[0039] 急性期脳卒中患者における歩行自立に関連する因子について
キーワード:急性期, 脳卒中, 歩行自立
【はじめに,目的】
脳血管障害は,要介護者における介護が必要になった要因の第1位とされ,脳卒中後の身体機能の障害,活動制限,参加制約は,脳卒中患者自身と患者を取り巻く人々の生活に影響を与えている。特に,自立歩行の獲得は,ICFにおける活動や参加といった地域社会とのつながりを制限することに結びつくことが想定される。そのため,歩行自立の獲得はQOLの面からも重要な課題であると言える。急性期病院では,動作能力の予後を早期に予測することは,ゴール設定や退院や転院の決定などに重要であり,簡便かつ安全に実施できる指標が必要となる。特に医学的管理の面から,安静度を制限されている場合には,臥床状態であっても予測できる指標は有用性が高いと考えられる。そこで,本研究の目的は,急性期病院に入院された脳卒中患者に対して初期評価のデータから退院時の歩行自立に関連する因子を明らかにすることとした。
【方法】
対象は,2013年6月から10月までに入院された脳卒中患者63名(女性22名,男性41名,平均年齢71±15.0歳)とした。予め小児と意識障害を有し評価ができない者は除外した。測定項目は,NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale),Barthel Index(BI),Br.stage(上肢・手指・下肢),Trunk Control Test(TCT),意欲の指標であるVitality Index(VI)として,初期評価と退院時評価を行った。なお,NIHSSの四肢麻痺の評価は右上肢と左上肢を足した値を上肢機能,右下肢と左下肢を足した値を下肢機能,TCTの麻痺側への寝返りと非麻痺側への寝返りを足した値を寝返り能力として扱った。歩行の群分けは,退院時のBIの移動が15点の者を歩行自立群(39名),その他を歩行自立不可群(24名)とした。統計学的分析は,入院時の年齢(カテゴリー化を行い,59歳以下,60-69歳,70-79歳,80-89歳,90-99歳に分類した),初期評価時のNIHSS,上肢機能,下肢機能,Br.stage,TCT,寝返り能力,VIに対してspearmanの順位相関係数を行い,多重共線性を考慮して,|r|≦0.9となる変数の一方を測定の簡便性の観点から削除した。その後,歩行の自立度を従属変数として尤度比による変数増加法にてロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。
【結果】
相関係数の分析より,多重共線性を考慮してNIHSSの合計点数,Br.stageの手指,TCTの合計点数を削除した。抽出された変数は,NIHSSの上肢機能,下肢機能,上肢と下肢のBr.stage,寝返り能力,年齢であった。ロジスティック回帰分析の結果,自立歩行獲得に関連する因子並びにオッズ比は,寝返り能力1.09(95%CI:1.03-1.16),年齢0.26(95%CI:0.01-0.69),VI1.62(95%CI:0.99-2.67)であった。Χ2検定の結果はp<0.05で有意であり,寝返り能力と年齢は有意(p<0.05)であったが,VIはp=0.055であった。VIは有意ではないが,関連因子として妥当であると判断し採用した。判別的中率は,87.1%であった。なお,予測式は,-2.3+VI×0.48+寝返り能力×0.1-1.3×年齢となった。
【考察】
本研究の結果より,退院時の歩行自立を関連する因子として,寝返り能力,年齢,VIが抽出された。そのため,医学的管理等による臥床状態においても評価が可能である指標を用いて歩行自立に関連する因子を,高い判別的中率で抽出することができた。まず,年齢と体幹機能の指標とした寝返り能力は,先行研究より歩行獲得に関連する因子として示されており,妥当な結果であると考えられる。また,脳卒中患者は高次脳機能障害を生じることが多く,行動の動機からその行動を説明することが難しいため,観察方式のVIは脳卒中患者の意欲を測るために用いることが可能であると考えられる。ただし,行動ではなく質問によって回答を得ていた場合も含まれており,今後,評価する時期を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従来,運動機能面を中心に予後予測式が考案されてきたが,心理面の評価であるVIが抽出されたことは重要な点である。その理由は,疾患自体の影響や脳卒中後の鬱状態,将来への不安といった心理状態が行動意欲に影響を与え,歩行獲得に関連する因子として示唆されたからである。本研究は,運動機能面に対する理学療法のみならず心理面や生活習慣等を考慮し,行動意欲を高める脳卒中理学療法の必要性を示唆した点に意義がある。
