[0042] 歩行中の障害物回避のためのプロアクティブ姿勢制御戦略に関する基礎的研究
Keywords:姿勢制御, 反応時間, 方向転換
【目的】
近年,高齢者の転倒が介護サービスや医療経済の視点から問題視されている。特に認知症患者における徘徊中の転倒は,探索活動や周囲への注意の転移に伴う身体活動への注意の消失が要因と考えられる。バランス機能における予期的制御(プロアクティブ姿勢制御戦略)の観点から歩行中の障害物回避の基礎となる方向転換運動の発現について,方向転換指示刺激から姿勢変化までの応答時間を計測し検討した。
【方法】
被験者は,本学学生健常男子10名,平均年齢21.9歳,平均身長172.3m,平均体重62.2Kgであった。方向転換動作の測定は,10m歩行路を4-5m程度の定常歩行後,方向指示刺激装置(KKイリスコ社)により進行方向を提示し,対象者がその方向へ素早く方向転換し,そのときの方向転換刺激(矢印ランプ)点灯から頭部・肩甲帯・腰部が回転するまでの潜時を頭頂部・第7頸椎部,第5腰椎部の3カ所に貼付した多機能慣性センサ(ATR社;TSND121)にて計測した。方向転換刺激(方向指示矢印ランプ)と多機能慣性センサの同期は,両足底にフットスイッチを貼付し,右の足部踵接地時に方向転換刺激(矢印ランプ)を点灯させ,同時に同期用多機能センサに磁気刺激を送信し,身体に貼付した多機能センサ3個と同期した。方向指示は左右,直進の3方向各5回,計15回実施した。また,頭部回旋運動潜時の基準値として静止椅子座位と静止立位において,方向転換刺激から頭部の回旋運動が起こるまでの潜時を計測した。サンプリング周波数は100Hzとし,多機能慣性センサのデータは移動平均法(10区間)を用い処理した。統計処理は一元配置多重比較を行い有意水準5%とし,SPSSで処理した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,本大学倫理委員会の承認の下(承認番号25048),各被験者には研究の詳細を口頭で説明し書面にて同意を得た。
【結果】
(1)椅子座位と立位における方向転換刺激から頭部の回旋運動までの潜時について 静止椅子座位及び静止立位における頭部の回旋運動までの潜時は,それぞれ平均274.3 msec(SD 36.0),平均260.5msec(SD 14.4)で,立位が椅子座位に比べ有意に速かった(p<0.05)。(2)歩行中の歩行変換動作における頭部・肩甲帯・腰部回旋運動までの潜時について ①右方向転換時の潜時は,頭部が平均352.9msec(SD 37.6),肩甲帯が平均339.3msec(SD 27.1),腰部が平均386.8msec(SD71.4)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。②左方向転換時の潜時は,頭部が平均317.6msec(SD40.1),肩甲帯が平均376.1msec(SD 39.7),腰部が平均519.2msec(SD38.5)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。(3)椅子座位・立位と歩行中の頭部回旋運動までの潜時について 頭部回旋運動の潜時は,歩行時が静止姿勢に比べ遅延していた(p<0.05)。
【考察】
静止姿勢に比べ歩行中の反応時間の遅延は,歩行中の方向転換課題においても注意需要を反映することが確認できた。歩行中の方向転換動作における定位は,視線・頭部・躯幹の順位で行われると報告されているが,本研究の結果においては,頭部・躯幹の順序性に加え肩甲帯・腰部という体幹のねじれ運動を確認できた。また,左右の方向転換の潜時の違いは,右踵接地時に方向指示ランプが点灯するため,支持脚側へ方向転換する場合と遊脚側へ方向転換する場合の運動戦略発起までの処理の違いが反映していると考えられる。本課題においては,支持脚(右方向)側への方向転換開始潜時が逆方向に比べ遅延していた。支持脚(右方向)への方向転換動作は歩行中の支持基底の左右の範囲を逸脱する運動戦略をとることが要求され,より高度なバランス機能が要求されることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,理学療法におけるプロアクティブ姿勢制御の評価と治療に関連する基礎的資料となる。
