[0059] 要支援者の認定状況の悪化に関連する要因の分析
Keywords:介護保険, 介護予防, 要介護認定
【はじめに,目的】
介護保険法には,予防の重要性が謳われている。しかし,同制度開始以来,要支援・要介護認定者数は増加の一途をたどり,2006年には予防重視型へと制度の見直しが実施された。その際の議論において,軽度者の増加が特に著しいことが指摘された。また,どのような対象にどのようなサービスを提供すれば,状態の改善に効果があるのかが整理されていないことや,軽度者への既存のサービスが心身の状態の改善につながっていないとの指摘があった。本研究では,介護予防ケアマネジメントに生かすために,要支援者の認定状況の変化を追跡し,どのような状況の高齢者が要介護認定の悪化につながりやすいのかを検討した。
【方法】
東京都A市において2007年2月~2009年3月の間に認定審査を受け要支援1または2の認定を受けた650名のうち,次の認定結果の追跡ができた488名(男性155名,女性333名,平均年齢81.0±7.0歳)を対象とした。本研究では,要介護認定の見直しの際に,認定が同じもしくは軽度化した者を「維持・改善群」とし,認定が悪化した者を「悪化群」と定義した。調査項目は,基本属性として「年齢」,「性別」,「Body Mass Index(以下BMI)」,既往症として,「脳血管疾患」,「心疾患」,「認知症」,「うつ病」,「高脂血症」などの有無,また,身体状況として「麻痺」,「筋力低下」,「関節可動域制限」,「関節痛」などの有無,社会環境要因として,「同居者の有無」,「外出頻度」,「介護予防通所介護の利用の有無」などを抽出した。前述の調査項目を「維持・改善群」と「悪化群」で,対応のないt検定やχ2乗検定などを用いて比較検討した。統計的有意水準は,いずれも危険率5%未満とし,統計解析にはSPSS Statistics(IBM社製)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に当たっては,A市の許可および所属機関の研究倫理審査委員会に倫理審査を付託し承認を得たうえで実施した。本調査にあたっては学術目的のみに使用することとし,個人の氏名や住所などの個人情報が除外された資料を用いた。
【結果】
488名のうち,「維持・改善群」が266名(54.5%),「悪化群」が222名(45.5%)であった。「年齢」は悪化群で有意に高く,「性別」では男性において悪化群が有意に多かった。また,「BMI」には有意差は認められなかった。既往症では,「脳血管疾患」や「心疾患」の有無では有意差を認めなかったが,「認知症」,「うつ病」,「視覚障害」の有無で,有りの者が有意に悪化群が多かった。一方で,「高脂血症」の有無では,「高脂血症有り」の者のほうが悪化群が有意に少ないという逆の結果になった。身体状況では,「麻痺」,「関節可動域制限」,「関節痛」の有無では有意差が認められなかったが,「筋力低下」の有無では,筋力の低下がある者のほうが悪化群が有意に多かった。社会環境因子では,「同居者の有無」,「外出頻度」では有意差はなく,「介護予防通所介護の利用の有無」では,利用有の者の方が悪化群が有意に多かった。
【考察】
本研究では,要支援者の認定悪化につながる心身の状況について分析した。これまで言われている通り,既往では「認知症」や「うつ病」といった高齢期に頻発する疾患が悪化につながりやすいことが明らかとなった。つまり,これらの疾患の予防対策あるいは治療が悪化を防ぐ手立てとして重要であると言える。また,特筆すべきは,高脂血症が有る者の方が悪化率が低い事である。高齢期には,低栄養が状態の悪化につながると指摘されている点と齟齬がない結果になったと考えられる。また,身体状況では,筋力の低下が悪化につながることが示唆され,運動器の機能向上によって,身体機能の改善を図ることが悪化予防につながることが示唆された。介護予防通所介護の利用者の方が悪化率が高い結果となったが,これは軽度者の中でも比較的元気な者は元々サービスを利用しない例が多いことや,一度サービスを利用し始めるとより利用の頻度を高めるために,重度の認定に移行しやすことなどが影響している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
現在(2013年),要支援者については,介護保険の利用が制限される,もしくは利用ができなくなる可能性が出てきている。それら対象への支援は,介護保険制度から自治体事業に移行する可能性がある。本研究からは,増加する一途の軽度者について,どのような状況の対象が要介護認定の悪化につながりやすいのかという情報が得られた。我々理学療法士がそれに対して適切な支援を提供していく必要がある。また,それらに対する理学療法介入のエビデンスを蓄積し,国や行政にその有用性をアピールしていくことが必要であると考えられる。
