第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM 第11会場 (5F 501)

座長:木藤伸宏(広島国際大学総合リハビリテーション学部)

運動器 口述

[0029] 変形性膝関節症患者を対象とした異常歩行尺度の信頼性と妥当性の検証

山科俊輔1, 天野徹哉2, 藤原裕輝1, 玉利光太郎3 (1.医療法人平病院リハビリテーションセンター, 2.宝塚医療大学保健医療学部, 3.ペルー共和国国立障害者リハビリテーションセンター(JICAボランティア参加))

Keywords:変形性膝関節症, 異常歩行, 定性的評価

【はじめに】
変形性膝関節症(膝OA)患者の異常歩行に対する先行研究では,動作解析装置を用いて,関節モーメントなどを定量的に評価したものが報告されている。しかし,膝OA患者に対する異常歩行パターンの定量的評価は,高価な機器を要するため,臨床において積極的に実施されていないのが現状である。一方,臨床での観察に基づく異常歩行の評価は,視点の違いや経験年数の違いにより見解が異なることが多い。そのため,再現性の高い異常歩行の評価が行えているとは言えない。また,数値化が可能で再現性の高いTimed Up&Go(TUG)や日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(JOA)では各患者の歩行障害を把握しきれない。Lateral Thrust等の異常歩行パターンの繰り返しは変形重症化の重要なマーカーとして知られている。したがって,再現性も高く,各患者による障害把握のできる体系化された尺度を開発する必要性は高い。本研究の目的は,膝OA患者を対象に臨床応用可能な異常歩行尺度を考案し,信頼性と妥当性を明らかにすることである。
【方法】
対象は当院にて膝OAと診断された32名(男性5名,女性27名)とした。除外基準は,膝関節以外の疼痛・関節可動域制限が歩行の著明な制限となっている者とした。膝OA異常歩行尺度は修正歩行異常性尺度(GARAS-M)を参考に,歩行リズム(項目I),前方への推進力(項目II),側方への動揺性(項目III),足部の接地(項目IV),股関節の運動範囲(項目V),肩関節の運動範囲(項目VI),上肢の振りと踵接地の同調性(項目VII)の計7項目とした。各項目0点または1点で採点して総合点を算出し,最低点は0点(異常なし),最高点は7点(著しい異常)とした。計測方法は,3mの歩行路を通常速度で独歩にて1往復し,ビデオカメラを固定した状態で前額面と矢状面の撮影を行った。採点方法は一度撮影した動画を再生ソフト(movie.M)にて観察した。統計処理として,膝OA異常歩行尺度の信頼性は3名の評価者でKappa係数にて合計点,各項目の一致率を検討した。収束的・弁別的妥当性については,膝OA異常歩行尺度と5m最大歩行速度,TUG,リハビリテーションにおける自己効力感(SER)を計測し,Spearmanの順位相関係数にて検討した。同時的妥当性については,変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の合計得点,およびその各下位尺度を目的変数とし,説明変数を膝OA異常歩行尺度,JOA,TUGとした。階層的重回帰分析にて交絡因子(年齢,性別,BMI,K-L分類)を強制投入したのち,ステップワイズ法にて交絡因子から独立して目的変数に寄与する変数を抽出した。解析ソフトはSPSSを使用し,有意水準は両側5%とした。
【説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認(承認番号:25-002)を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い,同意を得た。
【結果】
膝OA異常歩行尺度のKappa係数(p<0.05)は合計点が0.63,項目Iが0.61,項目IIが0.87,項目IIIが0.67,項目IVが0.79,項目Vが0.75,項目VIが0.70,項目VIIが0.66であった。膝OA異常歩行尺度と各尺度の相関係数(ρ)は,5m最大歩行速度にてρ=-0.84,TUGにてρ=0.74であり,ともに有意な相関が認められたが(p<0.05),SERは有意な相関が認められなかった。同時的妥当性については,JKOMの健康状態を目的変数としたモデルにおいて,膝OA異常歩行尺度は交絡因子の影響からは独立して,目的変数に有意に寄与(p=0.016)していた一方,TUG,JOAはモデルから除外された。他のモデルは3因子ともに関連性は認められなかった。
【考察】
膝OA異常歩行尺度は一定の再現性を有し,5m歩行速度やTUGと相関が認められたことにより収束的妥当性を有していることが示唆された。また,SERと相関が認められなかったことにより,一定の弁別的妥当性も有しているといえる。さらに,同時的妥当性については,TUGやJOA以上に膝OA患者の主観的な健康度と関連があり,患者の年齢,性別,BMI,K-L分類の影響からも独立していることが示唆された。これは自身の身体に異常な部位があるという認識であり,自覚的な違和感を抱くということである。そのため,通院回数の増加や将来の変形重症化に大きく影響する可能性がある。しかし,膝OA患者の日常生活や活動状態を交絡因子の影響から独立して説明する力を持たないことにより,日常生活や活動の変容に伴う異常歩行パターンを捉えきれていない可能性がある。今後の課題として,身体機能との関連性,将来のイベントや治療効果の予測妥当性,および反応性を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本尺度は,膝OA患者の特異的な一面である異常歩行パターンを数値化することが可能であり,理学療法の専門性を有した尺度のベースとなる可能性がある。