[0019] 軽度認知障害を有する高齢者における身体活動,海馬容量,記憶の相互関連性
キーワード:身体活動量, 海馬, 共分散構造分析
【はじめに,目的】高齢者における積極的な身体活動の実施は,身体機能のみならず,認知機能にも影響を与えることが示唆されており,アルツハイマー病の中核症状のひとつである記憶機能低下との関連も示唆されている。さらに,高齢者の習慣的な身体活動は,記憶において重要な役割を有する脳内の海馬の容量変化と関連することが報告されている。本研究では,認知症への移行リスクが高いとされる軽度認知障害を有する高齢者を対象として,3軸加速度が内蔵された身体活動量計によって計測した強度の異なる身体活動量と海馬容量,記憶機能との相互関連性を検証することを目的とした。これらの相互関連性を明らかにすることによって,記憶機能や海馬容量の加齢変化に対してどのような強度の身体活動促進が有用であるか,また身体活動の促進を起点とした記憶機能への影響に関するメカニズムについての仮説を提案することが本研究の意義となる。
【方法】軽度認知障害の基準(Petersenら,2001)に該当し,身体活動量計測,記憶機能検査,頭部の磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査を完遂した地域在住高齢者310名(平均年齢71.3歳,女性172名)を対象とした。身体活動量は,3軸加速度計が内蔵された身体活動量計(modified HJA-350IT,Active style Pro,Omron Healthcare)を使用して計測した。対象者には身体活動量計を連続した14日間で装着してもらい,日中(6時~18時)の75%以上のデータが7日間以上計測できた対象者のみが本研究に含まれた。身体活動量計で得られたデータから,身体活動の強度別に1日あたりの低強度の身体活動時間(1.5~2.9METs)と中強度の身体活動時間(3.0~5.9METs)を算出した(分/日)。記憶機能検査では,ウェクスラー記憶検査の論理的記憶および視覚性記憶,Rey聴覚性言語学習検査による言語性記憶を実施した(いずれも遅延再生を指標として使用)。また,脳画像解析ソフトウェア(FMRIB Software Library 5.0 FIRST)を用いて,頭部MRI撮像で得られたT-1強調画像から海馬容量を算出した。それぞれの強度による身体活動量と海馬容量,各記憶検査との関連を調べるために,相関分析および年齢を共変量とした回帰分析を用いた。また,身体活動量,海馬容量を観測変数,記憶機能を潜在変数とした共分散構造分析により,これらの変数間の相互関連性を調べ,最適なモデルの検証を行った。危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。
【結果】中強度の身体活動時間は海馬容量と有意な正の相関関係(r=.20,p<.01)を認め,年齢で調整した後も関連性は有意であった(β=.17,p<.01)。しかし,低強度の身体活動時間と海馬容量の有意な関連性は認められなかった。また,いずれの強度の身体活動量も記憶検査とは有意な相関関係を示さなった。共分散構造分析の結果,最良な適合度を示したモデルにおいては,中強度の身体活動量は記憶機能とは直接的な関連は認めなかったが,中強度の身体活動量は海馬容量と有意な関連性を有しており(β=.20,p<.01),海馬容量が記憶機能と直接的な関連性を示した(β=.28,p<.01)。つまり,中強度の身体活動量は海馬容量を介して記憶機能に影響していることが示された。なお,この最終モデルの適合度指標は,モデル適合度を判断するための統計的な許容水準を十分に満たす値であった(GFI=.989,CFI=.983,RMSEA=.045)。
【考察】低強度ではなく中強度の身体活動時間が海馬の容量と有意な関連を認め,この中強度の身体活動は海馬容量との有意な関連性を介して,記憶機能とは間接的に関係していた。本研究の結果から,積極的に中強度の身体活動を実施している軽度認知障害を有する高齢者では海馬容量が維持されており,そのことが記憶機能の成績にも影響していることが確認された。このことから,積極的な中強度の身体活動の促進は,海馬容量および記憶機能の維持・改善に有効となり得る可能性があるものと考えられた。今後は,中強度の身体活動の増大が,将来の海馬容量や記憶機能の変化に影響し得るか否かについての検証が必要である。
