[0035] 前十字靭帯再建術後患者の脛骨前方移動量と膝筋力の関係
キーワード:前十字靭帯, 脛骨前方移動, 筋力
【はじめに,目的】
膝伸展開放性運動を行うことで脛骨前方移動量(以下,移動量)が増加する。移動量は膝関節安定性の指標とされることが多く,移動量の増大は膝靭帯損傷を招くリスクになると考えられている。しかし,実際のスポーツ動作は単的な動きのみならず,様々な動きが複合して構成されており,この時の移動量の変化を知ることは,前十字靱帯(以下,ACL)損傷予防につながると考える。
我々は,先行研究においてACL再建術後患者に対し,スポーツ動作を見越した運動課題を与えることで移動量が増加することを報告した。
今回,同様の運動課題を用い,移動量の変化に加えACL再建術後に重要視される膝筋力との関連について検討した。
【方法】
対象は,片側ACL再建術を施行し1年以上経過した女性(平均年齢22.2±2.9歳,術式は全てBTB法)11名22膝(術側11膝・非術側11膝)とした。被検者にジョグ・ダッシュ・ジャンプ・スクワットで構成した運動課題を一定量行わせ,運動課題前後での移動量・膝筋力を測定した。移動量は,ロリメーター(日本シグマックス社製)を用い,Lachman testの肢位で3回ずつ測定した。膝筋力は,COMBITCB-2(ミナト医科学株式会社)を用い,180°/secの等速運動にて膝屈曲・伸展の平均筋力をそれぞれ算出した。得られた測定値を,術側・非術側の2群に分類し,それぞれ運動前・運動後で比較し,Wilcoxon符号付順位和検定を行った。さらに,移動量・膝筋力の運動前後での増加量を算出し,ピアソンの相関係数を用いて検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し,参加に同意を得て行った。
【結果】
移動量は術側の運動前5.80±0.73mm,運動後6.85±0.91mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。非術側も運動前5.24±0.46mm,運動後6.18±0.47mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。
膝屈曲筋力は術側の運動前4.79±1.26kgf/m,運動後5.03±1.21kgf/m,非術側は運動前4.84±1.94kgf/m,運動後5.14±1.43kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。
膝伸展筋力は術側の運動前9.25±1.17kgf/m,運動後9.47±0.98kgf/m,非術側は運動前9.44±1.23kgf/m,運動後9.57±0.97kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。屈曲・伸展筋力とも大きな変化は認めなかったが,全てにおいて上昇する傾向にあった。
運動前後での移動量と膝筋力の関係に相関関係は認められなかった。
【考察】
先行研究と同様,運動課題前後で術側・非術側とも移動量が増大した。Davidによると,ACLは脛骨の前方制動に約85%関与しており,残りはその他の軟部組織が担っていると報告されている。ACL自体に伸張性はほとんどなく,今回の移動量の増加は,運動効果により軟部組織の柔軟性が増大したことによるものである可能性が高い。
膝筋力においては,運動を行ったにも関わらず筋力低下は起きず,むしろ微弱ながら増強する傾向にあった。今回の運動課題は我々がアスレティックリハビリの前運動として用いる運動と類似したものであり,筋の賦活により筋力が増強する傾向にあったと考えられる。
また,今回の結果より筋力と移動量の関連が薄いことが実証された。ACL損傷は筋疲労との関連を示唆している報告も散見されるが,筋疲労は起きずとも危険因子の一つである,移動量の増加が認められていることを念頭に置く必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
我々,理学療法士はスポーツリハビリを実施する際に筋力に着目してしまいがちであるが,筋力のみでは関節の弛緩性は抑えられないことがわかった。今回の研究結果より,ACL再建術後患者の復帰時期の理学療法場面においても筋力のみに主眼を置くのではなく,動的場面で膝外反しないなどの動作指導・練習を行う必要性が示された。
また,移動量が運動後に増加していたという結果を受け,スポーツ活動を見越した真の移動量を測定するのであれば,軽運動を行った後,或いはホットパックの温熱等により膝周囲組織の柔軟性を向上した上で測定することが望ましい。