近年,高齢者の転倒が介護サービスや医療経済の視点から問題視されている。特に認知症患者における徘徊中の転倒は,探索活動や周囲への注意の転移に伴う身体活動への注意の消失が要因と考えられる。バランス機能における予期的制御(プロアクティブ姿勢制御戦略)の観点から歩行中の障害物回避の基礎となる方向転換運動の発現について,方向転換指示刺激から姿勢変化までの応答時間を計測し検討した。
【方法】
被験者は,本学学生健常男子10名,平均年齢21.9歳,平均身長172.3m,平均体重62.2Kgであった。方向転換動作の測定は,10m歩行路を4-5m程度の定常歩行後,方向指示刺激装置(KKイリスコ社)により進行方向を提示し,対象者がその方向へ素早く方向転換し,そのときの方向転換刺激(矢印ランプ)点灯から頭部・肩甲帯・腰部が回転するまでの潜時を頭頂部・第7頸椎部,第5腰椎部の3カ所に貼付した多機能慣性センサ(ATR社;TSND121)にて計測した。方向転換刺激(方向指示矢印ランプ)と多機能慣性センサの同期は,両足底にフットスイッチを貼付し,右の足部踵接地時に方向転換刺激(矢印ランプ)を点灯させ,同時に同期用多機能センサに磁気刺激を送信し,身体に貼付した多機能センサ3個と同期した。方向指示は左右,直進の3方向各5回,計15回実施した。また,頭部回旋運動潜時の基準値として静止椅子座位と静止立位において,方向転換刺激から頭部の回旋運動が起こるまでの潜時を計測した。サンプリング周波数は100Hzとし,多機能慣性センサのデータは移動平均法(10区間)を用い処理した。統計処理は一元配置多重比較を行い有意水準5%とし,SPSSで処理した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,本大学倫理委員会の承認の下(承認番号25048),各被験者には研究の詳細を口頭で説明し書面にて同意を得た。
【結果】
(1)椅子座位と立位における方向転換刺激から頭部の回旋運動までの潜時について 静止椅子座位及び静止立位における頭部の回旋運動までの潜時は,それぞれ平均274.3 msec(SD 36.0),平均260.5msec(SD 14.4)で,立位が椅子座位に比べ有意に速かった(p<0.05)。(2)歩行中の歩行変換動作における頭部・肩甲帯・腰部回旋運動までの潜時について ①右方向転換時の潜時は,頭部が平均352.9msec(SD 37.6),肩甲帯が平均339.3msec(SD 27.1),腰部が平均386.8msec(SD71.4)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。②左方向転換時の潜時は,頭部が平均317.6msec(SD40.1),肩甲帯が平均376.1msec(SD 39.7),腰部が平均519.2msec(SD38.5)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。(3)椅子座位・立位と歩行中の頭部回旋運動までの潜時について 頭部回旋運動の潜時は,歩行時が静止姿勢に比べ遅延していた(p<0.05)。
【考察】
静止姿勢に比べ歩行中の反応時間の遅延は,歩行中の方向転換課題においても注意需要を反映することが確認できた。歩行中の方向転換動作における定位は,視線・頭部・躯幹の順位で行われると報告されているが,本研究の結果においては,頭部・躯幹の順序性に加え肩甲帯・腰部という体幹のねじれ運動を確認できた。また,左右の方向転換の潜時の違いは,右踵接地時に方向指示ランプが点灯するため,支持脚側へ方向転換する場合と遊脚側へ方向転換する場合の運動戦略発起までの処理の違いが反映していると考えられる。本課題においては,支持脚(右方向)側への方向転換開始潜時が逆方向に比べ遅延していた。支持脚(右方向)への方向転換動作は歩行中の支持基底の左右の範囲を逸脱する運動戦略をとることが要求され,より高度なバランス機能が要求されることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,理学療法におけるプロアクティブ姿勢制御の評価と治療に関連する基礎的資料となる。