【理学療法学研究としての意義】中強度の身体活動の促進は,海馬容量の維持・萎縮抑制を介して記憶を保持することに有用である可能性がされ,このことは高齢者の認知機能低下を抑制するための運動介入の有用性を支持するものであり,理学療法研究の発展に意義のある結果であると考える。
【方法】軽度認知障害の基準(Petersenら,2001)に該当し,身体活動量計測,記憶機能検査,頭部の磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査を完遂した地域在住高齢者310名(平均年齢71.3歳,女性172名)を対象とした。身体活動量は,3軸加速度計が内蔵された身体活動量計(modified HJA-350IT,Active style Pro,Omron Healthcare)を使用して計測した。対象者には身体活動量計を連続した14日間で装着してもらい,日中(6時~18時)の75%以上のデータが7日間以上計測できた対象者のみが本研究に含まれた。身体活動量計で得られたデータから,身体活動の強度別に1日あたりの低強度の身体活動時間(1.5~2.9METs)と中強度の身体活動時間(3.0~5.9METs)を算出した(分/日)。記憶機能検査では,ウェクスラー記憶検査の論理的記憶および視覚性記憶,Rey聴覚性言語学習検査による言語性記憶を実施した(いずれも遅延再生を指標として使用)。また,脳画像解析ソフトウェア(FMRIB Software Library 5.0 FIRST)を用いて,頭部MRI撮像で得られたT-1強調画像から海馬容量を算出した。それぞれの強度による身体活動量と海馬容量,各記憶検査との関連を調べるために,相関分析および年齢を共変量とした回帰分析を用いた。また,身体活動量,海馬容量を観測変数,記憶機能を潜在変数とした共分散構造分析により,これらの変数間の相互関連性を調べ,最適なモデルの検証を行った。危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。
【結果】中強度の身体活動時間は海馬容量と有意な正の相関関係(r=.20,p<.01)を認め,年齢で調整した後も関連性は有意であった(β=.17,p<.01)。しかし,低強度の身体活動時間と海馬容量の有意な関連性は認められなかった。また,いずれの強度の身体活動量も記憶検査とは有意な相関関係を示さなった。共分散構造分析の結果,最良な適合度を示したモデルにおいては,中強度の身体活動量は記憶機能とは直接的な関連は認めなかったが,中強度の身体活動量は海馬容量と有意な関連性を有しており(β=.20,p<.01),海馬容量が記憶機能と直接的な関連性を示した(β=.28,p<.01)。つまり,中強度の身体活動量は海馬容量を介して記憶機能に影響していることが示された。なお,この最終モデルの適合度指標は,モデル適合度を判断するための統計的な許容水準を十分に満たす値であった(GFI=.989,CFI=.983,RMSEA=.045)。
【考察】低強度ではなく中強度の身体活動時間が海馬の容量と有意な関連を認め,この中強度の身体活動は海馬容量との有意な関連性を介して,記憶機能とは間接的に関係していた。本研究の結果から,積極的に中強度の身体活動を実施している軽度認知障害を有する高齢者では海馬容量が維持されており,そのことが記憶機能の成績にも影響していることが確認された。このことから,積極的な中強度の身体活動の促進は,海馬容量および記憶機能の維持・改善に有効となり得る可能性があるものと考えられた。今後は,中強度の身体活動の増大が,将来の海馬容量や記憶機能の変化に影響し得るか否かについての検証が必要である。
【理学療法学研究としての意義】中強度の身体活動の促進は,海馬容量の維持・萎縮抑制を介して記憶を保持することに有用である可能性がされ,このことは高齢者の認知機能低下を抑制するための運動介入の有用性を支持するものであり,理学療法研究の発展に意義のある結果であると考える。