[0056] VATS術後患者におけるハーフカットポールを用いた運動が胸郭可動性に与える影響
Keywords:肺切除術後, 胸郭可動性, ハーフカットポール
【はじめに,目的】
肺癌の摘出術はビデオ胸腔鏡下手術(video-assisted thoracic surgery VATS)が主流となり,入院期間も短縮されてきた。一般的に理学療法では手術前から,術後肺合併症の予防目的に介入しており,なかでも手術後は残存肺を再拡張させるため,深呼吸を行われている。しかし手術後は呼吸機能の低下がみられ,その要因の一つに胸郭可動性低下が挙げられているものの,その改善を目的とした運動介入についての報告はほとんど見られない。
そこで,今回我々はVATS肺葉切除術および肺部分切除術後において胸郭可動性の再獲得に向けた運動として,ハーフカットポール(HCポール)を用いたストレッチ運動(運動)が,胸郭可動性を改善させることができるのかを検証することを目的とした。
【方法】
対象は平成25年4月から同年9月の期間に,VATS肺葉切除術および肺部分切除術後を施行した患者25名(男性16名 女性9名 平均年齢73.8±7.3歳)を対象とした。取込基準は,胸腔ドレーンが抜去され,血圧,脈拍,酸素化が安定している方とした。運動は胸腔ドレーンが除去された翌日から退院日は(2日-10日 平均日数5.0±2.2日)で,その間に1回実施した。
方法として,半側臥位(45-60°程度)でHCポールを脊柱に当て,シルベスター法による深呼吸と両上肢のツイスター運動の2種目を各々1分間実施した。尚,ツイスター運動とは,胸郭拡張を目的とし,一側方向へ肩関節90°水平外転位,対側方向へ膝屈曲位にて,肩甲帯と骨盤帯を反対方向に回旋させる運動である。
評価項目および計測方法について,①胸郭拡張差はテープメジャーを使用して腋窩と剣状突起,第10肋骨レベルの3部位について3回測定し,平均値を測定した。②呼吸機能として肺活量,努力性肺活量,1秒量,1秒率の4項目を測定した。③深呼吸のしやすさの自己評価(深呼吸)はVASに準じて,10cmの線上に印をつけてもらい数値化した。胸郭拡張差の測定は手術前および術後のHCポールによる運動前後の計3回(術前,術後運動前,術後運動後)行った。呼吸機能と深呼吸の評価は術後運動前後の計2回行った。
統計学的処理について,①胸郭拡張差は3部位を比較するために,測定時期と測定部位の2要因とする2元配置分散分析および多重比較,②呼吸機能の各項目は,1元配置分散分析および多重比較,③深呼吸の自覚症状は運動前後で対応のあるt検定を実施した。尚,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った。対象者には,,同意を得た。また個人情報保護の観点からも十分に配慮した。
【結果】
胸郭拡張差の3部位は部位:手術前-手術後運動前-手術後運動後)腋窩:41.2±10.6mm-27.6±9.7mm-29.8±8.9mm,剣状突起:52.9±14.5mm-32.7±14.3mm-33.1±13.0mm,第10肋骨:50.9±18.2mm-31.5±14.5mm-33.8±16.1mmであった。術前と術後運動前および後との間で有意に低下していた(p<0.05)。術後の運動前および運動後における腋窩では胸郭可動域の拡大傾向が認められた(p<0.05)が,剣状突起,第10肋骨レベルでは有意差が認められなかった。呼吸機能の4項目は有意差がみられなかった。深呼吸の評価は術後の運動前52.8±7.3mmおよび運動後45.6±9.2mmであり,自覚症状の改善が見られた(p<0.01)。
【考察】
今回,VATS術後における胸郭可動性の改善を目的としてHCポールを用いた運動を実施し,運動前後に腋窩で改善傾向が認められ,自覚症状でも改善傾向であった。腋窩部は上位胸郭にあたり,構造上,下部胸郭よりも可動性の小さい部位であるにもかかわらず,改善傾向を認めたことは興味深い。この要因として,HCポールを使用することで肋椎関節や椎間関節の動きが拡大し,腋窩での胸郭拡張差や自覚症状の改善につながったと考えられた。しかし,呼吸機能の改善には至っておらず,胸郭可動性に対するアプローチの意義について,長期的経過も踏まえて再考していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
HCポールを用いた運動は徒手的な介入を必要としないため治療者の経験や技量の影響をうけにくいこと,背臥位においても,HCポール上に脊柱を乗せるため背側へ胸郭が拡張できることから,下側肺の換気を促すことができるため,周術期における下側肺障害予防の一手段として活用できる可能性があると考える。