脳血管障害は,要介護者における介護が必要になった要因の第1位とされ,脳卒中後の身体機能の障害,活動制限,参加制約は,脳卒中患者自身と患者を取り巻く人々の生活に影響を与えている。特に,自立歩行の獲得は,ICFにおける活動や参加といった地域社会とのつながりを制限することに結びつくことが想定される。そのため,歩行自立の獲得はQOLの面からも重要な課題であると言える。急性期病院では,動作能力の予後を早期に予測することは,ゴール設定や退院や転院の決定などに重要であり,簡便かつ安全に実施できる指標が必要となる。特に医学的管理の面から,安静度を制限されている場合には,臥床状態であっても予測できる指標は有用性が高いと考えられる。そこで,本研究の目的は,急性期病院に入院された脳卒中患者に対して初期評価のデータから退院時の歩行自立に関連する因子を明らかにすることとした。
【方法】
対象は,2013年6月から10月までに入院された脳卒中患者63名(女性22名,男性41名,平均年齢71±15.0歳)とした。予め小児と意識障害を有し評価ができない者は除外した。測定項目は,NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale),Barthel Index(BI),Br.stage(上肢・手指・下肢),Trunk Control Test(TCT),意欲の指標であるVitality Index(VI)として,初期評価と退院時評価を行った。なお,NIHSSの四肢麻痺の評価は右上肢と左上肢を足した値を上肢機能,右下肢と左下肢を足した値を下肢機能,TCTの麻痺側への寝返りと非麻痺側への寝返りを足した値を寝返り能力として扱った。歩行の群分けは,退院時のBIの移動が15点の者を歩行自立群(39名),その他を歩行自立不可群(24名)とした。統計学的分析は,入院時の年齢(カテゴリー化を行い,59歳以下,60-69歳,70-79歳,80-89歳,90-99歳に分類した),初期評価時のNIHSS,上肢機能,下肢機能,Br.stage,TCT,寝返り能力,VIに対してspearmanの順位相関係数を行い,多重共線性を考慮して,|r|≦0.9となる変数の一方を測定の簡便性の観点から削除した。その後,歩行の自立度を従属変数として尤度比による変数増加法にてロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。
【結果】
相関係数の分析より,多重共線性を考慮してNIHSSの合計点数,Br.stageの手指,TCTの合計点数を削除した。抽出された変数は,NIHSSの上肢機能,下肢機能,上肢と下肢のBr.stage,寝返り能力,年齢であった。ロジスティック回帰分析の結果,自立歩行獲得に関連する因子並びにオッズ比は,寝返り能力1.09(95%CI:1.03-1.16),年齢0.26(95%CI:0.01-0.69),VI1.62(95%CI:0.99-2.67)であった。Χ2検定の結果はp<0.05で有意であり,寝返り能力と年齢は有意(p<0.05)であったが,VIはp=0.055であった。VIは有意ではないが,関連因子として妥当であると判断し採用した。判別的中率は,87.1%であった。なお,予測式は,-2.3+VI×0.48+寝返り能力×0.1-1.3×年齢となった。
【考察】
本研究の結果より,退院時の歩行自立を関連する因子として,寝返り能力,年齢,VIが抽出された。そのため,医学的管理等による臥床状態においても評価が可能である指標を用いて歩行自立に関連する因子を,高い判別的中率で抽出することができた。まず,年齢と体幹機能の指標とした寝返り能力は,先行研究より歩行獲得に関連する因子として示されており,妥当な結果であると考えられる。また,脳卒中患者は高次脳機能障害を生じることが多く,行動の動機からその行動を説明することが難しいため,観察方式のVIは脳卒中患者の意欲を測るために用いることが可能であると考えられる。ただし,行動ではなく質問によって回答を得ていた場合も含まれており,今後,評価する時期を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従来,運動機能面を中心に予後予測式が考案されてきたが,心理面の評価であるVIが抽出されたことは重要な点である。その理由は,疾患自体の影響や脳卒中後の鬱状態,将来への不安といった心理状態が行動意欲に影響を与え,歩行獲得に関連する因子として示唆されたからである。本研究は,運動機能面に対する理学療法のみならず心理面や生活習慣等を考慮し,行動意欲を高める脳卒中理学療法の必要性を示唆した点に意義がある。