第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (内部障害)

座長:俵祐一(済生会長崎病院リハビリテーション部)

内部障害 ポスター

[0057] 生体肺移植術後急性期における脊柱起立筋横断面積の減少について

大島洋平1, 長谷川聡2, 玉木彰3, 陳豊史1, 伊達洋至1, 佐藤晋1, 柿木良介1, 松田秀一1 (1.京都大学医学部附属病院, 2.京都大学大学院医学研究科, 3.兵庫医療大学大学院医療科学研究科)

キーワード:肺移植, 急性期, 筋萎縮

【はじめに,目的】近年,重症患者における全身的な筋力低下(ICU-AW)が注目されている。ICU-AWの発症は,死亡率の上昇,人工呼吸器装着期間およびICU在室期間の延長などを招く可能性がある。肺移植の術後ICU管理においては体外循環や人工呼吸器管理,鎮静管理を必要とする場合が多く,潜在的にICU-AWを発症している症例も少なくないと思われるが,その診断は容易ではない。当院における肺移植術後は,ICU-AWの発症を想定して,離床を主体とした呼吸リハを術後早期から開始し,人工呼吸器の早期離脱,術後呼吸器合併症の予防に向けての介入を行っているが,その介入プログラムについては現在も模索段階にある。過去のデータでは,肺移植術後3ヶ月では術前より呼吸機能の改善を認めるが下肢筋力はむしろ低下傾向にあり,骨格筋の機能は他の機能よりも回復が遷延することが明らかとなった。そこで本研究では,肺移植術後の骨格筋機能低下に着目し,胸部CT画像を用いて骨格筋断面積を定量評価し,術後急性期での筋萎縮の程度を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は当院にて生体肺移植を施行した44例のうち,年齢が16歳以上で,かつ一般診療内で手術前1ヶ月以内と手術後1ヶ月以内での胸部CTを撮影している19例を解析対象とした。なお,19例(男性10例)の平均年齢は50.3±11.9歳,平均身長は161.4±5.8cm,術前平均BMIは18.6±3.6,原疾患は間質性肺炎11例,閉塞性細気管支炎6例,気管支拡張症2例であった。調査項目は,術前と術後3ヶ月での体重,肺機能(%VC,酸素投与の有無),運動機能(等尺性膝伸展筋力,6MWD),術後経過として人工呼吸器装着日数,ICU在室日数,在院日数,初回端坐位までの日数,初回歩行までの日数とし,さらに手術1ヶ月以内および手術後1ヶ月以内において抗重力筋の一つである脊柱起立筋の断面積を胸部CT画像上で評価した。なお,脊柱起立筋の断面積の算出は,画像解析ソフト(AquariusNET Viewer V4.4.7.47)を使用し,Th12椎体下縁の高位において3回計測した平均値を求めた。検討事項は,手術前後での各パラメータを対応のあるt検定で比較し,さらに術後1日当たりの脊柱起立筋断面積の変化率を算出した。なお,各検定は有意水準5%未満を統計学的に有意と判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者において診療データを研究目的で使用することがある旨を手術前に説明し,同意を得た。また,すべてのデータは一般診療内から採取し,個人が特定できないように配慮し,保管は厳重に行った。
【結果】術後ICU在室日数は平均11.7±4.7日,術後在院日数は平均81.3±18.3日,術後人工呼吸器装着日数は平均15.4±7.1日であり,術後初回端坐位までの日数は平均5.2±2.9日,術後初回歩行までの日数は平均13.2±6.9日であった。体重は術前平均48.6±11.0kg,術後3ヶ月平均45.2±8.8kgであり,術前と比較して術後3ヶ月では有意な減少を認めた。%VCは術前平均44.8±14.3%,術後平均53.9±18.3%であり,術前と比較して術後3ヶ月では有意な改善を認めた。術前は全例酸素投与有りであったが,術後3か月では全例日中の酸素投与は無しであった。等尺性膝伸展筋力は術前平均337.4±150.1N,術後平均296.1±130.0Nであり,術前後で有意差を認めなかった(p=0.07)。6MWDは術前平均229.8±95.6m,術後平均439.8±112.8mであり,術前と比較して術後3ヶ月で有意な改善を認めた。脊柱起立筋の断面積は術前1323.4±335.6mm平方,術後1148.4±255.7mm平方(術後CT撮影日は術後平均19.2±5.7日)であり,術前と比較して術後は有意な減少を認め,術後1日当たりの減少率は0.7±0.5%であった。
【考察】肺移植後は術後3ヶ月で肺機能が改善するにも関わらず下肢筋力は回復が遅延しており,これまでの報告と一致する結果であった。6MWDは術後3ヶ月で大幅に改善していたが,これは主に肺機能の改善によるものと考えられた。抗重力筋の一つである脊柱起立筋の断面積は術後3週以内で術前よりも有意に減少し,術後1日当たり平均0.7%の減少率であった。当院では,術後早期から離床を中心としたリハビリテーション介入を行い,骨格筋機能低下の予防に努めているにも関わらず,健常者を対象とした多くのベッドレスト研究と比較しても筋萎縮は同等かそれ以上の減少率であり,肺移植後の急性期においては廃用性以外の要因(たとえば炎症,低栄養,高血糖,鎮静剤など)が筋萎縮に関与している可能性が示唆された。今後は,急性期の筋萎縮と術後経過との関連をさらに調査していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】肺移植術後急性期は通常のベッドレストによる廃用性筋萎縮と同等かそれ以上に筋萎縮が進行している可能性があることを定量的に実証した点で意義がある。