介護保険法には,予防の重要性が謳われている。しかし,同制度開始以来,要支援・要介護認定者数は増加の一途をたどり,2006年には予防重視型へと制度の見直しが実施された。その際の議論において,軽度者の増加が特に著しいことが指摘された。また,どのような対象にどのようなサービスを提供すれば,状態の改善に効果があるのかが整理されていないことや,軽度者への既存のサービスが心身の状態の改善につながっていないとの指摘があった。本研究では,介護予防ケアマネジメントに生かすために,要支援者の認定状況の変化を追跡し,どのような状況の高齢者が要介護認定の悪化につながりやすいのかを検討した。
【方法】
東京都A市において2007年2月~2009年3月の間に認定審査を受け要支援1または2の認定を受けた650名のうち,次の認定結果の追跡ができた488名(男性155名,女性333名,平均年齢81.0±7.0歳)を対象とした。本研究では,要介護認定の見直しの際に,認定が同じもしくは軽度化した者を「維持・改善群」とし,認定が悪化した者を「悪化群」と定義した。調査項目は,基本属性として「年齢」,「性別」,「Body Mass Index(以下BMI)」,既往症として,「脳血管疾患」,「心疾患」,「認知症」,「うつ病」,「高脂血症」などの有無,また,身体状況として「麻痺」,「筋力低下」,「関節可動域制限」,「関節痛」などの有無,社会環境要因として,「同居者の有無」,「外出頻度」,「介護予防通所介護の利用の有無」などを抽出した。前述の調査項目を「維持・改善群」と「悪化群」で,対応のないt検定やχ2乗検定などを用いて比較検討した。統計的有意水準は,いずれも危険率5%未満とし,統計解析にはSPSS Statistics(IBM社製)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に当たっては,A市の許可および所属機関の研究倫理審査委員会に倫理審査を付託し承認を得たうえで実施した。本調査にあたっては学術目的のみに使用することとし,個人の氏名や住所などの個人情報が除外された資料を用いた。
【結果】
488名のうち,「維持・改善群」が266名(54.5%),「悪化群」が222名(45.5%)であった。「年齢」は悪化群で有意に高く,「性別」では男性において悪化群が有意に多かった。また,「BMI」には有意差は認められなかった。既往症では,「脳血管疾患」や「心疾患」の有無では有意差を認めなかったが,「認知症」,「うつ病」,「視覚障害」の有無で,有りの者が有意に悪化群が多かった。一方で,「高脂血症」の有無では,「高脂血症有り」の者のほうが悪化群が有意に少ないという逆の結果になった。身体状況では,「麻痺」,「関節可動域制限」,「関節痛」の有無では有意差が認められなかったが,「筋力低下」の有無では,筋力の低下がある者のほうが悪化群が有意に多かった。社会環境因子では,「同居者の有無」,「外出頻度」では有意差はなく,「介護予防通所介護の利用の有無」では,利用有の者の方が悪化群が有意に多かった。
【考察】
本研究では,要支援者の認定悪化につながる心身の状況について分析した。これまで言われている通り,既往では「認知症」や「うつ病」といった高齢期に頻発する疾患が悪化につながりやすいことが明らかとなった。つまり,これらの疾患の予防対策あるいは治療が悪化を防ぐ手立てとして重要であると言える。また,特筆すべきは,高脂血症が有る者の方が悪化率が低い事である。高齢期には,低栄養が状態の悪化につながると指摘されている点と齟齬がない結果になったと考えられる。また,身体状況では,筋力の低下が悪化につながることが示唆され,運動器の機能向上によって,身体機能の改善を図ることが悪化予防につながることが示唆された。介護予防通所介護の利用者の方が悪化率が高い結果となったが,これは軽度者の中でも比較的元気な者は元々サービスを利用しない例が多いことや,一度サービスを利用し始めるとより利用の頻度を高めるために,重度の認定に移行しやすことなどが影響している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
現在(2013年),要支援者については,介護保険の利用が制限される,もしくは利用ができなくなる可能性が出てきている。それら対象への支援は,介護保険制度から自治体事業に移行する可能性がある。本研究からは,増加する一途の軽度者について,どのような状況の対象が要介護認定の悪化につながりやすいのかという情報が得られた。我々理学療法士がそれに対して適切な支援を提供していく必要がある。また,それらに対する理学療法介入のエビデンスを蓄積し,国や行政にその有用性をアピールしていくことが必要であると考えられる。