行群)とした。屋内は歩行しているが屋外は車椅子を使用している者も歩行群として取り扱った。
測定項目は,サルコペニア判定の指標Skeletal Muscle Mass Index(以下:SMI)値と血液中ビタミンD濃度25(OH)Dに加え,握力,要介護度,過去1年間の転倒歴,長谷川式簡易知能評価スケール(以下:HDS-R),FIM,年齢,身長,体重,BMIとした。
SMI値は生体インピーダンス法にて測定した骨格筋量から,計算式:骨格筋量(kg)/身長(m)2を行い算出した。サルコペニアの定義はアルゴリズムに従い行い,SMI値は6.75kg/m2をカットオフ値として用いた。25(OH)D測定のための採血は看護師が行った。握力測定は左右それぞれ2回測定した平均値を採用した。HDS-R,FIMは過去3カ月以内で最新のデータを採用し,要介護度,過去1年間の転倒歴,年齢,身長,体重,BMIはカルテから情報収集した。
統計学的検討は歩行群と車椅子群の2群比較をχ2検定,対応のないt-検定,Mann-Whitney U検定を用いて行なった後,有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は大阪府立大学大学院研究倫理委員会の承認(承認番号2013-103)を受け実施した。この研究への参加者には書面を用いて十分説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】
対象の移動様式は車椅子群42名(59.2%),歩行群29名(40.8%)であった。2群の単変量解析ではサルコペニアの有病率は車椅子群17名(41.5%),歩行群6名(21.4%)と車椅子群は有意にサルコペニアを有病していた。25(OH)Dは車椅子群11.4±3.7ng/ml,歩行群14.5±4.2ng/mlと車椅子群は有意に低下していた。過去1年間の転倒歴は車椅子群20名(47.6%),歩行群5名(17.2%)であり車椅子群は有意に転倒歴を多く有していた。握力は車椅子群7.5±4.0kg,歩行群11.2±3.5kgと車椅子群は有意に低下していた。また,FIMは車椅子群72.7±24.9点,歩行群99.9±13.5点と車椅子群は有意に低下していた。なお,その他の2群比較では有意差を認める項目はなかった。
次に,移動様式を目的変数,単変量解析で有意な関連が認められた「サルコペニア」「25(OH)D」「過去1年間の転倒歴」「FIM」を説明変数とし,強制投入したロジスティック回帰分析を行った。その結果,歩行群に対して車椅子群は有意に25(OH)Dが低下(オッズ比0.70,95%信頼区間0.551-0.897),転倒歴があり(オッズ比4.74,95%信頼区間1.006-22.035),FIMが低値(オッズ比0.92,95%信頼区間0.872-0.967)であった。
【考察】
車椅子群では25(OH)Dの低下,転倒歴,FIMの低値が独立した因子であることが示唆され,サルコペニアは車椅子群に有意な関連因子ではなかった。血中ビタミンD濃度(25(OH)D)が低下した原因は腸管の反応性低下,皮膚産生能の低下などが推測され,ビタミンDは食事からの摂取だけでは推奨値20ng/mlを維持できないため車椅子群は栄養補助の必要性が高い集団と考えられる。
車椅子群で「過去1年間の転倒歴」,「FIM得点低値」が有意な独立関連因子であったことは,これまでの先行研究と一致しており,日常生活で車椅子を使用している者は転倒予防やADL維持へ介入の必要性が高いと考えられる。
【理学療法研究の意義】
車椅子使用者はサルコペニアの有病率が高く,ビタミンDは不足していた。また,転倒歴のある者,ADL低下している者の割合も多い集団であり,生活環境へ介入する必要性を支持する検討となった。さらに,ビタミンD不足が歩行可能な者と比較して低下していた点から,栄養補助の必要性は高くリハビリテーション栄養という視点を十分に考慮するための知見となる。