肺癌の摘出術はビデオ胸腔鏡下手術(video-assisted thoracic surgery VATS)が主流となり,入院期間も短縮されてきた。一般的に理学療法では手術前から,術後肺合併症の予防目的に介入しており,なかでも手術後は残存肺を再拡張させるため,深呼吸を行われている。しかし手術後は呼吸機能の低下がみられ,その要因の一つに胸郭可動性低下が挙げられているものの,その改善を目的とした運動介入についての報告はほとんど見られない。
そこで,今回我々はVATS肺葉切除術および肺部分切除術後において胸郭可動性の再獲得に向けた運動として,ハーフカットポール(HCポール)を用いたストレッチ運動(運動)が,胸郭可動性を改善させることができるのかを検証することを目的とした。
【方法】
対象は平成25年4月から同年9月の期間に,VATS肺葉切除術および肺部分切除術後を施行した患者25名(男性16名 女性9名 平均年齢73.8±7.3歳)を対象とした。取込基準は,胸腔ドレーンが抜去され,血圧,脈拍,酸素化が安定している方とした。運動は胸腔ドレーンが除去された翌日から退院日は(2日-10日 平均日数5.0±2.2日)で,その間に1回実施した。
方法として,半側臥位(45-60°程度)でHCポールを脊柱に当て,シルベスター法による深呼吸と両上肢のツイスター運動の2種目を各々1分間実施した。尚,ツイスター運動とは,胸郭拡張を目的とし,一側方向へ肩関節90°水平外転位,対側方向へ膝屈曲位にて,肩甲帯と骨盤帯を反対方向に回旋させる運動である。
評価項目および計測方法について,①胸郭拡張差はテープメジャーを使用して腋窩と剣状突起,第10肋骨レベルの3部位について3回測定し,平均値を測定した。②呼吸機能として肺活量,努力性肺活量,1秒量,1秒率の4項目を測定した。③深呼吸のしやすさの自己評価(深呼吸)はVASに準じて,10cmの線上に印をつけてもらい数値化した。胸郭拡張差の測定は手術前および術後のHCポールによる運動前後の計3回(術前,術後運動前,術後運動後)行った。呼吸機能と深呼吸の評価は術後運動前後の計2回行った。
統計学的処理について,①胸郭拡張差は3部位を比較するために,測定時期と測定部位の2要因とする2元配置分散分析および多重比較,②呼吸機能の各項目は,1元配置分散分析および多重比較,③深呼吸の自覚症状は運動前後で対応のあるt検定を実施した。尚,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った。対象者には,,同意を得た。また個人情報保護の観点からも十分に配慮した。
【結果】
胸郭拡張差の3部位は部位:手術前-手術後運動前-手術後運動後)腋窩:41.2±10.6mm-27.6±9.7mm-29.8±8.9mm,剣状突起:52.9±14.5mm-32.7±14.3mm-33.1±13.0mm,第10肋骨:50.9±18.2mm-31.5±14.5mm-33.8±16.1mmであった。術前と術後運動前および後との間で有意に低下していた(p<0.05)。術後の運動前および運動後における腋窩では胸郭可動域の拡大傾向が認められた(p<0.05)が,剣状突起,第10肋骨レベルでは有意差が認められなかった。呼吸機能の4項目は有意差がみられなかった。深呼吸の評価は術後の運動前52.8±7.3mmおよび運動後45.6±9.2mmであり,自覚症状の改善が見られた(p<0.01)。
【考察】
今回,VATS術後における胸郭可動性の改善を目的としてHCポールを用いた運動を実施し,運動前後に腋窩で改善傾向が認められ,自覚症状でも改善傾向であった。腋窩部は上位胸郭にあたり,構造上,下部胸郭よりも可動性の小さい部位であるにもかかわらず,改善傾向を認めたことは興味深い。この要因として,HCポールを使用することで肋椎関節や椎間関節の動きが拡大し,腋窩での胸郭拡張差や自覚症状の改善につながったと考えられた。しかし,呼吸機能の改善には至っておらず,胸郭可動性に対するアプローチの意義について,長期的経過も踏まえて再考していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
HCポールを用いた運動は徒手的な介入を必要としないため治療者の経験や技量の影響をうけにくいこと,背臥位においても,HCポール上に脊柱を乗せるため背側へ胸郭が拡張できることから,下側肺の換気を促すことができるため,周術期における下側肺障害予防の一手段として活用できる可能性があると考える。