第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM 第13会場 (5F 503)

座長:阿部浩明(広南病院リハビリテーション科)

神経 口述

[0036] 当院Stroke Care Unitにおける早期リハビリテーション介入の効果

菊池謙一, 高橋忠志, 尾花正義 (公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院)

Keywords:脳卒中, ストロークケアユニット, 病棟専従

【はじめに】
当院ではより高度な急性期治療と医療連携の強化を実現すべく2011年8月より脳卒中センター内にStroke Care Unit(以下SCU)を開設した。当院SCUは6床の専有ベッドに対して病棟専従の理学療法士(以下PT)が一名配置されている。専従PTは患者が入院後,可及的早期にリハビリテーション(以下リハ)を実施し,離床状況について多職種との情報共有をはかっている。当院でのSCU開設前の体制としては,脳卒中センター内に急性期患者専有の病床を有しているものの,病棟専従のPTの配置はなく,カンファレンスや情報交換の機会は少ない状況であった。SCU開設前後を比較すると,より充実した環境にて急性期の脳卒中リハが行えるようになったと思われるが,その効果を明確に示す必要がある。先行研究では,SCU内でのリハ状況について報告されたものは散見されるものの,SCU開設前後でのリハ効果を検証した報告は極めて少ない。急性期の脳卒中患者における診療形態は施設によって多岐にわたり,専従の療法士の従事内容も施設により異なり,各施設においてSCU開設前後における検証は必要であると考える。本研究の目的は脳卒中患者のリハ状況,転帰先,在院日数,合併症発生率などについてSCU開設前後を比較し,病棟専従のPTが配置されたことによる脳卒中患者への影響・効果を分析することである。
【方法】
対象は2010年8月~2012年7月に当院に入院した脳卒中患者427名(リハ中止となった患者,転院してきた患者を除く)とした。対象をSCU開設前群(2010年8月~2011年7月に入院),SCU開設後群(2011年8月~2012年7月に入院)の2群間に分け,後方視的にデータ抽出を行い,各分析項目に関して比較検討を行った。分析項目は転帰先,在院日数,理学療法介入までの日数,転帰時の端座位保持自立率,SCU入院上限日数である入院後14日以内の理学療法単位数,合併症(再発・梗塞巣,出血範囲拡大・誤嚥性肺炎)の発生率とした。データ抽出の際,入院当日は1病日とし,再発の定義は,画像検査上,新たな梗塞巣,また出血がみられた場合とした。また,全体の比較に併せて,主な転帰先である自宅退院群,回復期病院への転院群についても各項目別に比較した。データ解析は在院日数,介入までの日数,単位数についてはMann Whitney’s U testにて,端座位保持自立率,合併症発生率については,フィッシャーの正確確率検定にて比較し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院の倫理委員会にて承認をえて(承認番号2407)から実施した。
【結果】
開設前/後における各項目の比較では,介入までの日数の有意な短縮(3.1±1.9/2.3±1.5日),理学療法単位数の有意な増加(11.9±4.7/15.2±6.2単位)がみられた。また,自宅退院群,回復期病院への転院群における比較においても,介入日の有意な短縮,単位数の有意な増加をみとめ,回復期病院への転院群においては在院日数の有意な短縮(45.7±35.9/37.9±21.6日)がみられた。合併症発生率における開設前後の比較では再発にて有意な増加(1.5/5.7%)がみられた。その他の項目については有意差はみられなかった。
【考察】
開設前後の比較では,理学療法介入までの日数が有意に短縮し,理学療法単位数の有意な増加をみとめた。この理由として,PTが病棟専従になることにより,主科担当医師やリハ科医師,療法士間の連携が向上し,より早期から,必要な症例に充実したリハの提供が可能になったと思われる。先行研究では,早期から一日あたりの訓練量を多く行うと,脳卒中発症3ヶ月後の機能障害が改善されると報告されており,本研究においては転帰時の端座位保持自立率では,その効果は示せなかったものの,今後はリハ効果についてもより検討していく必要がある。また,回復期病院への転院群において,開設後に在院日数の有意な短縮をみとめた。この理由として,SCU体制ではカンファレンスの機会が増えたことや,病棟に常に理学療法士が常駐していることで,回診や情報収集でSCUを訪れた主科担当医師やMSWとの情報交換の機会が増え,患者情報の共有が円滑化し,より早期からの予後予測が可能となったことが考えられる。開設後に再発の有意な増加をみとめたが,先行研究では高血圧症が重大な再発因子の一つであると報告されており,本研究でも再発例13例中11例で合併していた。早期離床に伴い特に高血圧症を既往に持つ患者に対してはより慎重にリスク管理を行っていく必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
SCU開設により,脳卒中患者への急性期リハビリテーション環境の充実化を示すことができた。一方,再発例の増加などを認めたため,リスク管理をさらに徹底していく必要性が示された。