膝伸展開放性運動を行うことで脛骨前方移動量(以下,移動量)が増加する。移動量は膝関節安定性の指標とされることが多く,移動量の増大は膝靭帯損傷を招くリスクになると考えられている。しかし,実際のスポーツ動作は単的な動きのみならず,様々な動きが複合して構成されており,この時の移動量の変化を知ることは,前十字靱帯(以下,ACL)損傷予防につながると考える。
我々は,先行研究においてACL再建術後患者に対し,スポーツ動作を見越した運動課題を与えることで移動量が増加することを報告した。
今回,同様の運動課題を用い,移動量の変化に加えACL再建術後に重要視される膝筋力との関連について検討した。
【方法】
対象は,片側ACL再建術を施行し1年以上経過した女性(平均年齢22.2±2.9歳,術式は全てBTB法)11名22膝(術側11膝・非術側11膝)とした。被検者にジョグ・ダッシュ・ジャンプ・スクワットで構成した運動課題を一定量行わせ,運動課題前後での移動量・膝筋力を測定した。移動量は,ロリメーター(日本シグマックス社製)を用い,Lachman testの肢位で3回ずつ測定した。膝筋力は,COMBITCB-2(ミナト医科学株式会社)を用い,180°/secの等速運動にて膝屈曲・伸展の平均筋力をそれぞれ算出した。得られた測定値を,術側・非術側の2群に分類し,それぞれ運動前・運動後で比較し,Wilcoxon符号付順位和検定を行った。さらに,移動量・膝筋力の運動前後での増加量を算出し,ピアソンの相関係数を用いて検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し,参加に同意を得て行った。
【結果】
移動量は術側の運動前5.80±0.73mm,運動後6.85±0.91mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。非術側も運動前5.24±0.46mm,運動後6.18±0.47mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。
膝屈曲筋力は術側の運動前4.79±1.26kgf/m,運動後5.03±1.21kgf/m,非術側は運動前4.84±1.94kgf/m,運動後5.14±1.43kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。
膝伸展筋力は術側の運動前9.25±1.17kgf/m,運動後9.47±0.98kgf/m,非術側は運動前9.44±1.23kgf/m,運動後9.57±0.97kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。屈曲・伸展筋力とも大きな変化は認めなかったが,全てにおいて上昇する傾向にあった。
運動前後での移動量と膝筋力の関係に相関関係は認められなかった。
【考察】
先行研究と同様,運動課題前後で術側・非術側とも移動量が増大した。Davidによると,ACLは脛骨の前方制動に約85%関与しており,残りはその他の軟部組織が担っていると報告されている。ACL自体に伸張性はほとんどなく,今回の移動量の増加は,運動効果により軟部組織の柔軟性が増大したことによるものである可能性が高い。
膝筋力においては,運動を行ったにも関わらず筋力低下は起きず,むしろ微弱ながら増強する傾向にあった。今回の運動課題は我々がアスレティックリハビリの前運動として用いる運動と類似したものであり,筋の賦活により筋力が増強する傾向にあったと考えられる。
また,今回の結果より筋力と移動量の関連が薄いことが実証された。ACL損傷は筋疲労との関連を示唆している報告も散見されるが,筋疲労は起きずとも危険因子の一つである,移動量の増加が認められていることを念頭に置く必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
我々,理学療法士はスポーツリハビリを実施する際に筋力に着目してしまいがちであるが,筋力のみでは関節の弛緩性は抑えられないことがわかった。今回の研究結果より,ACL再建術後患者の復帰時期の理学療法場面においても筋力のみに主眼を置くのではなく,動的場面で膝外反しないなどの動作指導・練習を行う必要性が示された。
また,移動量が運動後に増加していたという結果を受け,スポーツ活動を見越した真の移動量を測定するのであれば,軽運動を行った後,或いはホットパックの温熱等により膝周囲組織の柔軟性を向上した上で測定することが望ましい。