第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (基礎)

座長:齊藤展士(北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野)

基礎 ポスター

[0043] 異なる周波数のGaze Stability Exerciseが健常成人のバランス能力に及ぼす影響

屋敷美紀子1, 岡真一郎1, 森本浩之2 (1.国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科, 2.水谷病院リハビリテーション科)

キーワード:Gaze Stability Exercise, バランス能力, 前庭眼反射

【はじめに,目的】
前庭リハビリテーションの一つであるGaze Stability Exercise(GSE)は,前庭機能障害や外傷性頚部症候群患者に対して用いられており,2.0Hzで実施されている。一方で,動体視力の評価であるGaze Stabilization Test(GST)において,健常成人の動体視力は140deg/sec(1.0Hz),歩行中が90deg/sec(0.65Hz)と報告されている(Bryan et al,2010)。めまい,ふらつきに対する順応の促通には多様な条件での刺激が推奨されているが,周波数1.0Hzおよび0.65HzのGSEが姿勢制御に及ぼす影響についての報告は少ない。本研究の目的は,異なる周波数におけるGSEがバランス能力に及ぼす影響について調査することとした。
【方法】
対象は健常成人10名(男性5名,女性5名,平均年齢21.4±0.5歳)とした。前庭眼反射の検査は,Gaze Stabilization Test(GST)を行った。GSTは,加速度計(小型無線ハイブリッドセンサIIWAA-010,ワイヤレステクノロジー)を使用し,サンプリング周波数1kHzで測定した。対象者には,加速度計を頭頂部に固定し,目線の1m前方に設置されたパーソナルコンピュータ(PC)のランドル環の方向を回答しながら,できるだけ早く頭部回旋するよう指示した。GSTの頭部回旋は,左右35°となるよう調整した。測定値は,課題施行中のyaw方向の角速度を50Hzから100Hzのlow pass filter処理および全波整流後の平均値を算出した。バランス能力の検査は,重心動揺計Twin gravicoder 6100(ANIMA)を用い,バランスパッド(AIREX)上での重心動揺検査を行った。測定条件は,開眼および閉眼での閉脚立位とし,測定時間を60秒とした。プロトコールは,2.0Hz,1.0Hzおよび0.65HzにおけるGSEを立位で1分行い,それぞれGSE実施前および実施後10分に重心動揺検査を行った。統計解析は,SPSS Statistics 21.0(IBM)を使用し,GSTとGSE前の総軌跡長との関係はPearson積率相関分析,GSE前後の総軌跡長の比較には対応のあるt検定用い,有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認(11-185)を得た後,対象者には事前に研究内容を説明し,書面にて同意を得た上で実施した。
【結果】
GSTは,148.7±27.2deg/secであり,閉眼時の総軌跡長と有意な負の相関があった(r=-0.46,p<0.05)。GSE前後の総軌跡長は,GSE2.0Hzの開眼では143.7±37.8cmから129.7±33.4cm(p<0.01),閉眼では293.6±77.6cmから257.9±62.2cmと有意に短縮した(p<0.05)。GSE1.0Hzの開眼では,124.8±32cmから130.2±37.3cm,閉眼では268.3±70cmから255.9±65.1cmと有意差が認められなかった。GSE0.65Hzの開眼では129.2±43cmから126.8±40.2cmと有意差は認められず,閉眼では272.7±68.4cmから251.2±73.4と有意に短縮した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,GSTはバランスパッド上での閉眼立位と負の相関があった。閉眼でのバランスパッド上の立位は,視覚情報の遮断,床反力低下による体性感覚情報低下により,前庭覚への依存度が高まるとされている。そのため,GSTは前庭機能を評価できる可能性がある。GSE2.0Hzの開眼,閉眼およびGSE0.65Hzの閉眼で重心動揺が短縮し,GSE1.0Hzでは変化がなかった。GSEによる前庭機能の向上は,頭部回旋運動により生じた網膜上の像のずれ(retinal slip)を中枢前庭系による機能的代償(前庭代償)の働きにより起きるとされている。また,先行研究において,GSEは前庭眼反射の最高周波数である2.0Hzで行われており,本研究におけるGSE2.0Hzでの総軌跡長の短縮は先行研究と同様の結果となった。GSE1Hzでは,開眼,閉眼とも総軌跡長の変化はなかった。健常成人の動体視力は140deg/sec(1.0Hz)であり,また前庭代償は,網膜像のずれが小さい刺激では起こりにくいとされていることから,GSE1.0Hzの刺激ではretinal slipが起こりにくく,前庭代償が誘発されなかったと推察される。GSE0.65Hz後の総軌跡長は,開眼では変化がなかったが,閉眼では有意に短縮した。先行研究では,90deg/sec(0.65Hz)の一定速度の視運動性刺激がretinal slipを引き起こすことから,GSE0.65Hzは閉眼時のバランス能力を高めることが示唆された。また,視覚情報による姿勢制御の周波数帯域は0.7Hz程度あり(中川ら,1991),GSE0.65Hzと近似した値であった。そのため,GSE0.65Hz後の閉眼時の姿勢制御は,前庭機能が視覚情報の欠如を補ったと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,GSE2.0HzおよびGSE0.65Hzはバランス能力を高めることが示唆された。GSE0.65Hzは,姿勢制御において視覚依存性が強く,視力低下が起こる高齢者への影響について検討する。