[0031] 膝前十字靭帯再建術後に発生した膝蓋大腿関節軟骨損傷が膝伸展筋力や臨床症状に及ぼす影響
キーワード:膝前十字靭帯再建術, 膝蓋大腿関節, 軟骨損傷
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷に対し,靭帯再建術を行った際には鏡視上,軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後に行う抜釘術に伴った再鏡視時に,膝蓋大腿関節(以下,PF)の軟骨損傷を来たしているケースが散見される。しかし,これらの症例に対する詳細な報告は少ない。そこで今回我々は,これらの症例の特徴や傾向を検討したので報告する。
【方法】
2010年1月から2011年12月までに当院にて膝屈筋腱を用いた解剖学的二重束ACL再建術を行った219例のうち,再鏡視し得た症例は172例で,このうちACL再々建例や膝関節複合靱帯損傷例,50歳以上の症例,初回再建術時に既にPF軟骨損傷が見られていた症例等を除外した84例を今回の対象とした。内訳は男性40例,女性44例,年齢29.4±9.6歳,再建術から再鏡視までの期間は12.1±2.6ヶ月であった。術後は全例に対し,ほぼ同一プログラムを実施した。再鏡視時にPF軟骨損傷がなかった症例をA群66例(男性33例,女性33例),再鏡視時にPF軟骨損傷が発生していた症例をB群18例(男性7例,女性11例)とした。軟骨損傷はOuterbridge分類を用いて評価した。検討項目は各群の手術時年齢,男女比,BMI,受傷から再建術までの期間,再建術から再鏡視までの期間,筋力,膝前面痛やキャッチングの発生率,以上7項目とした。筋力は全群に対して術後6ヶ月経過時より等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社製)を用いて膝伸展筋力を測定した。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比,及び術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力体重比の値の変化量の比較にはMann-Whiteny U検定を用い,膝前面痛やキャッチングの発生率はχ二乗検定を用いた。その他の項目は対応のないt検定を用いた。統計学的検討にはSPSS Statistics 17.0Jを使用し,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の規定に基づき,説明書および同意書を作成し,研究の目的,結果の取り扱いなど十分に説明を行った後,研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。
【結果】
手術時年齢はA群29.6±10.5歳,B群36.0±5.4歳でありB群が有意に高齢であった(p<0.01)。男女比はA群男性33例,女性33例,B群男性7例,女性11例,BMIはA群22.0±2.7,B群23.0±3.1,再建術から再鏡視までの期間はA群11.8±2.2ヶ月,B群13.3±3.5ヶ月,受傷から再建術までの期間はA群27.1±59.8ヶ月,B群37.2±76.8ヶ月であり,いずれも両群間に有意差はなかった。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比(60%/sec)はA群69.4±25.6%,B群57.5±17.1%であり,A群が有意に高かった(p<0.05)。術後6ヶ月と12ヶ月時の筋力の変化量はA群28.6±23.4,B群10.2±12.6であり,A群が有意に高かった(p<0.01)。術後6,12ヶ月時での膝前面痛やキャッチングはそれぞれA群9例(14.1%),6例(6.0%),B群4例(22.0%),9例(50.0%)に認め,12ヶ月時では二群間に有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
ACL再建時に既にPF軟骨損傷を有していた症例は術後膝伸展筋力が低値だったことが報告されている(Jarvela 2001)。今回の研究では,ACL再建術時にPF軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後の再鏡視時に軟骨損傷を確認できたケース(B群)は,術後6ヶ月の時点での膝伸展筋力において低値を示し,術後6ヶ月と12ヶ月での膝伸展筋力の変化量においても有意に低値であった。また,B群の方が有意に年齢が高かった。臨床症状に関しては,PF軟骨損傷が認められなかった症例(A群)も膝前面部の疼痛やキャッチングを認めたため,臨床症状から一概にPF軟骨損傷を疑うことはできないが,B群では術後6ヶ月から12ヶ月にかけて徐々に膝前面部の臨床症状が出現してくる傾向にあった。以上より,ACL再建術後に同一プログラムを実施しているにも関わらず,術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力の改善が乏しく,膝前面部の愁訴を残す症例や,比較的年齢の高い症例では,PF軟骨損傷の発生に留意した理学療法を行う必要があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後に発生したPF軟骨損傷は,術後の膝伸展筋力の回復に悪影響を及ぼし,且つ膝前面痛やキャッチングを発症させる因子となりうるため,ACL再建術後は再建靭帯のみならず,PF軟骨損傷に留意した理学療法が必要である。
膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷に対し,靭帯再建術を行った際には鏡視上,軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後に行う抜釘術に伴った再鏡視時に,膝蓋大腿関節(以下,PF)の軟骨損傷を来たしているケースが散見される。しかし,これらの症例に対する詳細な報告は少ない。そこで今回我々は,これらの症例の特徴や傾向を検討したので報告する。
【方法】
2010年1月から2011年12月までに当院にて膝屈筋腱を用いた解剖学的二重束ACL再建術を行った219例のうち,再鏡視し得た症例は172例で,このうちACL再々建例や膝関節複合靱帯損傷例,50歳以上の症例,初回再建術時に既にPF軟骨損傷が見られていた症例等を除外した84例を今回の対象とした。内訳は男性40例,女性44例,年齢29.4±9.6歳,再建術から再鏡視までの期間は12.1±2.6ヶ月であった。術後は全例に対し,ほぼ同一プログラムを実施した。再鏡視時にPF軟骨損傷がなかった症例をA群66例(男性33例,女性33例),再鏡視時にPF軟骨損傷が発生していた症例をB群18例(男性7例,女性11例)とした。軟骨損傷はOuterbridge分類を用いて評価した。検討項目は各群の手術時年齢,男女比,BMI,受傷から再建術までの期間,再建術から再鏡視までの期間,筋力,膝前面痛やキャッチングの発生率,以上7項目とした。筋力は全群に対して術後6ヶ月経過時より等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社製)を用いて膝伸展筋力を測定した。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比,及び術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力体重比の値の変化量の比較にはMann-Whiteny U検定を用い,膝前面痛やキャッチングの発生率はχ二乗検定を用いた。その他の項目は対応のないt検定を用いた。統計学的検討にはSPSS Statistics 17.0Jを使用し,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の規定に基づき,説明書および同意書を作成し,研究の目的,結果の取り扱いなど十分に説明を行った後,研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。
【結果】
手術時年齢はA群29.6±10.5歳,B群36.0±5.4歳でありB群が有意に高齢であった(p<0.01)。男女比はA群男性33例,女性33例,B群男性7例,女性11例,BMIはA群22.0±2.7,B群23.0±3.1,再建術から再鏡視までの期間はA群11.8±2.2ヶ月,B群13.3±3.5ヶ月,受傷から再建術までの期間はA群27.1±59.8ヶ月,B群37.2±76.8ヶ月であり,いずれも両群間に有意差はなかった。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比(60%/sec)はA群69.4±25.6%,B群57.5±17.1%であり,A群が有意に高かった(p<0.05)。術後6ヶ月と12ヶ月時の筋力の変化量はA群28.6±23.4,B群10.2±12.6であり,A群が有意に高かった(p<0.01)。術後6,12ヶ月時での膝前面痛やキャッチングはそれぞれA群9例(14.1%),6例(6.0%),B群4例(22.0%),9例(50.0%)に認め,12ヶ月時では二群間に有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
ACL再建時に既にPF軟骨損傷を有していた症例は術後膝伸展筋力が低値だったことが報告されている(Jarvela 2001)。今回の研究では,ACL再建術時にPF軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後の再鏡視時に軟骨損傷を確認できたケース(B群)は,術後6ヶ月の時点での膝伸展筋力において低値を示し,術後6ヶ月と12ヶ月での膝伸展筋力の変化量においても有意に低値であった。また,B群の方が有意に年齢が高かった。臨床症状に関しては,PF軟骨損傷が認められなかった症例(A群)も膝前面部の疼痛やキャッチングを認めたため,臨床症状から一概にPF軟骨損傷を疑うことはできないが,B群では術後6ヶ月から12ヶ月にかけて徐々に膝前面部の臨床症状が出現してくる傾向にあった。以上より,ACL再建術後に同一プログラムを実施しているにも関わらず,術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力の改善が乏しく,膝前面部の愁訴を残す症例や,比較的年齢の高い症例では,PF軟骨損傷の発生に留意した理学療法を行う必要があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後に発生したPF軟骨損傷は,術後の膝伸展筋力の回復に悪影響を及ぼし,且つ膝前面痛やキャッチングを発症させる因子となりうるため,ACL再建術後は再建靭帯のみならず,PF軟骨損傷に留意した理学療法が必要である。