第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 教育・管理理学療法 口述

臨床教育系1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM 第8会場 (4F 411+412)

座長:仙波浩幸(豊橋創造大学保健医療学部)

教育・管理 口述

[0022] 理学療法学生の高齢者に対するエイジズムの調査

長谷部藍1, 加藤仁志1,2, 寺島和希1, 入山渉2, 鳥海亮1 (1.群馬パース大学保健科学部理学療法学科, 2.群馬パース大学大学院保健科学研究科保健科学専攻)

Keywords:エイジズム, 理学療法学生, 高齢者

【はじめに,目的】医療技術の発展に伴い我が国の高齢化率は25.1%に達し超高齢社会となっている。さらに,2050年には高齢化率は39.9%になると予想されている。そのため,理学療法士は高齢者に関わることが多く,理学療法士は高齢者に対する正しい知識や認識を持つ必要がある。エイジズムとは,「年齢を理由に個人や団体を不利に扱い差別すること」である。医療職を目指している学生は,高齢者に対する知識を高め,このエイジズムを弱めることが理想である。佐藤らによる理学療法学生に対する先行研究では,高齢者に対する否定的偏見を持っていることが示唆された。しかし,この先行研究ではエイジズムと高齢者に関する知識の両面から検討しておらず,さらに横断的研究であった。そのため本研究では,理学療法学生の高齢者に対するエイジズムを,高齢者に関する知識も交えて検討すること,エイジズムおよび高齢者に関する知識を縦断的に検討し変化について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は4年制大学理学療法学科の6期生~9期生の209名とした。The Fact of Aging Quiz(以下,FAQ)を用いて高齢者に関する知識を調査し,日本語版Freboniエイジズム尺度短縮版(以下,エイジズム尺度)を用いてエイジズムを2013年7月~8月の間に調査した。6期生のみ2012年8月(3年次)にも調査した。各学年の結果を横断的に比較するためにTukey法を用いて多重比較を行った。また,6期生の3年次,4年次で縦断的に比較するために対応のあるt検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には目的,調査方法,参加による利益,不利益,自らの意志で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表等を記した書面と口頭による説明を行った。同意書への署名により研究参加の同意を得た者を対象者とした。本研究は群馬パース大学保健科学部理学療法学科卒業研究倫理規定に触れないことを研究倫理検討会で承諾された。
【結果】エイジズム尺度の合計得点は,6期生(4年)は17.2点,7期生(3年)は18.5点,8期生(2年)は20.6点,9期生(1年)は23.7点であった。FAQの正答率は,6期生(4年)は29.1%,7期生(3年)は27.4%,8期生(2年)は30.4%,9期生(1年)は31.1%であった。統計学的解析の結果,エイジズム尺度は学年が上がるにつれて有意に低くなった。FAQは9期生(1年)の方が7期生(3年)より有意に得点率が高かったが,その他の学年間では高齢者に関する知識の差は認められなかった。縦断的なエイジズム尺度の結果は,6期生の3年次は18.8点,4年次は17.2点であり,エイジズム尺度の差は認められなかった。FAQの結果は,3年次は31.0%,4年次は29.1%であり,高齢者に関する知識の差は認められなかった。
【考察】横断研究では,学年が上がるにつれてエイジズムは低くなるが高齢者に関する知識には学年間に差がなかった。小野らによる先行研究では,高学年になるほど加齢に関する正しい知識を持ち,エイジズムも低いことが示された。本研究のエイジズム尺度は先行研究を支持する結果となったがFAQは先行研究を支持しない結果となった。このことから,エイジズムを下げるのは高齢者に関する知識ではない何かであると考えた。縦断研究では,エイジズム尺度,FAQともに有意差はみられなかった。先行研究では,看護学生の臨床実習での経験がエイジズムを強めるとされている。しかし,本研究で対象とする理学療法学生の3年次7月~4年次8月の間に臨床実習が3回あり,理学療法学生の臨床実習での経験はエイジズムを強めないと考えた。また,横断研究では各学年間エイジズム尺度が低くなるという結果になったが,縦断研究ではエイジズム尺度に変化がなかった。そのため横断研究と縦断研究に矛盾が生まれている。横断研究と縦断研究では対象としている人物が異なり,ベースラインも違うことから,6期生(4年)はもともとエイジズム尺度が低く,9期生(1年)はもともとエイジズム尺度が高いのではないかと考えられた。また,学年が上がるにつれエイジズムが低くなるのは,生活スタイル,世代の違いなどが要因ではないかと考えられた。今後,この要因を明らかにするために調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法学科の学生のエイジズムは学年が上がるにつれ低くなった。しかし,高齢者に関する知識は9期生と7期生の間にしか有意差は認められず,学年による差異は認められなかった。また,同学年の3年次と4年次を比較するとエイジズム,高齢者に関する知識ともに変化がなかった。本研究の結果は,理学療法教育はエイジズムを維持するのに寄与しているという参考資料として有意義であると考えられた。