第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM 第11会場 (5F 501)

座長:木藤伸宏(広島国際大学総合リハビリテーション学部)

運動器 口述

[0027] ラテラルスラストの動態

井野拓実1, 大角侑平1, 小竹諭1, 上原桐乃1, 三浦浩太1, 大森啓司1, 吉田俊教1, 大越康充2 (1.悠康会函館整形外科クリニックリハビリテーション科, 2.悠康会函館整形外科クリニック整形外科)

Keywords:変形性膝関節症, 三次元動作解析, ラテラルスラスト

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)において認められるラテラルスラスト(以下,スラスト)とは歩行時の立脚中期に特徴的に観察される膝関節の横ぶれと広く認知されている。また本所見は膝OAの悪化要因および重症度の指標であると報告されている(Chang, A. et al. 2004, Kuroyanagi, Y. et al. 2012)。しかしスラストは臨床家の視認により同定されているのが現状であり,これがどのような動態であるかは十分に解明されていない。本研究の目的は,膝OAにおけるスラストの動態を明らかにすることである。
【方法】
人工膝関節全置換術術前の膝OA15症例15膝を対象とした。除外基準は,独歩困難,中枢性神経疾患,リウマチ,重篤な腰部疾患,外傷性OA,足部・股関節疾患,足底板による保存療法,重度肥満を有する症例とした。整形外科専門医1名および臨床経験10年以上の理学療法士2名による診察または前額面ビデオ画像評価によりスラストの有無を確認した後,対象をスラストあり群(女性8例,年齢67.4±11.2歳,BMI 26.3±3.1 kg/m2)とスラストなし群(男性1例,女性6例,年齢73.4±6.0歳,BMI 26.8±5.7 kg/m2)へ分類した。三次元動作解析装置にて定常歩行を計測し,ポイントクラスター法にて膝関節の6自由度キネマティクスを解析した。また各症例について,膝伸展角度,膝屈曲角度,疼痛評価としてvisual analog scale(以下,VAS),giving wayの有無,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下,JKOM),膝OA重症度:北大分類(以下,北大分類),X線画像立位長尺による大腿脛骨角(以下,FTA),内反または外反不安定性評価として内反または外反ストレスX線画像を用いた関節裂隙開大量,そして術中所見によるACLの変性または有無を調査した。膝関節キネマティクスおよび各々の項目についてスラストあり群とスラストなし群で比較検討した。統計解析は対応のないt検定またはカイ二乗検定を用いた(p<0.05)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に準拠し実施された。また実施前に生命倫理委員会の承認を受け,全ての被験者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た。
【結果】
立脚初期,スラストなし群に較べスラストあり群では急激な内反角度の増大が認められた(スラストなし群:2.5±1.8° vsスラストあり群:5.7±1.7°,p=0.003)。また,スラストあり群では立脚期の屈曲角度変化量が有意に小さく(スラストなし群:9.8±2.8° vsスラストあり群:6.1±4.2°,p=0.049),脛骨がより外旋位である傾向が認められた。ストレスX線画像を用いた内反不安定性評価において,スラストあり群では内反不安定性が大きい傾向であった(スラストなし群:6.6±1.3mm vsスラストあり群:8.1±1.8mm,p=0.079)。症例の背景因子,およびその他の項目について両群間に有意差は認められなかった。
【考察】
本研究結果からスラストの特徴は,立脚期における急激な内反角度の増大かつ膝屈曲角度変化量の減少であることが明らかとなった。また,この時期の脛骨はより外旋位であった。更にスラストあり群では内反不安定性が大きい傾向であった。以上よりスラストは動的なマルアライメントかつ内反不安定性が混在した病態であると考えられた。本研究で示されたスラストの所見は,膝関節における衝撃吸収能力の低下,膝外側構成体の過大な伸張ストレス,膝内側コンパートメントの圧縮応力の増大を示唆し,膝OAの主要な悪化因子と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
膝OAにおけるスラストの動態を詳細に解析した研究は少ない。スラストは膝OAに認められる病的運動の代表的なパターンであると考えられる。膝OAの保存療法においては適切な膝屈曲運動の獲得,脛骨の回旋マルアライメントの是正,そして内反不安定性の制御が重要であると考えられる。本知見は膝OAの運動療法や装具/足底板療法の発展,ひいては予防医学や予後予測に寄与することが期待される。